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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
第二章 「アルビオン王都の秘蔵っ子」編
13/39

13 課題

「さてフィリア、話を聞こうか」

「はひ」


 私が起きていると知ったエマ姉さまがいそいそとマーテル様とクラヴィス様にご注進に戻り、汗をかいた身体をお湯で拭いて着替えを済ませるとすぐに皆がやってきました。


 ヴァレリ姉さまはそのまま残っていて、マーテル様とクラヴィス様はもちろん、なぜか他の正規巫女のクロエ姉さまとイネス姉さまの二人まで揃っています。

 さすがに私の部屋だと狭いので神殿の食堂に移動したのは良いけれど、皆に見つめられてまるで裁判のように椅子に座っている私。


「あらまあフィリア、そんなに畏まらなくていいのよ? クラヴィスももう少し優しい物言いになさいな」


 マーテル様が柔らかい笑みを浮かべて場の雰囲気をとりなしてくれました。

 ああマーテル様! 聖母様っ!


「……これが私の普通ですが」

 クラヴィス様は無表情のままですが、でもひとつため息をついて言い直してくれました。


「フィリアに聞きたいのは、まずはその馬鹿げた祝福だ。祝福祭で何があった?」


 おお! 言葉の強さはあんまり変わってないけど、視線の温度は吹雪から木枯らしぐらいまで緩みました!

 申し訳なさそうな感じでちょろっと暖かさも出てるし、これならちゃんと話せますとも。

 祝福祭で何があったかですよね?


「――ええと、特に何も?」


「…………」


 ひええええ!

 木枯らしなんてウソ! 猛吹雪です!

 答え方間違えましたっ!


 私は必死にひとつひとつ説明していきました。

 祝福祭の時に何かきっかけがあった訳ではないこと、でもその後は、身体の中の蓋が外れたように力が溢れていること。

 ラエティティア様の腕輪が余計な力を吸い取ってくれているような感覚があって、でも完全ではないこと。

 結果として、制御としては以前と同等レベルだけれど、規模が大きくなった分、出てくる祝福と体への反動が大きくなっているっぽいこと。



「……ふむ、そうか」

 私の説明に、クラヴィス様が眉間に皺を寄せて考え込んでいます。

 ほおお、良かった。何とかクリアしたみたいです。


「ではフィリア、力は増えたけれど、ラエティティア様の神具のお陰でバランスは保っている、ということでいいかしら?」


 マーテル様の問いかけに私はこくこくと頷きました。そのとおりです。

 でもそうやって言葉にしてみると、この腕輪がなければ私は大変なことになっていたかも、ということがしみじみと分かります。ラエティティア様には本当に感謝ですね。


「そうね、ラエティティア様がおっしゃっていたことと辻褄は合うわね。やっぱりその腕輪はフィリアを守ってくれているのだわ」


 そう言って、素早くラエティティア様に感謝の祈りを捧げるマーテル様。

 そうですね、私も一緒に祈りを捧げておきましょう。


「……ふむ。ではフィリア、腕輪を外せ」


 へ?

 クラヴィス様、今なんと?

 今は「腕輪大事」、そういう流れだったと思うんですが?


「ああ、取り上げるとかではない。其方自身にとってもその腕輪が大切だということは判った。だが、その腕輪がラエティティア様の神具だという事実は変わらないのだ。邪な動機で欲する者が、其方の事情を斟酌するとはとても思えぬ。なのでこの先、其方と腕輪を守るに当たって、どこまでのことが許されるのか知っておく必要がある」


 クラヴィス様が、食堂の椅子に腰かけたまますっと右手を伸ばし、神官服の袖から僅かに覗く自分の手首に向かってクイっと顎をしゃくりました。

 なんていうか、とても絵になっています。なんでそんなポーズをしているか意味不明ですが、これだからイケメンはずるいですね。


「――例えば、このように人目に触れやすい手首から外して懐にしまっておいても大丈夫なのか、とか。もっと言えば、其方の身から離してどこかに隠しておくというようなことが出来るのか、とかだ。そこを知らねば何も始まらん」


 おおう。そ、そういうことですか……。

 確かにおっしゃるとおりです。こんな神々しい光り物を手首につけっ放しは目立ちますよね。

 ただ、そう言われて外そうと思うとちょっと怖さが沸いてくるというか。

 最近の感覚を思い起こすと、外したらいけないような気がするのですよ。


 ……まあ、やってみないと分かりません。


「で、では、外してみますね……」


 私は深呼吸をして、手首でぼんやりと光を放つ腕輪に慎重に触れてみました。

 クラヴィス様はもちろんマーテル様やエマ姉さま、クロエ姉さまたち全員が、固唾を呑んで見守っています。エマ姉さまやヴァレリ姉さまが心配そうに「無理しなくていいのよ」と口々に言ってくれますが、これは私自身のため。

 金色の霧が音もなく循環しているその神具を左手でひと思いに掴み、ぐりぐりと引っ張って手首から抜き取りました。


 途端に襲う強い眩暈めまい

 口から小さな悲鳴のようなものが零れたかもしれません。

 グラリと傾いた視界が急速に光を失い、その代わりに体の奥底で眠っていた祝福の金色の光が一気に泡立って、それが牙を剝いて――



「もうよいっ!」



 ――気が付くと、机に突っ伏した私に、クラヴィス様が後ろから覆いかぶさっていました。

 その両腕の先には、私の右手首と無理やり嵌め直された腕輪。


 どうやら、一瞬のうちに食堂の机をぐるりと回って、暴走しかけた私をフォローしてくれたようです。


「……すまなかった」


 クラヴィス様が耳元でポツリと呟きました。

 私が身じろぎすると、クラヴィス様からほっとしたような暖かさが堰を切ったように全身を押し包んできます。


 あ、危なかった……。

 頭はぐるぐる、心臓はバクバクです。息も上がってまして、あのままだとちょっとどうなっていたか分かりません。


 これきっと、駆け寄ったクラヴィス様がすぐさま腕輪を嵌めてくれたということでしょうか。

 顔を上げようとすると、いつにない至近距離で、暖かさとは別に大人の男性の仄かな温もりが――


 えええ、あのあの。

 ちょ、ちょっとこの体勢って!


「あ、あの、助かりました、クラヴィス様。……でもその、もう大丈夫というか」


「――ッ!」

 後ろから私に抱きついたような格好だったクラヴィス様が、稲妻のような反応速度で飛び退きました。


 え、ええと、私を助けてくれたんだし、そこまで汚物から逃げるように離れなくても。

 どうせ私はちんちくりんですし、キラキライケメンのクラヴィス様との変な噂がこのメンバーから漏れることはないと思うのです。


 ……瞬時にかき消えてしまった温もりがちょっとだけ残念で、なぜか少し寂しくなったのは秘密ですけど。


「ええと、腕輪は外してはいけない、ということでしょうね」

 咳払いをひとつしたマーテル様が場を取り繕ってくれました。身体は大丈夫?と皆が心配してくれます。


「そうね……そうしたらエマ、できるだけ露出が少なくなるよう、フィリアの巫女服の袖を調整してちょうだい」

 かしこまりました、と一礼をするエマ姉さまににこりと笑いかけ、マーテル様は再び私に向き直りました。


「そしてフィリア、貴女には祝福祭が終わったら巫女見習いとしてみんなに同行してもらうつもりだったのですけれど……。今の祝福を抑えられるようになるまで、もう少し制御の鍛錬ですわね」

「……はい」

「クロエ、ヴァレリ、イネス。皆で手伝ってあげるように」


 はい、マーテル様――姉さまたちからは綺麗に揃った返事が。


 おおう……。

 やっぱりそうなるよね。仕方ない、よね。


 …………。


 早く巫女見習いとして役に立って、姉さまたちの負担を軽くしたかったんだけれど。


 そして、堂々と口にする勇気はないのだけれども。

 あの、祝福祭で見た、喜びに沸くたくさんの人たち。

 早く一人前の巫女となって、いつかあの人たちをもっと喜ばせてあげたい。もっと楽に不安なく生きていけるようにしてあげたい。

 私に出来るか分からないけれど、人と違った私だからこそ、何か出来ることがあるかもしれないから――。


 でも、今は仕方ない、よね。

 突然倒れたりとか、寝込んでばかりじゃ迷惑をかけるだけで逆にマイナスだもの。

 それに、前より祝福の反動が大きいから、どうしても身体の中だけで抑え込むには限界があるし。


 まずは、また制御の練習、だよね。前よりもっと、ほぼ完全に抑え込めるところまでマスターしなきゃ。


 仕方ないよ。少しずつでも進んで行かなきゃ。

 うん、そういうことだよ。頑張ろう、私。



「……それと、フィリア」



 女性陣の輪から一人離れていたままのクラヴィス様が、私の目を見ないままに口を挟んできました。


「ひとつ、提案がある。この間、祝福祭に出掛ける直前に私が行使した術があるだろう。あれを会得できないか?」

「……ええと、あの空っぽの霊力陣を出したやつですか?」

「そう、あれは契約精霊と描いた本物の霊力陣ではない。光を出す精霊術を応用して作った、まやかしの霊力陣だ。精霊と契約していなくとも使える基本の無形術の応用だから、其方でも会得できないことはないだろう」

「は、はあ」


 確かにあれには助けてもらったけれども。

 でも、ええと。

 クラヴィス様に口答えはしたくないけど、でも、今は余計なことを練習している時間が惜しいというか。


「フィリア、よく聞くのだ。身体に負担をかけないところまで祝福を制御できるようになるのは大前提だが、これまでの其方の修練を見ていると、全てを完全に抑え込むのは難しいのであろう? ――ならば、だ。もしあれを自分で出来るようになれば、多少の祝福が漏れる程度なら自力で誤魔化せるようになる。外に出れるのが少し早くなると思うのだが?」


「おおお! それ覚えますっ! 是非ぜひ!」


「修練を重ねて一瞬で作れるようになるまでだぞ? さらに言うと、祝福を堪えて漏れる直前の厳しい状況下で、咄嗟に作れるようにならないと意味がないのだぞ?」


「大丈夫です! きっときっと、今の祝福を完璧に抑えるより大変じゃないです! ありがとうございますクラヴィス様っ!」


「――礼は覚えてからでよい。そもそも、あれは其方がギフテッドだという筋書きと併せ、万が一のために考えてあったものだからな」


 そっぽを向いたままのクラヴィス様ですけど、なんて素敵な提案でしょう!

 きっとこれ、私の将来的なことを前々から考えてくれていた証拠だと思うのですよ。

 もう、本当に優しい人なんだから!


「クラヴィス様、本当にありがとうございますっ!」


 私の魂の叫びに、クラヴィス様は少しだけ照れたように鼻の頭をちょんちょん掻いて、「礼は後でと言っただろう阿呆娘が」とそっぽを向いたまま呟きました。






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