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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
第二章 「アルビオン王都の秘蔵っ子」編
12/39

12 昼間の来訪者たち

 何か、騒がしいですね……。


「オルニット殿下、どうかご遠慮ください! クラヴィス様のお達しがあったではありませんか!」


 部屋の入り口で起こっている騒動に、私の意識はぼんやりと浮上してきました。

 また熱が出ていたのでしょうか、身体がひどくだるくて重いです。


 そういえば祝福を出しすぎて、また意識を飛ばしてしまったのでした。最近こんなのばっかりです。


 ええと……

 クラヴィス様たちはとっくに部屋から去り、その翌日かは分からないけれど今は昼間。

 部屋の入り口での騒ぎは、どうやら正規巫女のヴァレリ姉さまが扉ごしに誰かと押し問答をしているみたいです。


「通せ! 私はフィリアの顔が見たいのだ!」


 扉の向こうで騒いでいる声は、なんだか随分と必死な様子。


「ですから! まだフィリアは目を覚ましていないんです! 神殿外部の人を入れると、クラヴィス様だけでなくマーテル様にも私が叱られるんです! それが例え殿下であっても! 許可を得てからお越しくださいませ!」



「嫌だ! 勉強が増えすぎて、今しか時間がないのだ。一目でいいからフィリアの無事な顔を見せてくれ!」



 殿下?

 …………まあ。

 私のことをそこまで……。


 驚きと嬉しさがさざ波となって、まだぼんやりとしている私の心を木漏れ日のように照らしました。

 同時に、心配をかけてしまったのかという思いも湧いてきます。


 私がもぞもぞと身体を起こすと、それに気付いたヴァレリ姉さまが振り返り、その拍子に部屋の扉がバン、と開かれました。


「フィリア! 目が覚めたの――」

「フィリア!」


 花のような美貌に喜色を浮かべたヴァレリ姉さまの脇をすり抜け、私と同い年にしては背が高すぎる殿下が部屋に駆け込んできました。

 少し癖のある蜂蜜色の髪を振り乱し、やんちゃさが残る彫りの深い顔にはひたむきさが溢れています。


「フィリア! 心配したぞ!」


 殿下はあっという間に私のベッドに駆け寄り、勢いよく私の顔を覗き込んできました。

 同時に流れ込む溌剌とした暖かさ、仄かに漂う私の金色の光の気配。そして、本当に心配をしている真剣な眼差し。


「殿下……ありがとうございます。私は大丈夫です」


 頭痛をこらえてにこっと笑い、小さく会釈をしました。

 畏れ多いですけれど、素直に嬉しい。

 それと、心配をかけてごめんなさい。


 あ、殿下の肩の上に若草色に輝く精霊が。

 本当に契約したのですね。おめでとうございます。


「フィリア、もう起き上がっていいのか? 熱は下がったのか?」


 殿下がそう言うなり身を乗り出して私の額に手を――うわ、近い近い! 近いですって!


 ちょ、私、今きっと汗をいっぱいかいていてっ!

 それに、そんなイケメンフェイスで迫ってくると、また例の!


 身体の奥で、かつてない大きさの祝福の波がむくむくとうねり始めています。

 うあ、ヤバいやつです。


 殿下の前で祝福を出す訳にはいかないですから、全部まるっと抑えつけないと!

 ラエティティア様の腕輪がもの凄い勢いで光を吸い込んでくれていますが、もうちょっと、あと少しだけ――



 あ。



 無事に衝動を抑えきることは出来ましたが、鼻の奥に感じる、たらりといういつもの感覚。

 私は咄嗟に、両手で口を押さえるふりをして鼻ごと押さえるという荒技に出ました。


 わわわわ、やばいやばい!

 あのその、ちょっと今、見ないでください!

 私は涙目で殿下を見上げ――



「――ッ!!」



 殿下が息を呑んで固まってしまいました。

 顔が耳まで真っ赤です。

 肩の上の精霊だけが、嬉しさを爆発させたかのようにすごい勢いで回転しています。……え? なにこれ?



「ああ……ええと、その、なんだ。元気そうだからな、えと、そう! 今日はこれで帰る!」



 殿下は唐突にそう言い残すとクルリと振り返り、入って来た時と同じ勢いで部屋から駆け出して行ってしまいました。

 ええと、何がどうなってしまったんでしょうか……。



「うぷぷ……ちょっともう……フィリアったら、笑わせないで」

 肩を震わせて笑いを堪えているのは、部屋の入り口から一部始終を眺めていたヴァレリ姉さま。

「ほら、このタオルでその鼻血……ぷぷっ!」


 ついにけらけらと笑い出す、乙女力抜群、うら若き十七歳の先輩巫女さま。

 私の乙女の危機はなぢ問題で一番相談に乗ってもらっている相手なのですが。


「はああ、二人とも可笑しい……殿下も殿下だし、フィリア、もうすっかり平常運転ねっ!」


 活発美少女のヴァレリ姉さまが、そうやって弾けるように笑っているのはとても大好きな光景ではあるのですが……むう。


 それにしても、殿下は本当に精霊と契約したのですね。

 私は寝具を汚さぬように鼻血を慎重に拭き取りながら、先ほどの光景を思い起こしました。


 たしかマーテル様が精霊術の教師をどうのと言っていた気がしますが、更にお勉強の時間が増えてしまったのでしょうか。

 ただでさえ「祝福の王子」とか呼ばれてあちこちから謁見依頼やパーティーの招待などが舞い込み、幼いころから礼儀作法などの教育がびっちり行われていたオルニット殿下。ここに来て本格的な精霊術も追加なんて……。


 優秀な方ですからどんどん吸収していってしまうのでしょうけれど、そもそも「祝福の王子」云々が出生時に私が暴走したことが原因ですし、ひょっとして今回の精霊契約もあれだけ溢れまくった私の光の影響だったりして……。


 私の金色の光、なぜか精霊たちは大好きですから――いやいやそれはさすがに自惚れすぎですね。その私自身が精霊契約をしていないのですから。

 そう、殿下はとっても優秀な方ですから、若くして精霊契約したっておかしくもなんともないのです。



「あははは、もうフィリアったら、そんなに落ち込まないの!」

 ヴァレリ姉さまが目を妙にキラキラさせたまま、コップにお水を入れて渡してくれました。


「あ、ありがとうございます?」

 ええと、少し物思いにふけっていたら、何か変な方向に勘違いされているような。

 喉がカラカラなのでお水は嬉しいのですが。


「……そ、そういえば、ヴァレリ姉さまはお仕事大丈夫なのですか?」


「うん、今日はマーテル様とクロエ姉さまとイネス姉さまが王都を回る日で、私はお留守番。礼拝堂に赤ちゃんを連れて来る人も自力で祝福を受けにくる人もいなかったから、ここでフィリアの寝顔でも眺めてようかなって」


 にぱっと笑うヴァレリ姉さま。

 うん、かわいい――じゃなくて。


 そうでした。

 祝福祭を終えた後も、病気や怪我で祝福祭に来られなかった人を訪ね、個別に祝福を贈ってまわるのもアルビオンの巫女の大事な仕事なのです。


 ぽんぽんと祝福を贈れる私は別口として、精霊と契約している人ならば誰でも霊力陣を描いて精霊の祝福を乞うことは出来ます。ただ、かなりの霊力を使うそうなので、一般の民衆に授ける一切の祝福は、そうしたことに適正を持っている巫女の仕事というのが一般的なところ。

 そして、国の方針によっては祝福祭で一括の儀式をして終わり、というところもあるそうなのですが、ここアルビオン王国では、マーテル様の主導でしっかり全住民に細かいフォローを行っているのです。聖母様と慕われるのも分かりますよね。


 姉さまたちが出払っているのは、きっと祝福祭に来られなかった人を訪ねて回っているのでしょう。


 そして。

 祝福祭とそのフォロー行脚は年に四回ですが、赤ちゃんは時期を問わずに生まれてきます。

 母乳を飲んでいればある程度の抵抗力は付くのですが、やはり祝福を受けた方が生存率は跳ね上がります。なので、新しく生まれた赤ちゃんは出来るだけ早く神殿に連れてきて、母子共に祝福を授かった方が良いのです。


 それに対応するのももちろん巫女。いつ来るかは分からないので、どんなに忙しくても基本的に一人は神殿待機です。この時期は特に、祝福祭の時は具合は悪くて来れなかったけれど、その後動けるようになった人とかも祝福を受けに来ますし。

 大抵はクロエ姉さまが残って孤児の面倒を見たりしているのですが、今日はヴァレリ姉さまがお休みを兼ねた留守番の日なのでしょう。


 ……姉さまたちは本当に大変ですよね。私も早く戦力になって、みんなにもうちょっと楽をさせてあげたいのですけれど。寝ている場合じゃないですね。


「あ、でもね、マーテル様はもうじき帰ってくると思うよ?」

 ヴァレリ姉さまが、邪気のないいつもの美少女スマイルで爆弾情報をくれました。





「クラヴィス様と一緒に、フィリアの今後について話し合いするって言ってたから」





 へ? 私の、今後について?

 クラヴィス様と一緒に、話し合い?


 うおう。

 何ですかそのドキドキする情報は。

 ものすごく嫌な予感がするんですけれど。


 まさか…………こないだの夜、祝福を出しすぎて気を失ったことでお説教?


 うわあ、ものすごくありそうです。


 確かに、このところ制御が足りなくて寝込んでばかりですけれど。

 でもそれはなぜかパワーアップした祝福の波のせいで、ラエティティア様の腕輪のお陰で以前と変わらないぐらいのレベルでは制御できていますよ?


 ただ何というか、パワーアップしてる分、出てくる祝福やら身体への反動やらの規模が大きくなってるだけで。


 …………。


 …………。


 …………。


 ……わ、私はきっと悪くないと思います!


 きっときっと、話し合いっていうのは巫女見習いとして外に出るにあたってどんな髪型が大人っぽく見えるか、とか!

 早く背が伸びるためにはもっと牛乳を飲んだ方がいいとか! そんな話し合い――――のはずがないですよね。


 はああ……。


 そこに、私の悪い予感を肯定するように扉がノックされました。


「ヴァレリ、ここなの? フィリアはもう起きてる?」


 マーテル様の側仕え、エマ姉さまの声です。

 何故だか怖いくらいに上機嫌。


 うわあ。


 ……せめて、心の準備だけでもしておこう。







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