「ズンドコ節」
ズンドコ節
堀田耕介
ズンドコ節という曲をご存じだろうか。
ドリフターズというコントメンバーが面白可笑しく歌った曲である。正しくは海軍小歌
というらしい。人気演歌歌手の氷川ひろしの歌った歌詞の方が有名なのかも知れない。
でもドリフターズの歌った歌詞は実に意味深い。こんな歌詞である。
汽車の窓から手を握り
送ってくれた人よりも
ホームの陰で泣いていた
可愛いあの娘が
忘らりょうか・・・・
これを面白可笑しく歌っているから聞いている人たちの笑いを誘い、その意味などあまり考えない。
でもこの歌詞は実に意味深い・・。
そう、男たちは積極的に、前に出てくる
女の子しか、目に入らないのである。でも、積極的に前に出ること出来なくとも、そこにひたむきながらも、その男性を想っている女性がいる・・・・。それを気付かずに過ごしてしまうのが人生である。
私は大学時代、童話のサークルに所属していた。その頃、同じサークルの一人の学生に告白される。
「今度、映画を一緒に見に行ってくれませんか」
私の大学の隣の有名な国立女子大の学生である。二つの大学の共同のサークルである。
「何という映画なのですか」
「アラビアのロレンスという映画です」
二人はその映画を見にいった。とても感動的であるが、結局ロレンスが頑張ってアラビアはイギリスから独立するのだが、結局民族同士の利害関係からひとつにまとまれない。
いわゆる
「会議は踊る」
である。
彼女との交際は、一年は、続いただろうか。サークルが終わると、彼女の家がある調布へと送り届けた。時には彼女の家でお茶とケーキなどご馳走になることもあった。
破たんは思わぬ所から訪れる。交際から一年目ぐらいだろうか。サークルは三つのグループに分かれて活動していた。彼女と私のグループは違っていた。私のグループには、やはり彼女と同じ大学の女子大生がいた。その女の子と私がとても仲がいいという噂が広まっていった。私には、自覚のないことであった。
彼女は言う。
「あの子と仲がいいのですか」
私は答える。
「そんなことはない」
そうこうしている間に一年目の正月がやって来る。私は彼女に年賀状を書く。
ところが新年を迎え、彼女と会ってとんでもないことを耳にする。
「あなたの年賀状、裏面が・・・白紙だったのよ・・・・わざとそうしたの」
「えっ、ちゃんと書いて出したよ」
でも彼女はわざとそうしたとヒステリックとも思える様子でそういう。
恐らく私が年賀状の表面に住所、名前を書き二枚重ねて、その二枚目に挨拶文を書いてしまったのだろう。
でもいくら説明しても理解される事はなかった。
その時にふと思った。
「私との噂を立てられた彼女は。今何をしているのだろう」
それこそ、ホームの陰で泣いているのではないかと・・・・。
表に現れる女性だけが人間にとって全てではないのである。