孤独
学校。それは、近い年齢の子供たちが集い、すでに学業を終えた教師から新しい知識を得ることのできる学び舎。
また学習以外でも、同じ年齢の友達や、先輩、後輩など、様々な人たちと関わっていくことで、新たな見識、豊かな感性を築くことも可能だ。
だが、その一方で、見た目や性格、生まれつきの病気が原因で人から奇異な目で見られる子供も多く存在する。
彼らは人の輪から除外され、得られるものは孤独のみ。
当然、そんな彼らを救うために教師や保護者などが手助けをしている場合が多い。
しかしそれは結局偽善の行為であり、個人差はあれ、誰しも心のどこかで邪魔に思っているという事実は否定できない。
そして、その報われない人間の一人である僕は、報われないままに学校生活を送っていた。
誰も僕に話しかけようとせず、誰も僕と関わろうとしない。
自分勝手に『孤独』という資格を烙印し、それを思うがままにして一人の人間を度外視している。
そんな現実を誰もが受け入れ、誰一人として異議を唱えようなんて思わない。
けれど、僕という特異な存在は、その中心にあるが故に『孤独』という言葉に抗おうとしていた。例え「人」と違うところを持っていたとしても、同じ「人」である限り、「人」の輪に手を伸ばすことができるはずだと信じて。
――ある日、僕は勇気を振り絞って挨拶をした。
朝教室に入り、扉の近くの席に腰掛けて読書に耽るクラスメイトに一言「おはよう」と。
こちらから話しかければ、流石に返事をしてくれるだろうと考えて。
だが、目の前に座る彼は僕の言葉に微塵も反応を示さなかった。
手に持った本に焦点を集中し、まるで僕の声に気付いていないかのように、言葉を返すどころか顔を上げてさえもくれなかったのだ。
僕はもう一度「おはよう」と言った。今度は大きな声で、はっきりと。
それでも彼は動かなかった。確かに聞こえているはずなのに。
その時、すぐ隣で「おはよー」と、誰かの声がした。
すると、僕が挨拶をした彼は「あ、おはよう」と、その声に返事をしたのだ。まるで僕に見せつけるかのように。
見れば、先に挨拶をしたのは同じクラスメイトの一人。
そして僕は確信した。「この人たちは、もう僕を人として見ていないんだ」と。
その事実に絶望し、勇気を出して声を掛けたことへの虚しさが生まれる。
やがてその場にいることが居た堪れなくなり、脱力感に身を泳がせながら自分の席へと向かう。
そこで僕は見てしまった。目に映したくもない非常な現実を。
僕の机に置かれた、細長いガラスの瓶。そして、そこに挿された一輪の花。
ああ、そうか。僕は『死んだ者』と見なされたのだ。
『孤独』という烙印を押され、最後には『屍』として、居ない者として認識されてしまったのだ。
いや、もはや認識さえも失っているのかもしれない。僕は視界にその花瓶を映しながら、一人立ち尽くしていた。
全ての希望を捨て去り、あるがままの現実を見つめながら。
…ふと、教室の入り口の方で音がした。誰かが入ってきたようだ。
首だけをその方へと回し、目を遣ると、入ってきた人物がこのクラスの担任であることが確認された。
何か用事でもあるのだろうかと思いつつ様子を窺っていると、その担任は教卓に手をつき、その場にいる生徒たちに告げた。
「――えー、大変残念なことですが、つい昨晩――君が交通事故に遭ったそうです。その時点ではまだ息があったそうですが、病院へ搬送されて間もなく亡くなったと連絡がありました。警察の方の話しでは――君自身による自殺とのことで、つきましては―――」