Ⅵ.続く運命
総理親任式で天皇からの任命を受け、『山邑誠人総理大臣』が正式に誕生した。
そして第一次山邑内閣の官房長官には、幼馴染の泉信一郎が就任した。
法務大臣の時と変わらず時間があれば、妻の真由美や息子の宗太郎、そして息子の恋人…いや、私の娘の凛と一緒にご飯を食べたり、お買い物に行ったりしているようだった。
ファーストレディーとなった妻の優子は基本的には今まで通りの芸能生活をしている。
テレビでは、ファーストレディーとなった"夕蘭"を特集することが多くなった。
「優子。仕事で疲れてるんじゃないか?」
「ううん。誠人の方が疲れてるでしょ。」
「ご飯は無理して作らなくてもいいよ。外食でもいいし。」
「身体が資本なんだから。体調崩したら困るのはわたしだけじゃないの。」
優子の芸能活動もあるため、緊急事態以外は総理公邸には入らず、港区のマンションに今後も住むことになった。
ロビーのコンシェルジュ以外にもSPがつき、優子は少し窮屈に感じているかもしれない。
最年少内閣官房長官から近年で最年少の総理大臣となった私の支持率はかつてないものであった。
公邸に入らないことへの批判は野党から出ているが、妻の芸能活動継続のためと意思を通している。
芸能活動を現役でしているファーストレディーは史上初。
「共働き」は現代らしさもあるとの意見に助けられている。
「優子?」
「ごめん、今日は疲れてるみたいだから先に寝るね。」
「大丈夫か…?」
「うん、心配しないで。ゆっくり寝れば回復すると思う。」
最近、優子の体調が良くない日が多いようだ。
二人の時間もほとんど取れてない。
それでも、朝食と夕食を作って待ってくれている。
朝ごはんを一緒に食べて支度を済ませ、もうすぐ迎えの車が来る時間になった。
「誠人、今週時間が合えば凛と一緒にご飯でも行かない?」
「いいね。凛ちゃんと最近会えてないしな。」
「うん。私もなのよ。少しお買い物でも行きたいなって。」
「ちょっとスケジュール調整してみるよ。」
「ありがとう。」
「じゃあ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
まだ新婚3年目。結婚式から数ヶ月。
年甲斐もなく、再燃した恋心は続いている。
今日は、閣僚会議が午前中にある。
午後は通常国会だ。
「右の結果により、来年度の予算議決は、可決されました。」
衆議院議長がそう告げた後、公設秘書が私のところにやってきた。
「総理、優子様が…。」
「え?優子が!?」
スタジオ撮影の途中で倒れたとの連絡が入った。
気が気じゃないが、本会議は抜け出せない。
優子…無事でいてくれ。
会議が終わって、優子が運ばれた病院へと向かう。
「優子…!」
「奥様は眠っておられます。主治医が呼んでますので、娘さんとお二人で来ていただけますか?」
「は、はい。」
「誠人さん。」
「凛ちゃん、びっくりしただろう。」
「うん…。ママ、大丈夫かなあ。」
「きっと、大丈夫。信じよう。」
優子に似た小さな肩を抱き寄せ、一緒に診察室へと向かう。
「失礼します。」
「はじめまして。主治医の加藤です。」
「あ、おじさま!」
「凛ちゃん、お久しぶりだね。」
「なんだ、知り合いなのか?」
「うん。わたしと宗太郎の同級生のお父様です。」
「挨拶が遅くなりました。山邑誠人です。」
「総理、よく存じております。」
「そ、それで優子の容体は…。」
「ええ、大丈夫です。妊娠8週目ですよ。」
「それはよかった…って、え!?妊娠!?」
「凛ちゃん、お姉ちゃんになれるぞ!」
「え、嬉しい!!」
「最近体調が良くなかったとかありますか?」
「ああ、たしかに最近は疲れが酷くて早く休んでました。」
「46歳ですからね…高齢出産はリスクが伴いますので、ご本人と相談して決めてください。」
喜びも束の間、高齢出産の高リスクに直面させられた。
「そんな心配しなくても大丈夫です。高齢出産といっても、現代の医療ではいろいろなサポート体制が出来上がっていますから。」
「そうなんですね。」
「ただ、堕胎するとなると期限がありますので、そこは守ってくださいね。」
「わかりました。」
「では、今日はこの辺で。」
「ありがとうございます。失礼します。」
「あ、凛ちゃん。諒太のことこれからもよろしくね。」
「はい。おじさま。」
寝息を立てる優子の顔を見て、きっと出産を決意するだろうと感じた。
この年齢で自然妊娠とは…。
僕らの運命はこれから続いていくのだろう。