Ⅴ.ファーストレディの誕生
「総裁選の投開票日ですが、自国党の動きはいかがでしょう。」
「そうですね〜、やはり有力候補である山邑内閣官房長官の勢いがすごいみたいですね。」
「民意も山邑内閣官房長官がなるべきとの声が多いみたいですね。」
「山邑議員は結婚3年目ということで、総裁選前に結婚式を挙げられたそうです。」
「それ位、本当に山邑くんが総裁選に対して覚悟して向かっていることではないでしょうか。」
「数時間後には、新しい総理大臣が決まるという日本。各国の日本の総裁選へとの注目度はいかがでしょう…」
誠人さんは、私たちとの会食の数日後、総裁選に立候補した。
その間の結婚披露宴ということもあり、たくさんの周りの協力を得て支持を募ったようだ。
「そろそろね…」
「うん…」
「優子、ケーキ食べる〜?」
「真由美は緊張しないの!?」
「私の旦那が総理大臣になるっていうんだったらそうなるかもしれないけど、今回は私は関係ないもの。で、コーヒーにする?紅茶?」
「関係ないって…もしかしたら私たち親戚になるかもしれないのにね、凛!」
今日は、ママも泉家に来て、テレビの中継を見ることになった。
ママはテレビの前から動けずにいるが、真由美さんは掃除したりご飯作ったりと忙しなく動いている。
「ただいまー。」
宗太郎がアルバイトから帰ってきた。
わたしが玄関に迎えに行くと宗太郎は少し不思議な顔をしていた。
「宗太郎、おかえり。」
「あれ?優子さん来てるの?」
「ママってば、今日は仕事が手につかないと思うから全部OFFにしてもらったんだって。」
「なるほどね。」
「もうすぐ開票結果がわかるみたい…」
「じゃ、僕もテレビの前でソワソワしますかね。」
そう言うと、ソファに私の左側には宗太郎、右側にはママが座った。
「まず、第一回の投票結果です…」
総裁を決める選挙は、第一回目の投票で過半数を獲得した立候補者がいない場合、第一回投票で上位の2人に絞り、決選投票になる。
「以上の結果より、1番目に得票が多かった立候補者の千木良実議員と、2番目に得票が多かった山邑誠人議員の決選投票となります。」
その中継にママはまだ喜んでいなかった。この決選投票を制しなければ一国の首相にはなれない。
「2番目かあ…」
「でも、決選投票は国会議員だけだし…他の人に一回目の投票で入れた人がどちらに入れるかで決まるから、可能性はあるよ。」
「そうだよね。あー、緊張するー!」
決選投票の様子はワイプで伝えられた。
政治評論家や政治アナリストとして活躍する著名人がワイドショーで様々論評している。
「最初の投票でこのような結果になりましたが、梶山さんどうご覧になりますか?」
「順位に関しましては誤差はありましたが、千木良議員と山邑議員の決選投票になるとは思っていました。」
「決選投票がまさに今行われていますが、どう予想しますか?」
「そうですね〜、やはり今のキャリアから言うと山邑議員が妥当です。他の陣営は決選投票では山邑議員に入れる方向で考えているようですからね。」
「なるほど。一次の投票では2位だった山邑議員が優勢ということですね。」
ワイドショーの解説者は誠人さんが優勢だと言っていた。
わたしの手を握る母の手の力がますます強くなった。
投票の状況がワイプで中継され、テレビでは千木良議員と誠人さんの紹介VTRを流している。
「はあー、緊張する。もー、真由美も一緒に見てよ〜!」
「仕方ないな〜。」
と、真由美さんはママの隣に座った。
テレビには、中継リポーターが映し出された。
「こちら、自国党本部の西川です。投票が先ほど終わり、現在開票作業中です。」
「千木良議員と山邑官房長官のご様子はいかがでしょうか?」
「そうですね、こちらから見受けられる様子ですと、山邑官房長官は隣に座っている議員と談話しており、とてもリラックスした状態のように見えます。一方、千木良議員は硬い面持ちで結果を待っているように思われます。」
手作業で開票している様子や、両議員の様子が映し出される。
「そろそろ、結果が出るのね…。」
「ママ、誠人さんなら大丈夫!」
「凜、そうよね!信じてましょう!」
私たちは身を寄せて結果を今か今かと待っていた。
「結果が出たようです!会場の様子をご覧ください。」
と、スタジオに画面が戻っていたところアナウンサーが言った後、画面が党本部の総裁選の会場になった。
総裁選挙管理委員長が白い紙を持ち、マイクの前に立った。
「お待たせいたしました。開票の結果が判明いたしましたので、ご報告申し上げます。投票総数198票、議員数と合致しております。有効投票数198票、無効投票数0票。各候補者の得票数は、千木良 博くん80票、山邑 誠人くん118票であります。総裁公選規程第23条第1項により得票数の多かったものをもって当選者とすることになっておりますので、山邑 誠人くんが当選者と決定いたしました!」
その言葉に、会場は拍手とカメラのシャッターの嵐。
誠人さんは、後ろを振り向き一礼した。
周りの議員達がおめでとう!と声をかけてくれ、誠人さんは周りにも一礼した。
「うそ…」
「ママ、ファーストレディーになっちゃったね!」
「わたし、そんな器じゃないのになー。」
「何言ってんのよ、優子ならできるわ。厳しい芸能界を生きてきたんだもの。」
「そうかしら…まずは英語を喋れるように…」
「ママ、それより今日はお祝いしないとね〜!」
「そうね!さ、凜ちゃん、宗太郎!買い物行くわよ〜っ!」
「真由美さん張り切りすぎ!」
「もう、優子も行くわよっ!宗太郎、車の運転よろしくね!」
その夜は、誠人さんを連れて宗太郎のお父さんが帰ってきて、泉家でパーティをした。
「総理大臣おめでとう!」
「みんな、ありがとうね。ちゃんと一国の長として頑張って行こうと思いますので、これからも応援お願いします!それと…優子には迷惑かけるかもしれないけど、これからも付いてきてほしい。」
「分かってるわよ。誠人と一緒になるって決めた時から覚悟してたんだもの。」
「ママが総理大臣の奥さんってなんか不思議!」
「凜ちゃんもいつかはそうなるかもしれないだろ?」
「宗太郎より、凜ちゃんなら日本初の女性総理なんてのもありえそうだけど。」
「真由美さんに言われるとなれる気がする!そうだ…宗太郎パパ、うちのパパのお仕事でのサポートよろしくお願いします!」
「そうだな、信一郎には女房役にでもなってもらわないとな。」
政治の話だけでなく、家族のように他愛ない話をしていると、夜も更けてしまった。
「じゃあ、優子。帰ろうか。」
「そうね。」
タクシーを呼び、身支度をして玄関で二人を見送る間際、ママが口を開いた。
「真由美、信一郎。迷惑をかけるけど、凜の事よろしくね。」
「何言ってんのよ。凜ちゃんはもう私たちにとっては娘のような存在なの。優子に返せって言われても返しませんからね?」
「ふふふ。凜はとっても幸せね。」
「うん。ママのおかげだよ。」
「誠人くんの体調管理は優子がしっかりしないとダメだからね!」
「大丈夫。何かあったら栄養士の真由美に相談しに来るわ!」
「この子たちが結婚したら私たち一緒に住むことになったりしてね!」
「ママたちは気が早いんだから!」
「宗太郎くん、凜ちゃんのことよろしくな。」
「は、はい!誠人さんを目標に頑張ります!」
「おい!宗太郎!そこはお父さんを目標にするところだろ!」
「ははは!まずは信一郎が頑張らないとな!じゃ、また来るよ。宗太郎くん、秘書の仕事も頑張ってな。」
「はい!ありがとうございます!」
「凜も、真由美と信一郎の言うこと聞くのよ?」
「うん!ママ、頑張ってね。」
タクシーが迎えに来て、門のところまで私たちは見送った。
「さ、部屋に戻って4人でまた飲みますか〜!」
「あなた、明日もお仕事大変でしょう?」
「なかなか凜や宗太郎と飲みに出かけることもないしいいだろ?」
「宗太郎パパ、宗太郎の卒業祝いもしないとね!」
「そうだなあ。今度4人で温泉でも行くか。」
「やったー!宗太郎パパ大好き!」
「凜ちゃんは本当に甘え上手だなあ〜。」
私たちは日付が変わるまで杯を交わしながら将来のいろんな話をした。
いつも更新を心待ちにしてくださる皆様へ
お世話になっております。
久しぶりの投稿、申し訳ございません。
この一年半、色々ありました。
久々に凛と宗太郎とともに恋愛を頑張ろうと思って、また執筆を始めております。
タイムリーですが、先週は参議院議員の選挙でしたね。安倍首相も次期総裁選についてはまだ決めかねているようです。
官房長官といえば、菅官房長官が「令和おじさん」なんて言われてますね。
誠人は官房長官ではありましたが…改元には関わっていないようですね!笑
ぜひ、この作品から政治について興味を持っていただけたらいいなと思っております。
そして、早めに完結できるように頑張りますので、今後ともご愛読のほどよろしくおねがいいたします。
樋山 蓮