Ⅳ.34年間の思い
ついに、結婚式当日。
バレないかとハラハラしていたが、お母さんは特に勘づいてはいないようだった。
マネージャーさんが仕事と偽ってお母さんを連れてくることになっている。私と宗太郎は準備していたウェルカムボードを車に乗せて、式場に向かった。
誠人さんは一足早く式場に到着し、式の進行の確認を再度確認していた。
式場にはすでに事務所の社長さんとお母さんがいつもヘアメイクをしてもらっている事務所と契約してるヘアメイクさんがスタンバイしていた。
「今日は母のためにありがとうございます!」
「凛ちゃん、本当にここまで準備お疲れ様!」
「いえ、社長さんの協力があったからここまで出来ました!」
「あとは式が無事に終わることだけだね!」
「はい!」
誠人さんがタキシードに身を包み、私たちはママを待つだけとなった。
「夕蘭さん、こちらです。」
扉の向こうで、松井マネージャーの声が聞こえた。
「失礼しまーす!」
マネージャーが扉を開け、女優“夕蘭”が入ってきた。
「よろしくお願い…って…え!?…凛!?誠人!?」
「誠人さん!!」
と、私は誠人さんの背中を押した。
「優子。驚かせてごめんな。今日は付き合って34年の記念日なんだ、覚えてた?」
「え…。うん…だって今日は早く帰ったらワインでも飲もうねって出て行ったじゃない。」
「結婚してから3年も経ってしまったけど…ずっとずっと優子のウェディングドレス姿を見るために頑張ってきた。今日は、世界一幸せな花嫁になってもらいたくて、凛ちゃんや宗太郎くん、信一や真由美、事務所の社長さんやマネージャーさんたちの力を借りて、優子にサプライズを用意しました。これからもずっと素敵な妻であり、母であり、永遠に愛する女性でいてください。」
と、ママにブーケを渡した。
「誠人…ありがとう…。」
ママの大きな瞳から涙が流れた。
「さ、ママ。ドレス着て、メイクしてもらお!」
「凛。あなたも仕掛け人だったのねっ!」
「うん。ネイルもエステも完璧でしょう?」
「ドレスまで衣装合わせだって…。」
「ふふ。それはわたしのアイディアだったの♪。」
「でも、ありがとう。やっと夢が叶う。」
ママがヘアメイクをしてもらっている最中に、誠人さんの両親が来た。
「凛ちゃん、ちょっと来てもらっていい?」
「はいっ!」
「凛ちゃん、紹介するね。僕の父と母だよ。」
「どうも、初めまして。おじいちゃんとおばあちゃんです。」
「初めまして!松風 凛です!」
「昔の優子ちゃんにそっくりね。」
「こんな可愛い子がいきなり孫になるなんてなぁ。」
「うちは一人息子だからね。孫がいなくて。」
「父さんも母さんも楽しみにしてたんだよ。ま、数年後にはひいおじいちゃんとひいおばあちゃんになるかもしれないけどな〜っ。」
「あら、お付き合いしてる彼が居るの?」
「あ、はい。」
「信一郎の息子と付き合ってるんだ。」
「宗太郎くんと?」
「小学生の頃から同じ学校で。」
「あら、楽しみね。結婚式には招待してちょうだいね。」
「母さん、気が早すぎるぞ。」
「あら、そう?」
誠人さんのご両親と話していると、私の祖父母が会場に到着した。
「凛ちゃん。」
「じぃじ!ばぁば!」
「凛ちゃん、元気だったかい?」
「うん。色々心配かけてしまったけど…。」
「優子と凛が家を出てすぐに、わしらの家にあいつが訪ねてきたけど、突き返してやった。」
「そっか…。」
「凛ちゃんはお父さんには会いたいの?」
「ううん、今のお母さんがとっても幸せそうだし、その姿を見てるだけで自分は幸せなの。ね、宗太郎!」
「え、あ、うん。あ、初めまして。凛さんとお付き合いさせていただいております、泉 宗太郎です。」
「宗太郎くんか。凛のこと頼むよ。」
「は、はい!」
「信一郎くんの息子さんね。」
「あ、そうなのか!いやあ、面白い縁だね。」
「今はお母さんは誠人さんと暮らしてるから、私は宗太郎の家で暮らしてるの。」
「優子から聞いたよ。とても大事にされてるって。凛、良かったな。」
「うん。だから、じぃじもばぁばも安心してね。」
「たまには遊びに来てね、凛ちゃん。」
「そうだな。宗太郎くんもね。」
「はい!」
「あ、そろそろ式の最終打ち合わせだから、じぃじもばぁばも控え室に入ってね。」
最後にママと誠人さん、双方の両親、宗太郎のパパとママ、私と宗太郎で確認した。
「凛、いよいよだな。」
「うん。私と宗太郎頑張ったもんね。」
招待客も続々と到着した。
さすが次期総理大臣とモデルの結婚式ともあって、テレビの画面越しに見たことのある著名人も来ている。
「宗太郎、あの人いつも政治番組で司会してる有名人じゃん!」
「さすが、官房長官だな。俺たちの結婚式には誰を呼ぼうかな。」
「結婚式なんて何年先だろうね〜。」
「そんなこと言ってたら、凛はおばあちゃんになっちゃうよ。」
「もう、宗太郎の意地悪。」
ついに披露宴が始まった。
純白のウエディングドレスに身を纏ったママの姿を見て、わたしは感動してしまった。
「ママ、きれい。」
式はだんだんと進んでいく。
お色直しをして二人がキャンドルサービスに各テーブルをまわる。ママはわたしのテーブルに来ると笑顔で私の手を取り
「凛、ありがとう。」と言った。
メインテーブルに着くと、ゲストのスピーチや余興が始まった。
次は…両親への花束贈呈。ママは、急いで書いた手紙を読み始めた。
お父さんお母さん。
そして、凜ちゃんへ。
いつも、私のことを遠くから見守ってくれている大切な大切なお父さん、お母さん、凜。ありがとう。
どんな時でも、私の味方でいてくれたお父さん。芸能界に足を踏み入れるかどうか迷っていた時…背中を押してくれたのはお父さんでした。大学はちゃんと卒業するというお父さんとの約束を果たすことが出来たのも、お父さんが送り迎えや事務所の方との連絡など率先してくださったからです。感謝してもしきれません。
そして、どんなに辛いことがあっても受け止めてくれたお母さん。家に帰ると美味しいご飯を作って待っていてくれて、芸能界で活動していくために生活面からいつもサポートしてくれました。実家になかなか帰ることが出来ずに悩んで電話すると、暖かい言葉をいつもかけてくれました。本当にありがとう。
わたしは、二人の子供に生まれてきて良かったです。
ご存知の方も多いと思いますが、数年前の辛い出来事を乗り越えられたのは、お父さんとお母さんの私への強い想いと、大切な娘である凜が居たからです。
凜が居なかったらきっと、こうして今日の日を迎えることはありませんでした。
本当に、わたしの子供に生まれてきてくれてありがとう。
誠人さんと出会って34年の年月が経ち、たくさんの遠回りをしてきましたが、やっと世界一幸せな花嫁になれます。
お父さん、お母さん、凜。
本当に本当に今までありがとう。
優子より
おじいちゃんやおばあちゃんだけではなく、私に対しての感謝の手紙…涙が止まらなかった。
隣に座っている宗太郎は、ハンカチを取り出し渡してくれた。
式は終盤に近づいてきた。
両家代表の挨拶は、誠人さん。
「本日はご多忙の中、私たちの結婚式に出席いただきまして有難うございます。急な結婚式にもかかわらず、たくさんの仲間に囲まれ祝福していただき、とても嬉しく思います。結婚して3年…出会ってから34年…遠回りをしてきましたが、こうして幸せを掴むことができたのも、みなさんのおかげでございます。今後とも、私たちを暖かく見守ってくださいますよう、心からお願い申し上げます。本日は、大変ありがとうございました。」
誠人さんが読み上げ、両家の両親と新郎新婦が一礼する。
「大変和やかに進みました結婚ご披露宴、みなさまのご協力によりまして大変暖かいお席となりました。心より御礼申し上げます。今日のこの感激を胸に新郎新婦お二人の末永いお幸せを心より願いつつ、これをもちまして山邑様、荒川様両家の結婚ご披露宴をめでたくお開きとさせていただきます。本日は誠におめでとうございました。」
という、司会の言葉の後音楽が流れ、「みなさま、拍手でお見送りください。」と新郎新婦は披露宴会場を退場した。
音楽がかわり、「みなさま、前方のスクリーンをご覧くださいませ。この度新婦の娘さんであります松風凛様とご友人の泉宗太郎様がステキなスライドショーを作成してくださいました。ぜひ、ご覧くださいませ。」
と二週間かけて作ったスライドショーが流れた。
音楽にもこだわり、ママと誠人さんが若い頃に流行ったラブソングをBGMにした。
スライドショーを見て、涙を流すママの友人を見て、どれだけママと誠人さんの関係を心配していたのだろうと胸が熱くなった。
「凛、お疲れ様。なんか、結婚式って凄いな。大人になって初めて見た結婚式、本当に感動した。」
「わたしも。それがまさかお母さんの結婚式なんて思ってなかったけど…。」
「俺たちも何年後になるかわからないけど、たくさんの人に祝ってもらいたいな。」
「うん。」
二週間前にいきなり決まった結婚式。
とても幸せそうにしているママの姿に、私は胸がいっぱいになった。
結婚するって…全てが楽しいわけではない。辛いことも苦しいことも出てくる。でも、そんな辛いことも苦しいことも…一緒に乗り越えること…それが結婚だと思った。
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大変お待たせしました。汗
気まぐれにもほどがあるというか笑
もう就職して2年…早いです笑
前に投稿しようとした時に、
コピーしようとしたら、消えてしまって、書き直しました。
書いたものが消えるとか…いやですよね笑
スマホだと消したものが1つ前に戻る的なことできないので本当に困りました笑
それでも、待っててくれる人もいたので、頑張りました!
続けて更新できるよう頑張りますので、よろしくお願いします(*´꒳`*)
樋山 蓮