表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

エピローグ

エピローグ


ほとんど一睡もしていない身体は、自然と大学に向かっていた。ただ機械的に電車に乗り、機械的に講義を受けた。集中力なんて、これっぽっちもないはずなのに、どうしてか教授の話している内容はしっかりと頭に入ってきた。そして、結局授業中一睡もすることなく過ごし、今日一日の授業が終わった。

帰りの道もただ無心に歩く。この道を、もう惣乃と二人で歩くこともないのだと考えると、どうしようもない空しさが俺の心を包み込む。

そう言えば、昨日が東京に来てから初めての一人の夜だった。一人暮らしをするために上京して来たのに、結局俺が一人でいることはほとんどなかった。そのおかげで、俺はちっとも寂しいと感じることなく今まで過ごしてきた。家に帰っても誰もいない、そんな当たり前のことが余計に寂しく感じる。

おんぼろの学生アパート、俺と惣乃が暮らした部屋の扉の前で、少しの間立ち止まってみる。もうあの日々は戻ってこないことも、少しずつ理解出来てきた。全部、惣乃に出会う前のあの日に戻ってしまったみたいだ。

だから、俺にとって今日が二度目の始まりの日。

扉の前で大きく深呼吸をして、心を落ち着ける。大丈夫、覚悟ならもう出来た。

そして、俺が初めて東京にやってきて、新たな生活をスタートさせようとしたあの日と同じように、勢いよく部屋の扉を開け放つ。

――もう一度、新生活を始めよう。

俺の新生活の拠点となるはずのおんぼろアパートの一室。真っ先に目に飛び込んでくるのは、まるで整理されていないごちゃごちゃした荷物たち。そして、目に行くのはその部屋の中央。そこには明らかに異質なものが漂っていた。

それは聞き慣れた底抜けの明るい声で、なぜか自己紹介を始める。

「あ、こんにちは!どういうわけか、この部屋の地縛霊になっちゃた片桐惣乃です!どうかまた、よろしくお願いします!」

そいつはまるであの日のように俺に語りかける。

どうやら、静かに暮らせる日々はまだまだ訪れてくれそうにないようだ。

けどそれもいい。もうしばらくは、いつまで続くのか分からない騒がしい日々を楽しむことにしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ