嘘と我が儘と優しさ
「あなたは嘘つきだ」
「君のような馬鹿正直に言われる程にはついているかね」
「……嘘は、嫌いなもので」
ちりん、と鈴が鳴る。私が与えたものだ。
まだ持ってくれていたのか、と思うと同時に、やはり彼女は愚かだと思う。
「何百年も在り続け、尚且つ私の所にもどる。可愛らしいと思わない理由はない」
「……気味が悪い」
心底嫌そうに、彼女が呟く。
一方的な歪んだ愛情。彼女に対して持つものはそれ以上でもそれ以下でもなく。
「愛されたくはないのかね」
「あなたに愛されるくらいなら、僕は自分に呪いをかける」
相当な嫌われ様だ。
嫌われて当然のことをしたのに、私は私の独占欲を満たすためだけに、再び彼女をこの地に縛ろうとしている。
「産みの親に向かってそう言うのか」
「あなたは産んだだけ」
再び、鈴が鳴る。
私の今までを否定する音。
積み上げたものも、作り上げたものも、全て否定する。
ひねくれた性格になった彼女は、人の話を聞くことには聞くが、融通が聞かない。
だからこそ、特に私は肯定をもらえる筈がない。
鈴が鳴る。先程から合間無く鳴り続けているような錯覚を覚える。
ああ。
煩い、なあ。
音源に手を伸ばす。
動かない筈の手を。
だが、彼女に触れるには腕の長さが足りない。
諦めて、ぱたり、と腕を膝の上に落とす。
「……もう戻ってきては、くれないのかね」
「戻ったところで僕は何もできませんから。けれどひとつだけ我が儘を聞いてください」
彼女が、鈴を鳴らす。
「せめて、安らかに。」
呟きながら、彼女は私の瞼を閉じさせる。
相も変わらず冷たい手は、妙な安心感を私に与えた。
もう声は出ない。体も動かない。寿命には逆らえない。
安らかな眠りが私を襲う。
彼女は、どんな顔をしているのだろうか。
感覚が失われつつある今の私には確認などできる筈がなかった。
「おやすみなさい、母さん」
澄んだ声。我が儘娘の見せた唯一の優しさ。
「……おやすみ、──」
名前を呼んでやるのは何年ぶりだろう。
もっと呼んでやればよかった。
そう思いながら、意識は闇に沈んでいった。




