鉄格子の向こう側
その鉄格子は、何度揺らしても、外れなかった。
それだけ頑丈な作りになっているのだろう。
南京錠もかかっているから、きっと尚更強固になっている筈だ。
南京錠さえ開けることができれば、外に出られるのに。
薄暗く、ぼんやりとした明かりしかないここでは、外の様子を見ることすら叶わない。
そもそも、鉄格子を抜けた先にドアがついているから、そのドアを開けなければどうしようもないのだけれど。
そんな風に、空想していると、かつん、と何かの音がした。
音のした方を見る。
人が、いた。
「誰、だ」
「君に危害を加える訳じゃないよ」
「ど、こか、ら、きた」
「秘密。ところで君さあ、そこから出たいんだろ?手伝ってあげようか?」
まさに天恵、だった。
白い髪のその人は、闇に溶けそうな黒をまとっている。
南京錠の鍵か何かでも、持っているのだろうか。
それとも、別の方法で鉄格子を破壊するのだろうか。
どれにしろ、絶好の機会だと思った。
「で、たい。そと、みた、い」
「そう……じゃあ約束して。
"絶対に後悔しない"と」
「しない、こうかい、し、ない」
その人は、それを聞くと薄く笑みを浮かべ、腕を上げ、指についていた鈴を二度鳴らした。
ギ、と軋む音。
見れば、あんなにも強固だった鉄格子の扉が開いていた。
南京錠も解錠され、ただぶら下がっているだけのものになっている。
ふるり、と体が震えた。
……恐怖?何を今さら。
ここまで来たのなら、行かずに正体不明の恐怖に怯えるよりも、行って恐怖と対面する方が、ずっといい。
一歩踏み出す。
また、一歩。
一度動き出してしまえば、後は楽だ。惰性でドアまで行けばいい。
白い髪の人は何時の間にか消えていた。
でももう、そんなことくらいどうでもよくなった。
外を、見たい。
ただその思いだけで、体は動いていた。
ドアノブに手をかける。
深呼吸して、ゆっくり開ける。
──初めは何がなんだかわからなかった。
先程の鬱々とした部屋とは違い、明るく、閉鎖的ではない空間。
光になれるのには時間がかかったが、それでもなんとかまわりが見えるレベルだ。
きょろきょろと辺りを見渡していると、自分の目の前にひとつの何かが置かれていることに気がついた。
確か、鏡、と言ったか。
自らの顔や姿が見られる道具、と本には書いてあった筈だ。
目が完全に光に慣れた頃、僕は思考が停止していた。
ぺたぺた、と身体中をまさぐる。
間違いない。
鏡は正常に僕を映していた。
普通の人間とは違う、人間の言葉でいうなら、"異形"の僕を。




