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5話 決戦! ……っつうかせっかく海に来てるんだから泳ぎてえ

   【5話 決戦! ……っつうかせっかく海に来てるんだから泳ぎてえ】


 静かに凪いでいる海は決戦の時を今か今かと待っていた。

 マモル丸三世号を先頭とし、その両脇を固める阿手内島水軍の船が約十艘強。

 対して、正面に対峙する観毛内島連合船団は三十艘あまり。

 そのどれもが大漁旗を青空にはためかせている。

「伊藤んトコは右から回り込んでヤツラの横っ腹をついてくれ! 横井ちゃんは――」

 さっきからマモル丸三世号には無線がひっきりなしに入ってきてオヤジさんが対応に追われている。最終的な調整と確認をしているようだ。

「俺達の手筈はさっき言ったとおり」

 マモルの緊張した声。さっきから目前数百メートルに並ぶ観毛内島連合船団から目を離せないでいる。もちろん、それは俺も同じだった。

「う、うむ。マモルと親父さんは飛んでくる銛やら網やらを防ぎ、とにかく俺は銛を投げる」

 手にした銛を握りしめる。さっきから何度もズボンに手をこすりつけるが汗は一向におさまらなかった。足下に数十本の銛。矢尻の部分は外し、代わりに鉛の重りを付けた祭り用のものだ。とはいえ、相当な重量があり、まともに当たったりでもしたら無事では済まなそうだ。

「操船は工藤のおじさんにまかせてあるからよ」

マモル丸三世号には俺、マモル、オヤジさんの他、2人の漁師が乗り込んでいた。

「わ、わかった。……だけどマモルさ。向こうの船の数……こっちの3倍位いねえか?」

「うむ。……おかしいのぅ。この周辺の村にある船の数を足せば、確かにあの位の数にはなるが……」

 一段落したらしいオヤジさんが俺達の傍に座り竿を握る。マモルも不思議そうに目の前の大艦隊をみている。

「各船にひとりふたりしか乗らないんじゃ操船だけで攻撃や防御に手が回らないからな……俺達のように乗り合うのが普通なんだが……?」

「ま、今更ごちゃごちゃ言っても始まらん。そろそろ正午、海女僧島から合図が出る!」

 オヤジさんの指さす方、ひときわ大きな島が見える。

 海女僧島。

 昨日見たときより近いせいかいくつか人家や大きな建物も見受けられた。

 あの島で今頃アマゾネスの末裔たちが見ているのだろうか?

 俺の脳裏に昨日会った少女たちの姿がよぎった。

「……元気でやってっかなぁアイツ」

 竿を振りながらマモルがつぶやいた。

「アイツって、昨日言ってた? 海女僧のコのこと?」

 俺はペットボトルに口を付ける。

「昨日はキモチ悪くてツッコミいれられなかったが……お前ちゃっかり幼馴染みとフラグ立ててんじゃねえか……」

「へへへ、まあな。でもホント可愛かったんだぜ? 華奢で病弱でシンソウのレイジョウってのはあんなコの事をゆうんだな!」

「くそ……マモルのくせに……マモルのくせにッ!」

 俺はお茶をヤケ飲みした!

「名前も可愛いんだ。可憐っていってさ」

「ブフーッ!?」

 吹かれたお茶は鮮やかな新緑の霧となって炎天下に舞う。

「ぅわ! なんだよ汚ねえな!」

 俺はルームメイトの顔を眺めた。

「な、なんだよ。その憐れみと安堵感に満ちた目は?」

 とその時だった。マモルの背後、海女僧島の片隅からロケットのような何かが打ち上げられ、大きな音を立てて炸裂した。

 これは、合図か!?

 オヤジさんは大きく息を吸い込むと無線機に怒鳴りつける。

「全軍!!! 開戦じゃぁあああああああああああ!!」

 戦の始まりを告げるホラ貝や太鼓の音が鳴り響き、阿手内島水軍・観毛内島連合団艦隊の双方が動き出す。

 みるみるうちに縮まる船団の距離は心構えをする時間も許さない。

 オヤジさんがマモル丸三世のへさきに仁王立ちで風を切る。

「ワシこそはぁあああ! 『虎木亜の鮫』サトルじゃあああああああ!!! 死にたくなけりゃ道を空けええいいい!!」

 そして銛を掴むと大空へ放り投げた。

「わっ! 早い、まだ早いんじゃねえかッ?」

「いや! 見てみな!」

「お……おおお!?」

 マモルの指さす方を見ると、ずどーん、という音と共に観毛内島連合艦隊の中の一艘の大漁旗がへし折れた。

「……まずは、ひとつ」

 オヤジさんは次の銛を構えた。

「な、なんだこのオッサン!? 頼もし過ぎる!?」

 このオヤジがいれば……俺もあの島に行けそうだ。

 と、思った刹那、風切り音を立てて1本の銛が飛んできた。

「なっ!?」

 マモルがなんちゃら流竿術でかろうじてはたき落とす。

「こ、この距離を投げられる人間がうちの親父の他にいるというのか!?」

「ぬぅッ!? 気を抜くなマモルッ」

 連続で飛んできた銛を今度はオヤジさんが弾き返す。

「サトルさんッ! あれを見てくだせえっ!!」

 いつの間にか隣に古傷さんの船が並んでいて何か叫んでいる。

「む! あれはッ!?」

 オヤジは尚も飛んでくる銛をはたきながら叫ぶ。

「あれが……クレオ君の言った新兵器なのか!?」

 観毛内の船の甲板には誰も乗っておらず、代わりに大砲のようなものが設置されている。その砲塔から次々と銛が発射されているのだ。

「はーっはっはっは!!」

 一際大きく派手な船上で馬鹿笑いしている銀縁メガネはまさしくクレオだった。

 オレンジ色の救命胴衣がでかすぎてツッコミを入れたいのだが流石にここからでは届かない……俺のツッコミ魂がもやもやした!

「これが我々の新兵器さ!」

「な、なんだとッ!?」

 マモルが目をむいた。

「コンピュータ制御で自動照準自動発射の優れモノ! この二十一世紀に一本釣りでチマチマ魚を釣り上げてどうするのですか! そんな事では僕たち漁師には一生お嫁なんか来ないっ……! 時代は変わったのですッ! はっはっはっは!」

 周りをみると阿手内島水軍はすでに散り散りになり追い回されていた。もとより3倍近い戦力差、こちらの射程距離外からの攻撃に為す術もなかった。

 銛に船体を貫かれ浸水している船。甲板の漁師を倒され白旗を揚げる船。

 開戦から10分も経たないうちに勝負は決まったのだ……!

「ぬうッ……小僧!」

 オヤジさんが唇を噛む。段々と飛来する銛の数が多くなりマモル親子も捌ききれなくなっていた。既に数本は甲板に刺さっている。

 俺や、一緒に乗り込んだ漁師達も苦し紛れに銛を投げているが、何とか射程距離に届くまで近づいても相手の船の甲板には倒すべき人員が乗っている訳でもない。

「虎木亜の鮫ことサトルさん……あなたも倒れる時が来たのですよッ」

 クレオは勝ち誇った顔で片手を挙げた。

「さあ皆の衆ッ! 一気にマモル丸三世号を沈めますよ! あの船さえ沈めば勝ったも同然です! それに、あの虎木亜の鮫を倒したとあれば……海女僧の女達も私たちを認めるでしょう!」

 クレオの合図に10隻近くの船がマモル丸を囲み始める。

「はーはっはっは! マモルちゃん、悪く思うなよ! 先に女を知るのは……なつめさんを手に入れるのはこの僕ですッ!」

「クッ!?」

 マモルは一言も返す余裕が無く竿を振り続けていた。

「さ! 攻撃開始ですっ!!」

 クレオの言葉に俺は目をつぶった、その時……!

「させるかぁあああ!!!」

 マモル丸三世号の前に一隻の船が滑り込む。

「うおおおおおおおおッッ!!!」

 あれは……! 古傷おじさんの船……!? 

 無数の銛が古傷おじさんの船に刺さっていく。甲板で竿を振り回す漁師たちも次々に倒れてゆく……!

「古傷さんっ!?」

「古傷ッ!」

 マモル親子が縁に駆け寄る。

 銛の一斉射撃は止んだものの、古傷さんの船のエンジンからは煙が上がっていた。

「か、各船、銛弾の再充填急げッ!」

 黒煙の向こうでクレオが慌てて指示を出しているが俺達は古傷さんを見つめていた。

「さ、サトルさん……アンタはこの海、全漁師の憧れだ……こんな……こんなトコで終わる男じゃねえ……」

 古傷さんの船がゆっくりクレオを取り巻く船団に向かってゆく。

「マモルちゃん……そしてその客人の兄ちゃん、よく見てろ……これがッ! 阿手内の益荒男の生き様じゃああああああ!」

 古傷さんの船の速度が上がる。

「ま、まさかッ!?」

 マモルが叫ぶ。

「自爆するつもりなのですか!?」

 クレオは慌てて船を回頭している。

「阿手内島にッ……栄光あれーーーッ!!!」

 爆音があたりをつんざき、赤い炎で目が眩んだ。

「ふ、古傷の……ッ!」

「……マスラオの生き様……しっかり学ばせてもらったぜ……!」

 オヤジさんは膝をがっくりつき、マモルが沈みゆく船に敬礼をしている。

「……」

 俺は……正直ついていけない気もしたが、一応空気を読んで黙っていた。

 この人達、明日から船もなしにどうやって暮らすのだろうか?

 と、黒煙の向こうで甲高い声がした。

「あ、危ないところでした……!」

 黒煙が次第に晴れる。古傷さんの自爆は数隻の観毛内の船を沈めたものの、旗艦・クレオの船は無事だったのだ。

 それを見てオヤジさんは、ゆらりと立ち上がった。

「……マモル」

「な、なんだ?」

「ちいっとばかり――留守をまかせるぞ?」

 拳を握りしめるオヤジさん。

「……我に力を」

 右手にはめた指輪が鈍く光を放った。

「フォォォオオオオオオオオオオ!」

 2本の竿を手に掴み雄叫びをあげるオヤジさんの体は眩い銀色の光に包まれた。

 着ていた腹巻きが紙のように千切れ吹き飛ぶ。ズボンが破けてないのがなんか都合いい感じだ!

「オ、オヤジッ!?」

「船をヤツラに近づけろォオ!」

 言うが早いかオヤジさんは十数メートルも跳躍し、観毛内の船に飛び移った。唖然とした観毛内の漁師を一撃の下に倒し、大漁旗をへし折ると次の船に飛び移る。

「ほぃやあああああ!」

「ま、まだあんな技をッ!? う、打てッ! 打てえええ!」

 銛弾の再充填が終わった船がオヤジさんを狙う。

「そいそいそいそいッ!」

 オヤジさんの持つ2本の竿がまるで生き物のように銛をはたき落としていく。

「なっ! なんて動きですか!?」

 観毛内船団の間をすり抜けるマモル丸を踏み台にし、右へ左へ飛び回る漁師戦士。

「ま、まさかあれは!?」

「知ってるのか!? って……古傷おじさんッ?」

「無事だったのかッ?」

 古傷さんは普通にマモル丸に乗り込んでいた!

「おう! 爆風に飛ばされたワシは運良く大漁旗に包まれたりとにかくイロイロあって助かった! ……あれは阿手内島流壱本釣り術の中でも秘竿中の秘竿とされる……『弐本釣り』!」

「あ、あんな技は見たことがない……!」

 マモルは飛び回る超漁師の姿を凝視する。

「だが……本当に凄いのは弐本釣りではない……あの体を包む光! あれこそはこの海に古くから伝わる『アレスの帯』!」

「ア、『アレスの帯』!?」

「そうじゃあ! 軍神アレスの力の源、と謂われた伝説のアイテムよ! ワシもこの目で見るのは初めてじゃ!」

 俺は手のひらをポン、と叩いた。

「『秘剣』みたいに『秘竿』って書くのね?」

「ゆうた! その話題終わってるから! とっくに!」

「つーかさぁ? 壱本釣り流とか言っておいてさー? 実は2本使えましたぁ、とかさー? そこらへんブッチャケどうなの?」

「バ、バカ! なに冷めてんだよ! 空気読めよ! きっとホントのピンチじゃないと出せない技なんだよ!?」

 その間もオヤジさんは船から船へと飛び回る。たまに海面を走ったりしているようにも見えたが俺はもう突っ込むことを諦めた。

「どっこおおん! どっこおおん!」

 もはや手が付けられない状態の超オヤジ。すでに周りは沈みかけた船や燃え上がる船でいっぱいでマモル丸三世号も動きが取れないでいた。

「なんかオヤジさんに任しておけば楽勝ぽいね~。暑いし喉乾いたし、大体女の子全然出てこないし?」

「クッ! これだから現代の冷めてる都会っ子は!」

「見ろマモルちゃん! 観毛内の残党が集まりだしたぞ!」

「あっ! 超オヤジが囲まれて……ッ」

 古傷さんの言葉にマモルは目を見張る。燃えさかる船上に立つ超オヤジのまわりを観毛内の船がぐるりと囲んでいた。両手の竿はとうに折れ、疲れを隠せず肩で息をしている。

「いくら超サトルさんといえどもあれはマズい……! ワシらも行くぞ!」

 言うが早いか古傷さんは竿を片手に飛び出していく。続いてマモル丸三世号に乗り込んでいた他の漁師も追いかけていった。大破し動かなくなった船を器用に足場にし、飛び回る漁師……いやほんとにコイツラ漁師なのだろうか?

「古傷さんと名も無き漁師さんたちっ!」

「そういや他にも乗ってたっけ?」

「俺一人でこのテンション保つのは大変なんだよ! オメーも食いつけよ!」

 マモルはマジ切れしていた。……仕方ない、気を取り直すことにしよう。

「ああっ! あれを見ろマモルッ!」

「お、おう! その調子! どした、ゆうたぁ!?」

 炎と煙の中でオヤジさんがこちらを見ている。

「はあ……はあ……マ、マモル……ッ」

「オヤジッ?」

「ワ、ワシももう、ここまでのようだ。新しい……新しい時代が来たんじゃ……お前達の時代が!」

 オヤジさんの側に立つ古傷さんや名も知らぬ漁師さん達も、こちらを見て微笑んでいる。

「お、オヤジぃ……!」

「後はまかせたぞ! マモルッ! ゆうた君ッ!」

「オヤジィィィイイイーーーーー!」

 瞬間――鼓膜を破ろうかという轟音と閃光が、俺とマモルを襲った。マモル丸三世号は激しく揺れ、俺達は海に落とされないようにしがみつく。雨のように降る無数の破片が俺達の体を打ちのめす。

「……おさまった……か?」

 おそるおそる顔を持ち上げた俺はマモルが倒れているのに気づき駆け寄った。

「マ、マモル? 大丈夫かッ?」

「う……うぅっ」

 マモルを抱き起こす。額に血が滲んでいるが、これは軽い擦り傷のようだ。

「他は……大丈夫だな。ふう……。マモルまでケガしたら流石に笑ってられん」

 俺はマモルのTシャツを破くと、水で濡らし頭に巻いてやった。

「ウウッ……こういう時は自分のシャツを……破くだ……ろ……普通……」

「最後の力をツッコミに使いやがった」

 俺はマモルを船室に寝かせるとあたりを見渡した。

 動いている船はもうほとんどない。早々と乗組員を倒され白旗を揚げた船が、救出活動をしている。

 俺はマモル丸のへさきに立つ。

「……虚しい……そして哀しい戦いだった……戦争とはこうまでも残酷なモノなのか……」

 潮風と重油の匂いがあたりに満ちていた。

「オヤジさん……古傷さん……そしてマモルッ! お前達のことは多分忘れないゼ?」

「ま、まだです……よッ」

「お?」

 沈みかけた船や破片をかきわけてクレオの船が近づいてきた。甲板は大破し船窓は割れ、しかしかろうじて大漁旗だけははためいていた。

「おー、お前も無事だったかー?」

「後はお前の船だけ……! 最後の勝負です!」

 平は竿を握ってこちらを睨んでいる。

「……だりいなー」

「クッ、こ、これだから都会っ子は! こんなヨソ者に負けるもんかぁッ!!!」

 クレオの竿が俺に襲いかかる。

「おっと! そうだった、ハーレムがかかってたんだっけ? 超展開すぎて忘れてた!」

 俺も竿を手に応戦する。

「やはり所詮は都会っ子! 竿使いは慣れてないようですね! ほやぁあ!」

「クッ! こいつ……色白美肌メガネのくせに!?」

「メガネは! NGワードですっ! 色白と美白は! ……まぁいいですッ!」

「あっ!」

 あっさりと俺の手から竿がはじかれ海に落ちる。とっさに側にあった銛を掴むがこのメガネ、なかなか侮れない。

「フッ、銛と竿ではリーチが違う……さてどうしますか? その1本しかない銛を投げますか? ほぉいほぉいほおい!」

「くッ……」

 確かにこれでは分が悪い。何とか今はヤツの攻撃を凌いではいるが、リーチで劣る俺の武器では相手に届かない……! かといって投げたとしてもナントカ流竿術とか恥ずかしい使い手に当たるのか?

「ほやぁ! もう観念しなさいッ!」

 クレオの竿のテグスが銛に巻き付く。少しでも力を抜くと奪われそうだ……!

「く、クソッ!」

 海女僧島がクレオの後ろに見えた。

 女だけが住むと言われる島。

 俺の夏はこんなとこで終わるのだろうか? ハーレムを目前にして……! レイシアの、そしてなつめの姿が目に浮かぶ。可憐ちゃんは……声のみ再生された。そして――クーラー無し六畳一間の畳の上で『マリンゆうた号』にまたがる俺の姿が思い浮かんだ。

「ふ、ふふふざけんなぁ!」

 俺が絶叫したその瞬間……ウォレットチェーンが光り輝いた!

「な、なんですッ?」

「こ、これは……体に力がみなぎって……フォォォオオオ!!!」

 どこからともなく力の奔流が俺の体に流れ込み、喉が独りでに咆吼をあげた。なくなりかけた握力が戻り、いや戻るなんてもんじゃない。前にも増した力で銛を握りしめると俺は巻き付いたテグスを一気に引き千切る。

「なっ! ホオジロ鮫でも切ることの出来ない特製テグスがいとも簡単に……!?」

 糸を切られた反動で尻餅をつくクレオを横目に、俺は自分の体を見まわした。

「こ、これは?」

 俺の体は銀の光に包まれていた。Tシャツは千切れて吹き飛び……って!? お気に入りのシャツだったのに!

 腰のウォレットチェーンが一際強い光を放っていた。さきほどのオヤジさんの指輪の光を思い出す。

「……お守り?」

 いや、今はいい。

 俺はクレオを睨んだ。この力があるうちに勝負を決めてやる。

「その光……その逆立った髪の毛……この海の人間でないヤツがサトルさんと同じ技を使うとは」

「ん? ホントだ。髪、すげえ。……あれ? オヤジさんもなってたっけ?」

「いやほら……サトルさんの毛髪は……薄味? だから目立たないんですよ」

「あ、なるほど……。と、とにかくこれで最後だッ! 喰らえメガネ野郎ッ!!!」

「メ、メガネって……言うなーーーーーーッ!!」

 俺の投げた銛がクレオの乗った船を貫き――この戦い最後の爆炎が上がった。

「……ふう……疲れた」

 俺はその場に体を投げ出した。

 いつの間にか体を包んでいた銀色の光は消えている。

「――それにしても」

 俺は疲れに身を任せ瞼を閉じた。

「メガネ……救命胴衣デカ過ぎだぞ……」

 すっきりして眠りに落ちていった。


「……この者が此度の勝者、じゃな」

「はい、大ババ様」

「よし、ものども。島へ運べ」


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