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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第1章 解放
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5,人間と魔族

 次の日から、信冶と祐介は分かれて食事の配給を行った。しかし、信冶の中にあったはずの強い恐怖心は、もう消えていた。悪魔のように見えていた魔族たちが、今はむしろとても弱い存在に見えるのである。そしてそのように見えるようになった原因は、どう考えてみても「彼女」だった。


 その日も彼女は信冶を「観察」していた。しかしあの寂しい笑みを見せることはなく、無表情であった。信冶は声をかけてみようかと思ったが、結局そのまま仕事を続けた。


 その次の日は、休日だった。信冶は何をするでもなく、自分の部屋にいた。

(あの子も、魔族なんだよな……)

いつの間にか、あの少女のことを考えていた。


 今まで魔族を見たことがなかったわけではない。信冶だって、戦闘に参加したことはある。だが、街に現れる魔族たちはもっと、憎悪に満ちた表情でこちらを睨んでいた。その様子は、まさに悪魔であった。


 しかし、彼女は違った。信冶には、彼女が悪魔であるようには見えなかった。

「でも、魔族は罰を受けるべきなんだ……よな……?」

信治は、自分の中で信じてきたものが揺らぎ始めているように感じた。


◆ ◆ ◆


 翌日。少女はやはり、信冶を観察していた。信冶は少女に話しかけてみることにした。


 「どうして俺を見てるの?」

少女は少し驚いた様子を見せた。その状態のまま、しばらく信冶の顔をまじまじと見ていたが、やがて

「違う気がして……」

と言った。

「違う?何が?」


 しかし少女は、それ以上は何も語らなかった。信冶は諦めて仕事に戻ったが、彼女の口にした言葉が気になった。

(「違う」って、どういうことだ……?)

モニタールームに戻ってきた信冶を見て、祐介が声をかけてきた。

「何かあったのか?」

「え?」

「なんか、悩んでるっぽかったから」

「ああ、いや、悩んでたっていうか……」

「?」


 信冶はイスに腰掛けると、読みかけの本を開いた。が、すぐに閉じて、言った。

「……人間と魔族は、何で戦うんでしょうね?」

「はっ?」

祐介が呆れた様子で信冶の方を見る。

「何言ってんの、お前?」

「や、11年前まで、人間が魔族に支配されてたっていうのは知ってますけど……10年前に掃討軍の活動が始まって、その1年間で魔族の支配体制はもう崩壊してましたよ。もちろん、魔族は罰せられなければならないっていう、あの演説が間違ってるとは思いませんし、だから俺は3年前に軍に入隊したんですけど……なんかちょっとやりすぎかな……なんて」

「余計なことは考えんな」

祐介は、先ほどとは打って変わって、いつになく真剣な様子でぴしゃりと言った。

「でも」

「無意味だ。んなこと考えても」

祐介はそれ以上聞きたくない、というように、信冶から目を背けた。しかしその目には、なぜか苦痛の色が見て取れた。


 次の日から、少女は信冶を観察することを止めた。逆に、目を合わせないように下を向いていた。しかしだからと言って、信冶の中に生まれた疑問が消えるということはなかった。信冶は食事を持っていく度に、少女に声をかけた。が、彼女は聞こえていないかのように俯いているだけだった。

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