4,出会い
翌朝。収容所に出勤してきた信治は、祐介によっていくつものモニターが並ぶ小さな部屋に案内され、そこで仕事の説明を受けた。
「俺らがする仕事は主に2つ。囚人たちに食事を持っていくことと、彼らを監視することだ」
「はい」
「時間は0時から8時、8時から16時、16時から24時の3つのパターンがある。毎日時間変わるから気をつけろよ」
「はあ……8時間、ですか」
少し不安げな表情を見せた信冶に、祐介は笑って
「大丈夫だって。ぶっちゃけ、食事持ってく以外はここに座ってるだけだから楽だぜ?」
と言う。
「はあ」
「まあ、すぐに慣れるさ。それじゃあ、今日からよろしくな」
「はい」
信冶は早速、モニターに顔を向けた。
「おいおい、そんなにずっと見てると疲れんぞ」
祐介が椅子に深く腰掛けて言った。
「え、あ、はあ」
「要領よく手を抜くことも大事なことだ。覚えとけ」
「分かりました」
一応、返事はしたものの、信冶には何もしていない方がかえって疲れるように思われた。
(明日は本でも持ってこようかなあ……)
やがて時計の針が12時を指し、昼食を済ませた2人はモニタールームを出た。
「ここにはだいたい50人くらいの囚人がいるからな。そいつら全員に食事を持ってくのは、多少手間がかかるけど、置いてくだけだし、慣れれば短時間でできるようになる」
「はい」
「今日は初めてだからな。2人で一緒にいくけど、明日からは分かれて配るぞ。そうすりゃあ、すぐ終わる」
「分かりました」
祐介は、自分たちの昼食と共に届けられた、囚人たちの食事の乗った配膳車を動かし、テキパキと仕事をこなしていく。
「ほら、北原もやってみろよ」
「あ、はい」
信冶も祐介と同じように置いていくが、魔族たちの様子が気になってしまい、彼ほどのペースでは仕事をこなせない。鉄格子ごしに目にする魔族の存在が、とにかく恐ろしかった。
そんな信冶の様子を見て祐介は
「大丈夫。この建物の中には、反魔法物質がばらまかれてる。魔法はほとんど使えないさ」
と言う。
「はい……」
信冶も、頭では理解している。しかし信冶の恐怖心は、すぐには収まらなかった。
ビクビクしながら信冶は、それでもなんとか仕事をこなしていった。……と。
信冶は足を止めた。1人の魔族の様子が気になったからだ。
長い牢獄での生活によって痩せこけてはいるものの、目はぱっちりとしているその魔族の少女は、こちらをじっと見ていた。しかしその表情から憎悪は感じられなかった。「見ている」というよりかはむしろ、「観察している」と言った方が正しいかもしれない。
信冶と目が合うと、少女はわずかに目を見開いて、驚いたような様子を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻して……笑った。とても寂しそうに、笑った。
(……!)
その瞬間、信冶はとても苦しくなった。まるで、悪戯をしているところを大人に見つけられてしまった子供のような、居た堪れない気持ちに陥ったのだ。
気がつくと、少女はもう、元の静かな表情に戻って、配給された食事に口をつけていた。
「おい北原、どうした?」
祐介が怪訝な顔をして声をかけてきた。
「えっ、あ、いや……なんでもありません」
「そうか?ならいいんだけど」
祐介はそれ以上詮索することはせず、仕事に戻った。信冶も彼に倣った。
不思議とその後は、仕事がスムーズに進んだ。