3,第5魔族収容所
アクネの東に位置する町、イオリア。信冶はその町にある第5魔族収容所にやってきた。イオリアという町自身はそこそこ栄えた場所なのだが、やはり収容所の周辺にはおおよそ「建物」と呼べるものがなかった。
「やっぱ……緊張するな……」
そっと、建物の中に入っていく。……と、
「よおっ!」
「!?」
不意に、1人の男が声をかけてきた。
「お前が新入りか?」
「え……あ、はいっ」
信冶が答えると、男は奧の方に向かって
「おーいっ!新入りが来たぞ!」
と叫んだ。
「おっ、来たか」
現れたのは2人の男。
「君が……えーと、」
「あ、北原信冶です。よろしくお願いします」
「おう、よろしく。俺は伊藤祐介だ」
1番体が大きく、爽やかな感じの男が言った。
「そんでもって、こいつが鈴木雅也」
「よろしくな」
平均的な身長の信冶よりも、ずいぶん背の低い男だ。155くらいかな、と信冶は推測する。
「あとこいつは富田響」
「ヨロシク!」
一番最初に声をかけてきた男だ。どうもヤクザっぽい臭いがする。
「仕事は2人1組ですることになってる。お前は俺と組むことになるから」
「はい。お願いします」
よかった、と密かに信冶は思う。現時点では、祐介の印象が一番良かった。
「この間1人辞めちまってからは3人でやってたんだけど、これで元の体制に戻ったな」
「はあ」
「……さて、今日はもういいぞ」
しばらく話した後、祐介は言った。
「え?」
「仕事は明日から。その内容も明日説明するよ」
「分かりました」
収容所から徒歩10分ほどのところに、軍の寮はあった。あまり綺麗な印象はないが、それは仕方がない。当然のことだが、雅也と響の部屋もあり、信冶は少々不安な気持ちになる。
(どうも、あの2人は苦手だなあ……)
などと思いつつ、信冶は荷物の整理をした。
やがてそれが一段落し、時間を持て余していた信冶は、1冊の冊子を取りだした。訓練中に使っていたもので、「人工魔法」について書かれている。
(良い機会だし、新しい仕事始める前に復習しとこうかな……)
信冶は冊子を開いた。
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【1,魔法】
人工魔法を学ぶためには、まず「魔法」を学ぶ必要がある。魔法とは、魔族だけが使うことができる特別な力のことである。
魔法を成立させているものは2つ。「魔法物質」と「魔法支配能力」である。魔法物質は、魔族の1人1人の周囲に常に存在する特殊な物質で、どんな物質にも変化するという。「魔力」と呼ばれることもある。そして魔法支配能力とは、魔族の持つ、魔法物質を操る力のことである。
つまり魔法とは、魔法支配能力によって魔法物質を別の物質に変化させることを言うのである。
【2,人工魔法】
我々人間はこの魔法に対抗すべく、「反魔法物質」を完成させた。この物質は、魔法によって変化した魔法物質を、元の形に戻す作用を持っている。炎であろうと水であろうと、それが魔法によって作り出されたものであるならば、反魔法物質の力によって無力化できるということである。そしてこれを、我々は「人工魔法」と呼ぶのである。
反魔法物質は現在、武器の中に入れて持ち歩き戦闘の際に放出する、という形で用いられている。
我々は人工魔法を手に入れたことで、魔族の魔法に対抗することができるようになったのである。
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「ふう……」
一通りの復習が済んだ頃には、外は薄暗くなっていた。外灯もないこの辺りの夜は本当に真っ暗になるだろう。
「さて、これで明日の準備は完璧だな」
信冶は翌日に備えて、早めに寝ることにした。