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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第6章 悪魔
55/58

17,信頼

 会議用のテントに、賢悟たちは戻ってきた。


 「そんな奴に任せられるかよッ!」

修が叫ぶ。

「そいつは人を殺すことを何とも思わないような奴だぞ!」

「気持ちは分かるが……。彼女に任せるのが最善だと、我々は判断したんだ」

賢悟が言う。

「はァ!?意味分かんね……」

言いかけた修の首筋を、鋼の刃が掠めた。

「こういうことができるかららしいですよ?」

渚が不敵な笑みを浮かべて言う。

「ぐ……!」

「でも、あなたの大切な人なんだとしたら……失敗しちゃうかもなー」

「てめえっ……」

渚に掴みかかろうとする修を賢悟が止めた。

「落ち着け」

「しくじったら殺すぞ……!」

修は渚を睨み付ける。

「どうぞご自由に」

渚はすましてそう返した。


 「……飯田さん、自動反応システムを破壊する方法を説明して下さい」

賢悟が言う。

「分かりました」

誠は頷いて、説明を始めた。

「打ち込むのは、最大でも半径0.5mmの針がいいですね。今回は麻酔打てませんし、あまり太いと、かなりの痛みを伴うことになりますからね」

誠はモニターにそれらの情報を表示しながら、話し続ける。

「位置は、頭の後ろ。頭と首の付け根になりますかね。機器の大きさがだいたい1辺1cmの立方体ですから、ずれたら終わりですよ。いいですか?ここ。真ん中です」

誠は繰り返し説明した。

「あと、深さ。1.5cmです。……ああ、機器の、表面に一番近いところからの距離がね。だから機器を破壊し、尚且つ脳を傷つけない為には、1.6〜2.4cmくらいの深さで針を打ち込めばいいわけです」


 「……」

誠の説明が終わっても、軍人たちは黙ったままだった。あまりにも厳しい条件であり、彼らには、その成功のビジョンが見えてこないのだ。

「……できそう?」

渚に付き添って会議の場に来た信治が問う。

「位置さえ指示してもらえれば、できますよ」

渚は自信たっぷりに、そう答えた。

「……彼女の言葉を信じるとして、問題は位置をどれだけ正確に伝えられるかだな」

賢悟が呟く。

「それなら、私で実験すればいいじゃないですか」

渚が平然と言い放った。

「え……!?」

奏が驚いて絶句する。

「私にもあるでしょう?その機械」

「……でも、」

「これあると、私本番でも困るし。氷の攻撃で勝手に魔法発動しちゃうと、私身動きとれなくなっちゃうもん」

「そうか……。いやでも、ここで失敗しちゃったら、本番も何もなくなっちゃうんじゃ……」

奏は不安げに呟く。

「まあ、それは確かにそうですねー。だから上手くやってくださいね、信治さん」

当の本人は、あっけらかんとした口調でそう言った。

「……え!?」

信治は驚き、動揺を隠せない。

「そうですよ」

渚は事も無げに言う。

「私は信治さんじゃなきゃヤですよ?」

「……まあ、彼女がそう言うなら、そうするしかないな」

賢悟も冷静にそう言う。

「……でも、」

「ああ、ちなみに、」

渚が人差し指を立てた。

「私自分で自分を刺すとかできないので、刺すのも信治さんやってくださいね」

「……」

信治は黙り込む。


 あまりにも重大な役目である。奏が言ったように、ここで失敗すれば作戦を実行することができなくなるのだから。

加えて、この役目を負うということは、本番においてもその役目を負うことを意味していると言えるだろう。それが合理的というものだ。軍にいた頃も一般兵にすぎなかった信治にとって、その役目は重すぎる。


 「俺には……」

できない、と信治は言おうとした。しかし、

「信治さん、気楽にやっちゃってくださいよ」

渚が言った。

「ホントだったら、私はあの本部の中で死んでたはずなんです。だけど、その命をあなたが拾ってくれた。……この命はあなたのものです。だから、これで死んだとしても、私があなたを恨むことはありませんよ」

そう言う渚は、やはり笑っている。笑っているのだが、信治はその笑顔に、あの日、あの時に収容所の中で由美香が見せた、あの寂しい微笑みを見た気がした。


 「……俺、やります」

信治の迷いは、消えた。

「絶対成功させます」

大切なことを忘れていた。失敗したら作戦が実行できなくなる?……違う。その前に魔族の少女が1人死ぬのだ。そんなことがあってはならない。


 「……では、」

誠が医療用バッグから、1本の少女針を取り出す。

「これを、そこに入っているラインまで一気に突き刺してください」

「はい」

信治はそれを受け取り、渚の後ろに立った。

「いいですか?ここです、ここ」

誠は髪をかき分けた渚の首の後ろ、頭との付け根の中央にペンで点を打った。

「……」

信治はその一点を見つめて、針を構える。


 「信治……!」

奏はただひたすらに祈る。


 ここで失敗することは、信治にとっても危険である。今の状態では、渚の自動反応システムは信治の持っている針を「攻撃」と認識してはいない。しかし彼が針を突き刺した瞬間、システムは作動するはずである。渚が死んだ場合は別だが、もしも機器を破壊できなければ、信治は鋼の刃を受けることになる。人工魔法も効かないため、防ぐことはできないのだ。

奏には、祈ることしかできない。


 「……いきます」

奏の祈りに気づくこともなく、信治は躊躇せずに針を突き刺した。

「っ!あァッ……!」

渚の悲鳴が上がる。

(信治っ……!)

奏は合わせた両手を強く握りしめた。


 「……」

魔法は、発動しなかった。そして、

「死んじゃうかと思いましたよ」

振りかえった渚が笑った。

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