15,作戦会議
作戦は、魔族が加わったことで安定しつつあった。
「魔族に救われたな」
賢悟が呟く。
「勘違いすんなよ。人間の為じゃねえ」
そこに修がやって来て言った。
「放っておいたら、魔族も危ねえんだ。だから……」
「分かってる」
賢悟は頷く。
「……しかし、まだ根本的な解決には至ってません」
奏が言った。
「ああ。それも分かってる」
賢悟は奏に視線を向ける。
「このままじゃいづれ、魔族たちも疲弊して陣形が崩れる。その前にこの魔法を止めなきゃならない」
「すぐに上級士官を集めて作戦を立てましょう」
奏がそう提案した。
「そうだな、すぐに招集してくれ」
作戦会議には、政府軍の大将クラス、反乱軍の指揮官たち(この中に奏も含まれる)、そして魔族部隊の代表として修が参加した。
「この魔法の根源……千住院由美香は、掃討軍本部の地下室にいる」
賢悟が言う。
「場所が分かっているなら、自由に動ける我々がそこに突入して、その魔族を殺せばいいのではないですか?」
政府軍人の1人が意見する。
「魔法を止めるだけなら、それでもいいんだが……」
「それは俺が許さねえ」
修が言った。
「何だと!?それこそ許されることでは……」
「なら、俺たちは退かせてもらう」
修は冷たく言い放つ。
「なっ……!?」
「魔族に人間を助ける義理はねえんだ。俺の話が聞けねえのなら、そうさせてもらう」
「てめえっ……!」
その軍人を始め、その場にいた多くの軍人たちは怒りに肩を震わせた。
「……まあ、そういうことだ」
賢悟が淡々とした口調で話す。
「修たちはその魔族を殺さずに魔法を止める方法を見つける必要がある」
「そんな方法……あるのか……?」
軍人たちはざわめく。
「……あの、」
挙手したのは奏だった。
「何だ?」
賢悟が問う。軍人たちも、ひとまず静まった。
「彼女は、自動反応システムによって動かされています。だから、その……、それだけを破壊することってできないでしょうか?」
「うーん、まあ、単純明快な案ではあるが……、検討してみる価値はありそうだな」
そうは言っているが、賢悟もその案を持っていたようで、すぐに自動反応システムについてのデータをモニターに表示した。
「これが自動反応システムだ。脳の延髄の辺りに埋め込まれている。これによって、人間や魔族の指令系統の一部を支配することができる」
「そんなとこにある機械を脳を傷つけずに破壊できるのか!?」
修が不安げに問う。
「それは、何とも言えない」
賢悟は言葉を濁した。
「医療関係の人間の意見を聞いてみないことには……」
「あっ、じゃあ、私医療班から誰か呼んできます!」
奏が席を立って言う。
「ああ。頼む」
◆ ◆ ◆
信治は、医療班のテントの中にいた。
「本当に懲りませんね」
そう言いながら、ベッドに横になっている啓太、瑞紀と梓の3人を見ているのは誠である。
「あはは……。すいません」
信治は頭を下げる。
「まあ、戦争ですからね」
誠は事も無げにそう返した。
「飯田さん、こっちお願いします!」
医療班の軍人の1人が叫ぶ。
「ああ、今行きます。……それでは」
信治に軽く会釈すると、誠は足早にその軍人の元へ向かった。
見た感じはいい加減な誠だが、その腕は一流で、すぐに治療の第一線を任されたのである。
「信治は休まなくていいの?」
瑞紀が訊いた。
「うん、大丈夫だよ。俺は重傷って程でもないし」
とは言っても、信治や奏も負傷している。しかし、負傷者に対する医療設備の数が、圧倒的に不足しているのだ。
「それより、梓は大丈夫そう?」
「うん。安静にしてれば大丈夫だって」
瑞紀はほっとした様子で、そう答えた。当の梓は、すっかり草臥れてしまったようで、今は柔らかな寝息を立てて眠っている。
「信治……、信治、いる?」
その時、奏の声が聞こえた。
「ん……、奏、会議どうなった?」
信治はテントの中に現れた彼女に問う。
「うーん……。システムだけを壊せないかって話になったんだけど……」
「うん、その方がいいよ」
「ただ……、やっぱり問題あるよ。普通にシステムだけを壊すっていうなら、取り付けた時と同じように手術すればいいけど、私たちはそれをあの本部の中で実行しなきゃいけないんだもん……」
「そうだよな……」
信治は溜息をつく。
「物凄い器用な人とかいたらな……」
「そんな人いたら苦労しないよ」
奏は呆れた様子で言う。
「……あのさ、信治」
彼に声をかけたのは啓太だった。
「あんまりオススメはできねえけど、滅茶苦茶器用な奴なら……お前が連れてきたのが」
「……え?」