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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第6章 悪魔
51/58

13,選択

 「凄いな…」

通路はあちこち黒く焼け焦げている。

「ところ構わず焼き払ったんだね」

奏が落ち着いた口調で言う。

「でもそんなやり方が通用するのも最初のうちだけ……」

彼女が言いかけた、ちょうどその時、通路の先で大きな金属音が鳴り響いた。

「……やっぱり」

そこでは、修と政府軍人たちとが戦っていた。修は炎を起こしているが、軍人たちはかたまって人工魔法を使っており、彼の炎はその人工魔法の壁に阻まれている。

「行こう」

言うが早いか、奏は抜刀した。

「うわッ……!」

彼女の攻撃は敵の陣形を大きく乱した。

「いけるっ……!」

そこで修が魔法を発動する。炎は人工魔法の合間を縫って軍人たちを包み込んだ。

「よしっ!」

完全に陣形が崩れてしまった軍人たちに信治も攻撃をかけ、3人はこれを突破した。

「……」

修は何も言わなかった。奏と信治もまた、何も言わなかった。3人はただ、ひたすら走る。


 「……ここか」

さらに数度の戦闘をくぐり抜けた3人は、最奥の部屋にたどり着いた。修がその戸を開く。

「来たか」

そこには、政府軍のリーダーである西澤義忠の姿があった。

「総帥、ここまでです」

奏が言う。

「降伏してください」

「降伏?」

義忠は不気味な笑みを浮かべた。

「面白いことを言うね、君」

「な……」

「由美香はどこだ」

今度は修が問う。

「うん?由美香?……ああ、この子のことかな?」

義忠は手に持っていたリモコンのボタンを押す。すると、彼の背後にあるモニターに何処かの部屋の様子が映し出された。

「!」

そこには、うつ伏せに倒れている由美香がいた。

「てめえっ、由美香に何をッ!」

修が叫ぶ。

「死んではいないさ」

義忠は邪悪に笑って言った。

「このッ……!」

「まあそう急くな」

自分に襲いかかろうとする修を右手を挙げて義忠は制する。

「私を殺すかは、私の話を聞いてからにした方がいいんじゃないかな?」

「どういうことです?」

奏が問う。

「……君らは、この子が『特別』であることを知っているかい?」

義忠は由美香を視線で示しながら、奏たちにそう訊いた。

「特別……?」

信治は首を傾げる。

「……明憲もそんなこと言ってたな。『イレギュラー』だとか、なんとか」

修が呟いた。

「そう、彼女はイレギュラーだ」

義忠は目を輝かせて言う。

「何がです?」

奏が再び問う。

「彼女は究極の『準上級魔族』なんだよ」

「は……?」

「まさか……!」

怪訝そうにする奏とは反対に、修が驚いた様子を見せる。

「そうだ!彼女は莫大な魔力を持っている。だが支配能力は下級魔族程度。つまり、下手に全力を出したりすれば……」

「魔法が暴走する……!」

修が苦い顔で呟いた。

「くそ、何で話してくれなかったんだ……!」


 (……そうか)

この会話を聞いて、信治もピンときた。由美香と共に戦った何回かの戦闘。その中で彼女は時折、苦しそうな様子を見せていた。その時彼女は、『魔力が不足していた』のではなく、『多過ぎる魔力を制御するのに必死だった』のだ。


 (そうだとすれば、総帥がしようとしていることは……!)


 「彼女には、自動反応システムを取り付けさせてもらった」

義忠が続ける。

「とは言っても、『鋼』に付けたものとは少し違う。発動条件は『攻撃を受けそうになった時』ではなく……」

義忠は手に持ったリモコンを掲げた。

「『このボタンを押した時』だ。押したら最後、彼女は死ぬまで魔法を使い続ける。……尤も、彼女が死ぬ前にこの国が氷漬けになると私は思うがね」

「なっ……!?」

3人は固まる。

「さあ、好きな方を選びなさい」

義忠は不敵に笑う。

「国を滅ぼして英雄になるか、国を守って私の従者になるか……」


 (どうする……!?)

信治は考える。

(総帥がボタンを押す前にリモコンを奪えればそれが一番いいけど……、それは厳しい……!)

義忠の指は、もうボタンにかかっている。どんなに素速く動いたとしても、義忠がボタンを押すスピードには敵わないだろう。

(何か……、何かいい手は……!)


 その時、部屋の扉が再び開かれた。

「将太……!?」

奏が声を上げる。

「……総帥、あんたが言ったんだろ?議会の衛兵に志願する奴には力をくれるって。そうすれば強くなれるって……!」

左腕を失った将太は言った。

「……そうだ」

義忠は静かに言葉を返す。

「嘘じゃねえかよッ!俺はっ……、俺は何も変われなかった……!」

将太は叫んだ。

「ならばそれは、君にその素質がなかったんじゃないかね?」

義忠の言葉は冷たかった。

「……ッ!」


 次の瞬間、将太は義忠に向かって剣を振り上げた。

「待っ……!」

信治が動いた時には既に、将太の剣が義忠の肩に食い込んでいた。そして同時に、義忠によってボタンが押される。


 「何しやがるッ!」

修が将太の胸倉を掴んで怒鳴った。

「うるせえッ!俺はこいつが許せねえんだよ!」

将太も大声で言い返す。

「てめえの話なんか知るかよ!てめえ、自分が何したか……」

『あっ、あァァッ……!』

突然、モニターに映る由美香が苦しみだした。と同時に、彼女の周囲が急速に凍り付いていく。

「由美香ッ!」

「良かったじゃないか……。優柔不断な君たちに代わって彼が選択してくれて……」

義忠が荒い呼吸をしながら言う。

「まあ私としては、交渉に持ち込みたかったんだが、拒絶されてしまったのなら仕方ない……。文字通りこの国は『氷河期』に入るだろう……」

しかしその表情は、何故か安らかだった。

「くそっ、ふざけ……!」


 不意に、建物全体が揺れた。

「ヤバい……!」

信治は焦りを隠せない。

「由美香っ……!」

修は再びモニターに目を向けるが、その時には映像は消えていた。

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