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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第6章 悪魔
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12,父と娘

 「梓……、梓!」

瑞紀が呼びかける。

「大丈夫……、大丈夫だよ……」

梓は仰向けに倒れたまま答える。しかしその声に力はなく、顔色もよくない。

「大丈夫だよな……?」

啓太が訊く。

「心臓は傷ついてないと思う。傷の処置は簡単にだけどした。あとは魔力の方だけど……、現時点で意識もあるし、落ち着くまで魔法使わずに安静にしてれば……」

瑞紀は半ば自分を納得させるように、ゆっくりとそう言った。

「そっか……、そうだよな……」

啓太は少し安心したようにほっと息を吐く。

「梓はもう無茶すん……」

不意に、何かが啓太の頬を掠めて壁に突き刺さった。

「……嘘だろ……!」

啓太は頬を流れる血を気にすることもなく、青ざめた様子でそれが飛んできた方に目を向ける。

「私は、最強なんだっ……!」

渚だった。彼女は鬼のような形相で啓太たちを睨む。

「くそっ、何とか……ぐッ……!」

立ち上がって剣を構えようとした啓太は、全身に強い痛みを覚える。

(俺と瑞紀も、厳しいか……!)

2人の体も、先ほどまでの戦闘でひどく傷ついていた。

「いやでも、あの子だって相当消耗してるはず……」

瑞紀が言う。しかしほぼ同時に、渚の周りで鋼の柱が立ち上がる。

「ダメだ……!」

「死ねェッ……!」

渚はその柱をうねらせて啓太たちに向かって放った。

「来るッ!」

啓太が叫ぶ。3人は間一髪のところでその攻撃を横に跳んでかわした。

「逃げるなァ!」

しかしその柱からさらに刃が突き出される。

「よッ、よけッ……!」

叫びかけた啓太は、その1つを右腕に受けた。細い鋼の刃は、啓太の右腕を壁に釘付けにする。

「啓太ッ!」

瑞紀が叫ぶ。

「逃げろッ!全員やられちまうッ!」

啓太は左手で瑞紀の肩を押す。

「これで終わ……うッ……!」

渚は言いかけて咳き込む。実際のところ渚も、瑞紀の推測通り消耗しているのである。

「逃げろっ、早くッ!」

啓太がもう1度叫ぶ。

「でも」

「早くッ!」

「……私が……!」

梓がその手の中に火の玉を作り出そうとする。

「ダメッ!それ以上魔法使ったら……!」

瑞紀がそれを止める。しかしその間に渚は落ち着きを取り戻した。

「はぁ、はぁ……。殺す……、殺してやるっ……!」

渚は再び鋼の刃を作り出す。

「……っ!」

瑞紀は剣を構えた。


 ……と、突然、凄まじい勢いの炎が、渚を襲う。

「誰だッ!」

渚が噛み付かんばかりに叫ぶ。自動反応システムによって、彼女が直に炎を浴びることはなかった。

「……やっぱりお前だったのか、『鋼』ってのは」

修が広間に入ってきて言う。

「由実香はどこだ」

「何だよっ……!」

渚は修を睨み付けた。

「そんなこと知るかッ!」

渚は修に向かって刃を放った。

「そうか」

その刃をかわして、修は言う。

「それならお前に用はねえ」


 次の瞬間、大きな炎が渚を包んだ。渚は鋼のドームを作って身を守るが、修は彼女に素速く近づくとドームに剣を振り下ろした。

「ッ!」

鋼のドームには罅が入る。

「とっととくたばれッ!」

修はさらに連続してそのドームに斬撃を叩き込む。炎を纏わせた剣は、ドームに確実にダメージを与えていく。

「うるさいっ!くたばるのはお前の方だッ!」

渚はそう返すが、彼女の魔力は既に限界近い。

「違う、退場すんのはお前の方だッ!父親に倣ってとっととくたばれッ!」

「え……!?」

攻撃に耐えきれなくなったドームが砕け、渚はその破片とともに壁に叩き付けられた。

「えっ……、え……!?」

しかし渚は先ほどまでとは打って変わって、困惑した様子で修を見る。

「お……父さんが……死んだ……!?」

「ああ。啝民城明憲は死んだ。俺と総一郎が殺した」

修は冷酷に語る。

「お……父、さんが……!?」

渚の目が大きく見開かれる。そして次の瞬間、

「お父さんっ!」

渚は大声で泣き出した。

「な……」

修は少々拍子抜けした様子で彼女を見る。

(おいおい……、これが最強の魔族かよ……!?鋼の魔法使えても(なか)の方は滅茶苦茶脆いじゃねえか……)

修は呆れ顔でしばらく彼女を見ていたが、

「くそっ、面倒だ……!」

舌打ちしてそのまま建物の奧へと走っていった。


 「……助かった、のか……?」

啓太が呆然とした様子で呟く。魔法は解けたので、体の自由は利くようになっている。

「みんな、大丈夫!?」

そこに信冶と奏がやってきた。

「信冶。……正直、ボロボロだよ」

啓太は苦笑する。

「……あの子と、戦ってたの……?」

信冶は怪訝そうに問う。渚は相変わらず、大泣きしているのである。

「ああ、そうだよ」

啓太は頷いた。

「信冶、行こう」

奏が言う。

「うん……」

信冶はしばらく号泣する少女を見ていたが、啓太たちの方を振り返って、

「なんとかなりそう?」

と訊いた。

「ああ、大丈夫だ。行ってきてくれ」

啓太はそう答えた。

「……分かった」

信冶はその返事を聞いて、奏と共に奧へと走り出した。

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