8,絆
「……信冶、まだいける?」
奏は背中合わせに立つ信冶に訊く。
「うん、……問題ない」
彼はそう答えるが、少し呼吸が乱れてきたように奏は思う。
「奏は?」
「大丈夫」
奏はきっぱりと答える。実際彼女には、まだ多少の余裕があった。
「行くよっ!」
奏は再び目の前の敵に向かって抜刀する。……と、突然奏に向かって突進してくる者があった。
(……!)
彼女は素速く反応して相手の剣を受け流すと、すぐに反撃に出た。
「え」
しかし、刀は止められた。相手の左腕に刃が入らないのである。
「あっ……!」
「……今度は勝つ」
鋼鉄の義手をもって奏の刀を止めたのは将太だった。
「将太……!?」
信冶も突然現れた親友の姿に動揺を隠せない。
「……信冶、いける?」
奏がまた訊く。しかし今度はその意味が違う。信冶はそう思った。
「いくしか……ないだろ」
「この間とは状況が違うぞ」
将太は奏を睨む。
「周りは全部敵。そして俺も新しい武器を手に入れた」
「まだそんなものに頼ろうとするの……!?」
奏は溜息混じりに言う。
「言ってろ」
将太が奏に向かって突進する。彼女は彼の斬撃を受け止めるが、将太はさらにもう片方の鋼鉄の拳を繰り出す。
「ッ!」
それを弾いたのは信冶だった。
「信冶、いいっ!」
奏が叫ぶ。
「他なんとかしてッ!」
そこに政府軍人たちが一斉にに襲いかかってきた。
「後ろッ!」
奏が叫んで将太を跳ね飛ばす。同時に信冶が、彼女の背後に迫る軍人たちを薙ぎ払った。
「くそ、信冶まで……。バケモノかよ」
将太は一旦距離をおく。その間も、政府軍人たちによる攻撃は続く。しかし奏と信冶は、2人で彼らと互角に渡り合っている。
「……俺だって強くなったんだ……!」
将太は再び剣を構えてその中に突っ込んでいき、奏を右の剣と左の鋼鉄の拳とで連打する。しかし奏は、そのすべてを1本の刀で受け流した。その間、彼女の背中は信冶が守っている。
(な、んでだよ……!)
将太の攻撃は、再び奏に弾かれた。
(俺は、強くなったはずなのに……!)
「信冶、将太と決着つける。手伝って」
奏の声に感情はなかった。
「……分かった」
信冶は返事だけした。
「何でだよッ……!」
将太は剣を持つ右手と義手の左手を強く握りしめる。
顔を上げると、奏と目が合った。彼女は一瞬、哀れみの表情を浮かべた。
「畜生、馬鹿にしやがってッ……!」
将太はもう一度、攻撃をかける。もう、奏以外は目に入っていなかった。
「なめんなァッ!」
将太は大きく剣を振り下ろす。しかし奏は身を守ろうとはせず、逆に狙いを定めるように将太を見据えながら抜刀の構えをとった。
「な……!」
将太の剣は、信冶が受け止めたのだ。
「将太、ここまでだよ」
「信冶ッ!」
将太は身を退こうとするが、その時にはもう奏が動いていた。
「ぐ……、無駄だッ!」
彼女の抜刀は、素速く反応した将太の左腕に止められる。
「忘れたのか?俺には……」
「外さないよ、私は」
突然、何かが折れるような音が聞こえた。
「なッ……!?」
刀は、鋼鉄の義手にあるわずかな継ぎ目に食い込んでいた。
「おい、やめろッ……!」
剣を振ろうとするが、そちらは完全に信冶に押さえられている。
「これで終わりッ!」
奏はもう一度斬撃を放った。将太は避けようとするが、それよりも先に「自動反応システム」が彼の左腕を奏に差し出していた。
「ああァッ!」
バラバラに分解した義手と共に彼は倒れる。
「……将太、」
奏は彼を見下ろして言う。
「強くなりたいのに、弱い自分から逃げるな」
「……」
将太は黙って、ただ、残った右手を握りしめていた。
「奏、先進めそう」
信冶が言う。実際、敵の数は大分減り、政府軍人たちの作る壁は薄くなっていた。突破するのは難しくない。
「そうだね。行こう……」
「いや、待て」
走り出そうとした、その時。2人の前に立ちふさがったのは、掃討軍のナンバー2である須藤賢吾だった。