7,死闘
「……来たぞ!」
建物の内部にも、相当数の政府軍人たちが控えており、信冶たちが突入してくると同時に襲いかかってきた。
「!」
信冶が攻撃を受け流して反撃に出ようとするも、すぐに体勢を立て直される。
「中の方が、強者揃いだね」
奏が冷静に言う。
「本気でいかないと、ちょっときついかも」
「う、後ろにもいるよ!」
梓が叫ぶ。信冶たちは、完全に囲まれていた。
「大丈夫。美奈たちがすぐ追いつく」
奏は刀を構えて言う。
「って、言っても……」
後ろからじりじりと迫ってくる政府軍に瑞紀は後ずさる。
「後ろは、俺に任せろ」
剣を抜いて、彼女の前に出たのは祐介だった。
「あんたらは前だけ向いてりゃいい」
「伊藤さんっ!?」
信冶が彼を振り返る。
「信冶、以前は……悪かったな。国を変えてくれよ?」
そう言うと祐介は、政府軍人たちに突っ込んでいった。
「伊藤さんッ!」
「信冶、前ッ!」
奏が叫ぶ。
「くそッ!」
信冶たちに後ろを振り返っている余裕はなくなった。
(あーあ。何やってんだか)
祐介は政府軍の中に飛び込むと、剣を乱暴に振り回す。
「何だッ!?」
敵たちの動きが乱れる。しかしそれは、一時的なものにすぎなかった。
「慌てるなッ!」
その部隊の隊長の一括によって、彼らはすぐに隊列を整えて、祐介を囲む。
「くそ……!」
四方からの攻撃を一手に受けられるほど、祐介は強くなかった。すぐにその斬撃のいくつかを肩や背に受けてしまった。
「ぐゥッ……!」
こうなることくらい、祐介にも分かっていた。
(なんだよ……。結局、潰されてんじゃねえかよ俺……)
――お前がちょっと騒いだぐらいじゃ、何も変わらねえよ。お前が潰されて、それで終わりだ――
以前に、自分が信冶に言ったことが思い出される。
(……だけど、)
祐介は倒れそうになるのを足を踏ん張って堪え、目の前にいる敵をたたき斬る。そしてその敵の手から離れた剣を左手で取ると、今度は2本の剣を振り回して政府軍人たちを薙ぎ払った。
「なっ……、二刀流だとッ!?」
彼らは怯む。
「俺はただ潰されるわけじゃねえッ……!」
政府軍を睨み付ける祐介の視線は、鋭かった。
「俺の上にアイツらが立つんだよォッ!」
そして、信冶たちはこの国を変える。魔族が理不尽に殺されるような今のこの国を、彼らは変える。そうすればもう、自分のように辛い思いをする者はいなくなるはずだ。
祐介に二刀流の経験などない。しかし交互に繰り出される斬撃は、彼の凄まじい気迫と相まって敵たちを強く戦かせた。
「くッ……!怯むな!相手は1人だぞッ!」
小隊長が叫び、隊員たちを率いて彼に反撃する。
「ちぇっ、ここまでか……」
祐介は向かってくる敵の一体を前に呟く。既にいくつもの斬撃を受けてぼろぼろになった身体はふらつくが、それでも最期まで倒れる気はない。
「1人でも手強いぜ俺ァッ!」
精一杯の強がりを吐きながら、祐介は政府軍に突進した。
「1人じゃ、ありませんよ」
不意に、目の前の軍人たちの隊列が崩れる。
「……!?」
呆気にとられている祐介の前に現れたのは、丹波美奈率いる第0309小隊だった。
◆ ◆ ◆
「あっ、来た!来たよっ!よかったあ……」
梓が叫ぶ。祐介の元に美奈たちが辿り着いたのが見えたのである。
「よくねえっつの!」
啓太が怒鳴り返す。
彼らは依然として5人での戦いを繰り広げているのである。しかも建物内部にいる軍人たちは外よりもレベルが高い。苦しい戦いだった。
「ねえ、でもあそこ。抜けられそうだよ?」
梓が視線で示した辺りは、確かに兵の壁が薄い。
「……行ってみるか。瑞紀!」
「うん!動けるよ!」
瑞紀は梓の話を聞いていたようで、すぐにそう答えた。
「行くぞ!」
3人は一気に守りが薄くなっているそこに突撃する。すると、あっさりと兵たちの間を抜けることができた。
「よし!信冶!こっち……」
しかし次の瞬間、壁を閉じて政府軍人たちが啓太たちを振り返った。
「……あ、ハメられた……」
啓太はすぐに悟る。
「おい、何でそっちにいるんだ!?」
軍人たちの壁の向こうで信冶が叫ぶ。
「先に進んで!」
同時に、奏の声も聞こえた。
「……どうする?」
啓太は政府軍人たちと対峙しつつ、瑞紀に問う。
「行くしかないでしょ、こうなったら」
彼女はそう答える。
「行こう!」
梓が奧に向かって走り出した。
「あ、おい!……くそ、行くか……!」
啓太と瑞紀も彼女の後を追って、建物の中央にある階段を駆け上がる。
「……追ってこない」
瑞紀が怪訝そうに呟く。建物の奧へと向かう彼らを、政府軍人たちは誰も追ってきていないのだ。
「確かに。妙だな……」
啓太も言う。
「……この子がいるからだ……」
階段を上った先にある大きな広間。そこに一番に飛び込んだ梓が、落胆した様子で言った。
「あっ……!」
後に続いた瑞紀も絶句する。
「こんにちはー」
広間には、啓太たちに向かって手をひらひらと振って笑う渚がいた。