4,決着
「ぐッ……!」
修たちに向かって刃の雨が降る。
「……あんたのは、鉄かな?」
その攻撃をかわしながら総一郎が訊く。
「ご名答」
明憲は攻撃の手を緩めることもなく答えた。
「おい、どうにかなんねえのか!?」
修が叫ぶ。
「今言ったろ?お前が鍵だよ」
総一郎が返した言葉で、彼はようやく気づいた。
「こうか!」
飛んでくる刃に火の玉をぶつけ、剣をたたきつける。鉄の刃は大きく圧し曲がった。
「そういうこと」
総一郎も、修の魔法によって熱された刃を破壊しながら言う。
「よしッ!」
修は明憲に向かっても炎を放った。明憲は鉄の盾でそれを受ける。
「行ける!」
「……なめられたもんだな」
明憲が低い声で呟く。と同時に、今まで降り注いでいた刃が突然弾けた。
「何だ……!?」
「おい!下がれッ!」
平生の彼にはないような形相で総一郎が叫ぶ。
「!」
次の瞬間、小さい粒のようになったそれらが、スーパーボールのようにあちこちを飛び交い始めた。修はとっさに自分の周りに炎の壁を作るが、溶けきらなかったいくつかが腕や脚に突き刺さった。
「……ッ!」
「剣使えッ!」
そう叫ぶ総一郎は、剣1本で鉄の棘を受け流している。
攻撃が止んだ時には、修の服はあちこち裂け、血が滲んでいた。
「私を……、なめてもらっては、困る、ね……!」
そう言う明憲は、少し呼吸が荒くなっていた。
「……修、」
総一郎が呼びかける。彼の体に傷は1つも見あたらない。
「お前、自分守りながら、あいつの盾攻撃しろ」
「え」
「俺があいつをたたく」
2人が話している間に、鉄の棘が再び動き始めた。
「俺の主義には反するけど……、勝負だ」
総一郎が1歩踏み出すと同時に、鉄の棘は再びはね回りだした。
「ばッ、そんなの無茶……」
しかしすぐに、叫ぶ余裕はなくなった。修は飛んでくるそれをうち払うことに意識を集中せざるを得ないのだ。
(……盾を、攻撃)
だが自分がすべきことは、理解している。
(攻撃……!)
修は集中力を極限にまで高め、明憲の攻撃を受け流しつつも彼の盾に向けて炎を放つ。
非常に難しいことだった。防ぐ対象と攻撃する対象。それらは当然のごとく別に存在している。そのため、飛んでくる鉄の棘に対して体を反応させつつ、それとは別に攻撃対象に向かって意識を集中させねばならないのだ。
(だけど、あいつよかマシだ……!)
「あいつ」は敵の攻撃の中心に向かって、真っ正面から突っ込んでいくのだ。
これも当然のことながら、壁に当たって跳ね返るものに当たる可能性は、部屋の隅よりも中心の方が高い。そこを突っ切って総一郎は明憲の盾を攻撃しなければならないのだ。この「勝負」は非常に危険なのである。もっとも、明憲が消耗し切るまで身を守り続けることができないのは明白であり、勝つにはこの手しかないとも言えた。
とにかく、その危険な作戦を総一郎は実行していた。部屋の中央付近では、攻撃はかなり激しい。その中を進む彼の手元は速すぎて、修の目にはどう動かしているのか分からない。確かなのは棘が弾かれているということだけである。
「……上等」
総一郎は盾に接近した。その鉄の壁は修の魔法によって十分に熱されていた。総一郎は激しい攻撃の中、その壁に強力な一撃をたたき込んだ。
「!」
鉄の盾は大きくへこむ。
「ぐッ……!」
明憲はその壁の一部を変形させて刃を突きだした。しかし総一郎はそれを軽く体を捻ってかわすと、さらにもう一撃を鉄の壁に入れた。
「なッ……!」
壁はその力に耐えきれずにとうとう砕ける。
「くそ……、人間風情がッ……!」
明憲の言葉は、最後まで続かなかった。総一郎の剣が、彼の胸を貫いたからである。
「お……わった、のか……」
息を切らしながら修が呟く。
「あー、くそ、やっぱこういうの柄じゃねえなあ」
言いながら総一郎は頬を流れる血を拭う。彼がこの戦いで受けた、唯一の傷である。
「……さて。俺はこれからアクネに向かうけど、お兄さんはどうするよ?」
「俺も、行く」
修は呼吸を整えながら答えた。
「まだ由実香を助けてない」
「さっきの話に出てきた『氷のお姫様』だな。よしっ、じゃあ行くか」
総一郎はそう言って部屋を出ていく。
「……お前の目的って、何なんだ?」
修は彼に問う。
「……さあね。今はまだ見えてない」
総一郎は立ち止まるが、振り返りはしない。
「ただ……、確かなのは、お偉いさんたちがやろうとしてることは『面白くない』ってこと」
それだけ言うと、総一郎は再び歩き出した。