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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第6章 悪魔
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3,鋼

 エトニア北部における、魔族の反乱軍と議会軍との戦況は、完全にひっくり返っていた。

 議会には、人間の軍がついている。その軍人たちは人工魔法が使え、魔族の魔法を無効化できる。議会側は圧倒的に有利なはずであり、実際、戦闘が始まった当初は議会軍が戦場を支配していた。

 しかし、1人の人間が、戦況を覆した。たった1人の人間が。


 「あァァッ!」

また1人の衛兵が、その人間……、杉田総一郎に斬られる。彼に剣を向けた者は尽く彼の剣の餌食になった。それが何人であろうとも、相手が総一郎となれば1分と持たない。

 (いける……!)

修は確信した。そして、自分の周りから衛兵がいなくなったタイミングを見計らって、議会の門に炎の玉を叩き付ける。頑丈な門ではあるが、今の修は完全にフリーである。彼が全力を投じれば数分ともたない。


 「門が破られましたッ!」

その報告を聞いて、議員たちは震え上がる。

「ええい、人間の衛兵はどうした!明憲!」

議員たちがそちらに目を向けると……、明憲は姿を消していた。

「なッ……!?」

「……先ほど、衛兵の増援を要請すると言って出ていかれました」

彼の隣に座る議員が恐る恐る説明する。

「逃げた!奴は逃げたんだ!」

議員たちはざわめく。……と次の瞬間、部屋の扉が吹き飛んだ。

「今日も集まりでしたか。ご苦労様です」

修だった。

「もう、ここまで……!議会の中にも上級魔族の兵がいたはず……!」

「ああ、すいませんね。その人たち、もう寝てますよ」

後に続いた総一郎が言う。

「人間……!」

「それでは……、さようなら」

修は部屋に火を放った。

「うわァッ!」

「落ち着け!水だ!水の魔法を使えッ!」

数人の議員たちがすぐに消火に動く。しかしパニックに陥った者たちもおり、そういった議員たちは修たちの立つ出口に向かって殺到した。

「どけェッ!」

そして2人に向かって魔法を放つ。

「おお、やる気だなあ」

それらの魔法を避けながら、総一郎が剣を抜こうと構える。

「いや、」

しかし、修がそれを止めた。

「いらない」

議員たちは互いの魔法を互いに受けて苦しんでいた。

「……あなたが思っているほど、彼らは強くない」

目の前の上級魔族たちは、自分が助かることしか考えていない。それを、修はよく分かっていた。

「行こう」

同士討ちとも言えるような状況に陥っているその部屋の中で、修は総一郎に言った。

「一番重要な人物が、ここにはいない」


 その人物は、自室で受話器を握っていた。

「どういうことだッ!議会が守れないのでは衛兵の意味がないではないか!」

『こちらも、反乱軍との戦闘がいつ起こるとも知れない状況なのだよ』

「そんなことは知らん!条約では……」

『そっちから受けた兵力の分はこっちからも送った。後は自分でなんとかしてくれ』

「なッ……!待てッ!」

通話は切られた。

「……くそッ!」

明憲は受話器を叩き付ける。

 「なんだか分かりませんが、上手くいかなかったみたいですね」

修と総一郎が部屋に入る。明憲は一瞬、彼に嫌悪感たっぷりの視線を向けたが、すぐに余裕を取り戻したように笑う。

「やはり人間は狡猾だな。条約など結んでも無駄だった」

「後悔はあの世でなさってください」

修は火を放つ。しかし同時に彼に向かって刃が飛んできた。

「!」

「あの世に逝くのはお前らの方だよ」

さらに連続して刃が降り注ぐ。

「ん?」

その攻撃をかわしていた総一郎が怪訝な顔をした。

「なめんなッ!」

修がかわしながら火の玉を放つ。しかし明憲は自分の周りを壁で囲んでそれを防いだ。

「くそっ……、おい、あれ砕いてくれ!」

修は総一郎に言う。

「いや、無理」

しかし総一郎は首を横に振った。

「なんでだよ!?」

総一郎は黙って飛んできた刃の1つを剣で叩く。刃は、砕けなかった。

「なっ……!?」

「空気、かな。この部屋のは、他と違う」

「さすが、戦況をひっくり返しただけのことはあるな」

魔法を解いて、明憲が言う。その顔には、やはり余裕が見える。

「君の言う通り、この部屋には人工魔法物質を無効化する空気が、常に存在している」

「だから会議室じゃなくてここにいたのか……!」

修が苦い顔をする。

「反人工魔法物質に、金属系の魔法、ね……。あんた、名前は?」

総一郎が問う。

「啝民城明憲」

「そう……。やっぱり」

総一郎は少々呆れた様子で言う。

「やっぱりって……、何がだよ?」

訳が分からないという様子で、修が訊いた。

「いや、親子って似るもんだなあと」

「親子?」

「『鋼』を知っているのか?」

今度は明憲が問う。

「『鋼』って……。自分の娘をそんな風に呼ぶかね、普通……。ってか、親子で合ってるよな?疑っちまうよ」

「その通りだよ。あれは、生物学的に言えば私の娘だ」

明憲は頷く。

「……しかし、私にとっては『娘』というよりかは『作品』だな」

「『作品』……、全く言い得て妙だ。確かにあの子は『育てられた』っていうより『作られた』って感じだもんな」

総一郎は呆れた様子のまま話す。

「そうさ、」

明憲は不敵な笑みを浮かべる。

「あれはもともと、そういう目的で作ったんだ。生まれてすぐ、脳に強いイメージを焼き付けて、人工物である『鋼』の魔法を使えるようにした。自動反応システムも埋め込んだ。魔法物質にはここにあるような反人工魔法物質も組み込んだ。上級魔族でなかったこと以外は完璧といっていい出来だ」

「……まさしく『新兵器』だな」

「おい、ちょっと待てよ」

ここで修が割って入る。

「そんな無茶苦茶な魔族がいるってのか……!?」

「おや、君は会っていたんじゃなかったのかい?」

明憲が言った。

「は……?」

修は怪訝な顔をする。

「氷のお姫様をさらったって、怒っていただろう」

「……まさか、あいつが……!?」

修の頭の中に、そのシーンが蘇る。


 由実香を奪い返しにきた男……、信冶、だったか……、彼と戦っていたその途中で聞こえた悲鳴。修が魔法を解くと、目の前には倒れている信冶の仲間と、人形のような少女が……。


 「……だから、あいつらは下級魔族相手に手間取ってたのか」

「思い出したようだね」

明憲はそう言って、

「……それじゃあ、話はこれくらいにしよう」

修たちに刃の雨を降らせた。

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