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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第6章 悪魔
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2,アクネへ

 「……へえ」

エトニアの診療所。その、休憩室にいた医師の誠は小さく声を上げる。

 すぐに部屋を出て、1週間ほど前にここに来た患者の元へ向かう。


 「あ、飯田さん!」

誠の姿を認めると、梓はすぐに彼に駆け寄る。

「飯田さん飯田さん!瑞紀がもう大丈夫とか言ってベッドから出ようとするんですよ!?ホントに大丈夫なんですかっ!?」

「それくらいなら全く問題ありませんよ。まだ完治したわけじゃありませんけど」

「そっかあ……、よかったあ」

梓はその場にへたり込む。

「すいません。そいつすぐ騒ぐもんで」

啓太が謝る。

「いや……、もう慣れましたし」

瑞紀がここに運ばれてきてから今日まで、梓はほぼ毎日そんなことを繰り返していたのだ。

「もう……、大袈裟なんだよ、梓は」

瑞紀が呆れ顔で言う。

「だってぇ……!」

梓は今にも泣き出しそうな顔をする。

「……しかし、行ったと思ったらすぐ帰ってきましたね」

誠も少々呆れた様子で言った。

「すいません」

今度は信冶が苦笑しながら謝る。

「……ああ、そうだ」

と誠はそこで自分がこの部屋に来た本来の目的を思い出した。

「あなたたちは、軍と何かしら関わっているんでしょう?」

「えーと……、まあ」

信冶は曖昧に答える。

「なら、来てください。ちょっとすごいことになってますよ」

「?」

信冶たちは怪訝に思いながら、誠の後に続く。

「あっ、待って!」

梓が叫ぶ。

「瑞紀はベッドから出てもいいんでしたっけ!?」

「いい加減にせいっ」

啓太と瑞紀が同時につっこんだ。


 誠は進治たちを連れて、休憩室に入った。

「ほら、これ。さっきからずっと放送されてますよ」

誠はテレビを指し示す。

「あー、そういえば最近テレビ見てな……」

信冶は途中で言葉を切った。視線は完全にテレビに釘付けになる。

「……反乱!?」

「上層部の人間の抹殺って……!」

瑞紀も息を呑む。

「……奏……将太……」

信冶は携帯を取り出す。……が、その姿勢のまま固まる。彼らが、今の自分に口を利いてくれるはずないではないか。

(……それなら、)

信冶は、別の番号に電話をかける。

『……はいっ、……』

相手はすぐに出た。

『北原さん……?』

電話帳に登録されていたので、信冶がかけてきたことは分かったのだろう。

「丹波さんだよね?」

『はい……』

美奈はかなり動揺しているようだった。無理もない、と信冶は思う。彼は現在、軍を裏切った反逆者の身なのだ。

「テレビ見たんだけど……、軍の現状を知りたいんだ」

『……何で隊長に訊かないんですか?』

おそらく美奈は、その理由を分かっている。分かっていて、訊いている。信冶はそう思った。

「奏とは……、今喧嘩してるから、ね……」

信冶はなるべく軽い感じで答える。

『ふざけないでくださいッ!』

しかしその言い方はかえって彼女の癇に障ったらしい。

『何ですか、「喧嘩」って!隊長は今、そのせいで独りなんですよッ!?』

「独り……?」

その言葉が、引っかかった。

「将太は……、どうしたの……?」

『あの人もいなくなりましたッ!』

吐き捨てるように美奈は言う。

「将太も……?」

彼も、この世界に疑問を持ったということだろうか。

『美奈?どうしたの?』

遠くで奏の声が聞こえる。

『いえ、なんでもありません!』

美奈はそう返事をしてから、

『隊長をこれ以上悲しませないでください……!』

声は抑えているが強い口調で言った。

「……」

信冶は、何も答えられない。

 そうこうしている間に、通話は切られた。

「……信冶?」

梓が心配そうに声をかける。

「え、……ああ、うん……」

信冶は半ば放心した状態で答えた。

 ……と、不意に携帯の着信音が鳴った。

「!」

美奈からのメールだった。それには、軍が内部分裂した経緯について簡潔にまとめられている。

『ありがとう』

短い礼のメールを返信してから、信冶はそのメールに目を通す。

「え、何、誰から?」

梓が問う。

「……本部に行こう」

信冶は、携帯の画面を見つめたまま言う。

「は……?」

瑞紀が怪訝な顔をする。

「本部って」

「アクネにある、掃討軍総本部だよ」

「おい、ちょっと待てよ」

啓太も、多少動揺した様子を見せた。

「これから戦場になるって言われてる場所に行くのか!?」

「国を変えられるチャンスが来たんだ」

「それって反乱軍に加わるってことか!?」

「正式に加わるってわけじゃないけどね」

「……」

啓太は少し思案するように顔を俯かせる。

「それにこの戦い……、政府軍が勝ったら俺たちにとっても問題なんだ」

「どういうこと?」

瑞紀が怪訝そうに問う。そこで信冶は、美奈から受け取ったメールの内容を彼女たちに話した。

「……そんな」

瑞紀は動揺を隠せない。

「それなら確かに、行かなきゃなんねえな」

啓太は納得したように頷く。

「もちろん、強要はしない……」

言いかけた信冶を啓太は手で制す。

「何度も言わせんなよ、リーダー」

「ああ……、ごめん」

信冶は苦笑する。

「……また、危ないとこ行く気ですね?」

誠が腕を組んで言う。

「怪我したらまた来てもいいですか?」

瑞紀が珍しく少しおどけて訊いた。

「いや、」

誠は首を横に振る。

「私も行きますよ」

「え!?」

瑞紀たちは驚いて声を上げた。

「国が変わる瞬間を見逃す手はないですからね」

誠はすまして言う。

「でも……、危ないですよ?」

梓が言う。

「別に最前線まで出ていこうって気はないですよ。……まあ、安全な位置で医療班の手伝いでもしてます」

「……この人、言ってもきかねえだろ」

啓太が信冶に言う。

「そうだね」

信冶はまた苦笑しながら言う。

「行こう、アクネへ」

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