0,始まりの演説
広い土地に、背の低い建物が詰まっている。高さのある街というよりかは、広域に広がる街という印象である。開拓が進んで、もう鮮やかな緑を見ることが難しくなってきているこの街には、冷たさを感じる無機質なコンクリートの四角い「塊」が、規則正しく並んでいた。ただ時折建物の間を通り抜ける風だけが「自然」を感じさせてくれる。
そんな街の中心部に建つ、一際無骨な建物。辛うじて正面に見えるバルコニーが多少の優美さを残してはいるものの、角々しいその外見は、国の中枢を担う人物の公邸とは到底思えない。しかしその日その建物の周りには、非常に多くの人々が集っていた。人々は「その時」が来るのを今か今かと待ち続けていたのである。
ざわめきが大きくなる。1人の男が、建物のバルコニーに姿を現したためだ。軍服をきっちりと着た男は、帽子も深く被っておりその表情は窺い知れない。
男は軽く右手を挙げて人々のざわめきを静めると、口を開いた。
「人類が魔力を持つ者とそうでない者とに二分されてから今日まで、我々人間族は魔族によって支配されてきた。……奴らの持つ魔法に対抗する力を持たなかったためだ」
男は決して怒鳴っているわけではなかったが、その声には力強さがあった。
「我々は、奴らの言いなりになるしかなかったのだ」
男はここで、少し間を空けた。人々が再びざわめく。先ほどのものとは少し違った、怒気を含んだざわめきだ。男は密かに笑う。だがすぐにそれを消し、また右手を挙げて話し出す合図をする。
「……だが、我々は魔法に対抗する力を手に入れた。もう奴らの思い通りにはさせない。魔族に、我々の力を思い知らせてやるのだ」
人々の間から歓声があがった。
「魔族は罰を受けるべきだ。我々を苦しめてきた、その罰を……!」
男は徐々に語勢を強めていく。それに伴って歓声も大きくなる。
最後に男は、こう叫んだ。
「私はここに、魔族の支配からの脱却を宣言するッ!」
歓声は最高潮に達した―――。