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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第6章 悪魔
39/58

1,議会攻撃

 「……55%ってところですかね?」

美奈が呟く。

「そうだね。残り45%が全部本部側に回ることはないにしても……、兵力は五分五分かな」

奏は冷静にそう分析する。


 奏たち0309小隊は、他の小隊にも協力を呼びかけて反乱軍を構成しようと考えていた。他の小隊の中にも、奏ほどではないにしろ、上層部の不穏な動きに勘付いた人間がいたのだ。……しかし、気づいていることと反乱軍に加わることとはイコールではない。

 結果、反乱軍への参加を表明した小隊は全体の55%に留まったというわけである。


 (この数字をどう見るか……)

奏は考える。

 美奈には「五分五分」などと言ったが、実際のところは、むしろ不利なのではないかと彼女は考えている。


 美奈に言った「兵力」とは、人間の軍人のことを指したものだ。だが実際には、本部の側には「研究への協力」の名目で集まっている魔族たちもいる。1人2人なら人工魔法でどうとでもなるが、数十人にもなればかなり厄介である。

 さらに、「人工魔法が効かない魔族」がいるという噂も耳にしている。将太のこともあるし、今の軍の研究機関であればそのような技術を持っていても不思議ではない。となれば、その噂も全否定はできないだろう。


 「隊長!」

突然、隊員の1人が血相を変えて奏たちの元にやってきた。

「何、どうしたの?」

奏が問うと、

「テレビを!」

とその隊員は叫んだ。美奈がすぐに部屋のテレビの電源を入れる。


 『……繰り返しお伝えします。魔族掃討軍の一部が軍上層部に反旗を翻し、本部を攻撃することを画策していることが、本部の諜報部隊によって明らかになりました。その目的は西澤義秀総帥を始めとする軍上層部の人間を抹殺し、政治の主導を握ることにあるとのことです』


 「あッ……!」

美奈が驚きの声を上げる。

「うーん、ついに情報が漏れたね」

奏も苦い顔をする。

「しかも『抹殺』とか、すごい悪そうに言われてるし」

彼女が話している間にも番組は続く。


 『西澤総帥は、次のように述べています』

画面に義秀の姿が映し出される。

『私は、身内同士で戦うために掃討軍を作ったのではありません!このような行動を起こそうとしている者たちに失望しました。非常に遺憾だ!』

(こっちの台詞だよ……)

呆れた様子で奏は画面に映る男を見る。

『我々は反乱軍を本隊をもって迎え撃ちます!非常に危険な戦闘になることが予想されます。つきましては付近の住民の方々に避難を』


 聞いていられなくなって、奏はテレビの電源を落とした。

「……これで私たち、完っ全に悪者になったわけだ」


 奏たちにとってもう1つ不利なことは、国民の信頼を得られていないということである。

 義秀の人気は、今なお非常に高いのだ。そのため、彼に反旗を翻す奏たちは、今の演説がなくても必然的に「悪」なのである。奏たちもそうなることに対して手を拱いていたわけではなく、アクネの人々に上層部の計画について話したのだが、当然のように無視された。


 「……どう、します?」

美奈が不安そうに訊く。

「どうもしないよ」

奏は特に気にした様子もなく言う。

「私たちがやるべきことは、変わらない」


◆ ◆ ◆


 一方、ウェルド北部。修率いる魔族の反乱軍は議会の前に集まっていた。

「石頭の議員さんたちを呼んでもらえますかね?」

修は門の前に立つ衛兵に言う。

「出来ない相談だな」

衛兵は修に冷ややかな視線を送る。

「……ああ、そう」


 次の瞬間、議会前は炎に包まれた。

「反乱軍だ!潰せッ!」

門番が叫ぶと、建物から数十人の衛兵たちが現れた。

「衛兵は放っておけ!それよりも建物に突入することを優先しろ!」

修も叫ぶ。と同時に魔族たちが議会に向かって殺到する。


 魔族の戦闘は、傍目に見るとすさまじい。炎や氷や水をその場で作り出すのである。普通の人間であったら、そのあまりの迫力に驚き戦くことだろう。

 しかし、今魔族たちが戦っているのは軍人である。彼らは、そのような戦闘に慣れているし、何より掃討軍には「人工魔法」がある。魔族が多少派手に暴れたところで、大して問題にはならない。今回の戦闘においても、それは例外ではなかった。


 (こりゃあ、予想以上だな……)

修たちは衛兵たちの壁を越えられずにいた。

(どうする……?)

しかし、考えている余裕もない。次から次へと突っ込んでくる衛兵たちの相手をするので精一杯の状態なのだ。下級魔族たちの信頼を得るために(しきかん)が前へ出たことが裏目に出た形だ。

(明らかに俺狙いだな……。くそ、これじゃじり貧だ……!)

しかしどれだけ修が強い魔法を使おうとしても、周りを人工魔法で囲まれてしまってはその力もほとんど無駄である。そしてそうこうしている間にも、武器の扱いに慣れていない下級魔族たちは倒れていく。


 「ちっきしょッ……!」

修が全力を持って強引に道を開こうとした、その時だった。

「柄じゃ、ねえんだけどな」

怒鳴っているわけではないが、不思議と通る声。

「!?」

気が付くと、「その男」はもう、修の隣に立っていた。

「けど、面白くねえから……、なあ?」

誰に言うでもなく、男は議会の方を向いて呟く。

「お前、人間……!?何者だ」

剣を構えながら、衛兵の1人が訊く。

「杉田総一郎」

彼は名乗ると同時に、剣の柄に手をおいた。


 「なッ……!?」

次の瞬間、修の前にいた3人の衛兵が倒れた。修は驚きのあまり、絶句する。

「助太刀にきましたぜ、お兄さん」

総一郎は不敵な笑みを浮かべて、言った。

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