7,将太 対 美奈
「本当の?それは、どういう意味だ?」
将太は問い返してくるが、奏から見ればそれは下手な演技だった。
「軍の資金が潤沢になる。……その資金はどこから?」
奏は問いつめる。そうしなければ、自分に嘘をつくことになる。彼女にとって、それは出来ないことだった。
「賠償金だよ」
将太は真剣な表情でそう言う。
「違う。もっと、永続的な資金調達の手段があるんでしょ?」
動かぬ証拠があるわけではない。だが、彼女は彼の「幼なじみ」だ。「親友」だ。だからこそ、分かってしまう。
例えば、将太は真っ直ぐな男だ。だから嘘をつく時もそのことだけに意識を集中してしまい、普段よりも熱がこもった話し方をする。嘘をつくのに一生懸命になってしまうがために、彼の嘘はすぐにばれてしまうのだ。そのことを、奏はよく知っていた。
「……そのことに関しては、他言無用ってことになってんだけどな」
将太は、誤魔化すことを諦めたようだった。
「……掃討軍の軍備に関する税だよ。それを上げる」
「でも、増税なんかしたら、みんな黙ってないんじゃ……」
美奈が指摘する。
「魔族を、使うんだね?」
しかし奏には、既にその計画の大枠が見えていた。
「増税に反対する人たちには、その必要性を分からせればいい……ってことでしょ?そうすれば、増税だけじゃない、掃討軍に関するあらゆる制度を自由に作ることができる」
「えっ、え、それって……!」
美奈もその方法に当たりが付いたのだろう。青ざめた様子で呟く。
「その『作業』をするのは議会の衛兵になった人間の中から選ばれるんだ」
将太は開き直ったようで、薄く笑みを浮かべて言う。
「わざと魔族を町で暴れさせ、選ばれた軍人たちが偽りの正義をかざしてこれを撃破。……素敵なお芝居だね」
もちろん、奏に笑顔はない。
「……奏は、そうだろうと思った」
将太は笑みを消して奏を睨む。
「だけど、この流れに逆らって……、それでどうなる?全てを失うだけだ。それよりも流れに乗って今以上の生活を手に入れた方がいいに決まってるだろ」
「何が『決まってる』って言うの!?」
奏も将太を睨み返す。
「仲間を騙して、民を騙して……、その結果お金や地位が手に入って……、それの何が嬉しいの!?」
「さっきも言ったろ?この世の中、自分が生きるためには他人を踏み越えていかなきゃどうにもなんねえんだ」
「違うよ!違う……!それは逃げてるだけ。他人を助ける余裕はないって、早くに自己完結させちゃってるんだよ!」
奏は将太に訴えかける。
「奏の考えてることは幻想だ。現実のものじゃない」
将太の言葉に、奏ははっとする。そのフレーズに、聞き覚えがあったからだ。
――幻想にすぎないよ、それは――
――幻想なもんか……――
(ああ、私が求めているものも、将太にとっては『幻想』なんだ……)
奏は心の中で苦笑する。
(だとしたら、私が『幻想』だって言った信冶の考えも、見方によっては現実のものなのかも)
「……ここまでだな」
将太は溜息をついて、剣を抜いた。
「何してるんですかっ!」
美奈が声をあげる。
「さっきも言ったけど、魔族を使った『作業』のことは秘密なんだ。そういうやつは消せって言われてんだ」
「そんなの……させません!」
美奈も剣を抜く。
「美奈、いい。私がやる」
奏は、自分を庇うようにして将太と対峙している美奈に言う。
「嫌です!2人が戦うのは見たくない……!」
しかし彼女はどこうとしない。
「別にどっちでもいいよ。最終的には2人とも斬るんだから」
将太はそう言うと、美奈に向かって突進する。
「!」
将太の放った斬撃を美奈は横に逸らす。
「やむを得ないのなら……、私があなたを斬ります!」
美奈は彼が再び振り降ろした剣を受け止め、弾くと、今度は自分から攻める。
「!?」
美奈の剣に将太は翻弄される。
臨時の隊長を任されるだけあって、美奈の剣の扱いは隊でナンバー3と言えるほどのものだ。それどころか、経験を抜いて純粋な剣術で比べたならば、将太と肩を並べられるだろう。それほどの才能が、彼女にはあった。
加えて、将太には「油断」があった。「自分よりかは劣っているだろう」という慢心が。だから予想以上に速い美奈の攻撃に対応が遅れ、彼女の剣に翻弄されてしまったのだ。
剣を大きく逸らされ、彼の胴ががら空きになってしまったのも、彼の「油断」が生んだものだった。
(入る……!)
美奈はその隙を見逃すような剣士ではなかった。……しかし。
(えッ……!?)
彼女の剣は、入らなかった。
将太が、彼女の剣を受け止めたのである。まるで、美奈が振る剣の軌道を始めから知っていたかのように、なんの躊躇いもなく彼はその軌道上に剣を動かした。
その動きは無機的で、機械的で、予想外に攻撃を防がれたことも相まって美奈をひどく動揺させた。
「美奈ッ!」
奏の声で彼女が我に返った時には既に、将太の剣が彼女に向かって突き出されようとしていた。
「……ッ!」
持ち前の運動神経のよさでとっさにしゃがむが、将太の剣は彼女の左肩に入った。
「ぐッ……!」
素速く彼の剣を弾いて距離を取るが、肩の傷は浅くない。鮮血が溢れる左肩を押さえながら、美奈は片膝をつく。
「……残念だったな」
将太が再び剣を構え、彼女にとどめの一撃を振り下ろした。