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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第5章 ズレ
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2,思惑

 「……えっ、連絡ないの?」

奏は携帯を片手に、部屋を出る。右はまだ痛むので、左手に持っている。


 彼女はまだ、正史の家に残っていた。右腕の治療を受けるため、というのは表向きの理由である。心を落ち着かせたかったというのが実際のところだ。


 信冶がとった手段……、それは奏の覚悟を踏みにじる行為であり、彼女は腹が立った。しかし信冶がそのような行動をとった理由は、敵となっても、友人である奏を殺したくはなかったからである。決して彼女の気持ちを傷つけるためではないことくらい、奏も分かっている。だが、だからこそ彼女は怒ることができず、むしろ胸が痛む思いをしていた。


 『そうなんです。こちらからかけても出ないですし……』

電話の相手は、現在0309小隊を取り仕切っている美奈である。

「分かった。私からも一応連絡してみるね」

『お願いします』

「それじゃあ、またね。明日明後日くらいにはそっちに戻るよ」

『はい!』

さっきよりも明るい調子の返事。隊長も副隊長も不在という状況の中、不安だったのだろう。ほっとしたような、そんな気持ちが伝わってきた。

「……ごめんね」

『えっ?』

「いや……、それじゃあ、またね」

『はいっ』

奏は通話を切り、リビングに入る。


 リビングでは、正史がコーヒーを飲んでいた。

「師、」

奏は呼びかける。

「何だ」

正史は相変わらず無愛想に返事する。

「将太、連絡つかないみたいなんです」

「ああ……、あいつは時々、ひどく不安定になる時があるからな……」

正史は頬杖をつきながら呟く。

「はあ……。あの、とにかく、将太も帰ってないから、小隊これ以上放っておくわけにもいかないので、私帰ります」

奏は、正史の言葉をどうとってよいか分からずに、とりあえず自分の考えを話す。

「そうか。……もう、落ち着いたか?」

正史は心持ち顔を上げて、言った。

「……正直、まだふらふらしてますよ。信冶を追いかけたいとも思ってる。……でも、あれが1つの決着だったんだって、だから私はもう、『隊長』に戻らなきゃって思えるくらいにはなりました」

奏は部屋の片隅に立てかけてある信冶の剣を手にし、その柄にハンカチを巻き付けた。

「私は人間の幸せを守ります。それだけは、もう絶対に揺らがない」


◆ ◆ ◆


 「人間が、ここに?」

上級魔族の1人が声をあげる。


 突然入ってきたこの情報に、議会は再招集されていた。

「数は?」

「3人です」

守衛についていた魔族が答える。

「3人……!?」

「はい。それから、魔族が1人」

「その魔族が、人間をここに導いたというわけか。……しかし、3人とは……」

その議員は、呆れたように呟く。

「何が目的だ……?」

議会がざわめく。


 「多分、俺に用があるんだと思います」

修が言った。

「何?」

議員の魔族は、怪訝そうな様子を見せる。

「その人間たちは、俺に用があって来たのだと思われます。したがって、議会や、他の魔族に対して何かしてくるということはないと思います」

修は努めて、静かな口調で話す。

「なぜ分かる」

「入ってきた情報が正しければ、俺は1度、その人間たちと戦っています。そのリベンジといったところでしょう」

「リベンジ!?……まったく、お前はどうしてまた、そんな火種を作ってくるんだ……」

別の魔族が溜息混じりに言う。

「その人間たちが背後に軍を控えさせていたらどうする……」

「いえ。その心配はないかと」

修は怒りを押さえ込みながら、そう返す。

「なぜだ」

「彼らは掃討軍を裏切った……言ってみれば人間のはぐれ者です。軍がついているはずがない」

「……だが、お前の言うことを100%信じることはできん」

「まずは俺を行かせてください。俺が彼らに目的を直接聞きましょう。俺に用があるのならば、あなた方はこの件に関して一切口出ししないでいただきたい。……しかし、もしも彼らの目的が別の所にあったならば、その後のことに関して、俺は一切口出ししません」

修は「一切」を強調して言う。

「あなた方にとっても悪くない話であるはずだ。たとえ彼らの後ろに軍が控えていたとしても、俺は捨てゴマだ。時間稼ぎのために使えばいい」

「ふうむ……、どう思う」

議長が誰にともなく尋ねる。周りの魔族たちはしばらくざわついていたが、反論するものは出なかった。

「……よし、分かった。鏑之宮修。お前の案を採用しよう」

「ありがとうございます」

修は半分棒読みの礼を言うと、議会を出ていった。


 「……向こうには、連絡ついたのか?」

議会が解散され、部屋に戻った中年の男は、留守を預かっていた魔族に尋ねる。

「ええ。喜んでいましたよ」

「だろうな。やつはアレをそうとう欲しがっていたからな。……ところで、向こうの状況はどうなってる」

男は椅子に深く腰掛ける。

「はい、向こう側は既に声をかけ始めているそうです」

「そうか。……まあ、向こうは組織が大分ばらけてるからな。こっちの場合、議会の連中を言いくるめるのは難しくないし、急ぐこともないだろう。問題はアレを奪うタイミングだったが……、それも今日解決したしな」

男は上機嫌で椅子にもたれ掛かる。

「今夜は、祝い酒だな……」

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