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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第4章 訓練
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6,二律背反

 「……信冶、焦るな」

正史が声をかける。

「はい。すいません」

信冶は刀を構え直す。

「お前の強さは冷静な守りにあるんだ。焦って攻めにいくようじゃ、勝てないぞ」

「はい」

「一旦休んだ方がいいんじゃない?」

信冶の相手をしている瑞紀が言う。

「いや、もう少し」

信冶は首を横に振る。

「……分かった。じゃあ、行くよ?」

「うん」


 修が信冶たちの前に現れた時、信冶の中で最初に沸き起こった感情は、「喜び」だった。掃討軍によって家族と引き離されてしまった由実香の前に、ようやく、彼女との繋がりを持つ者が現れたのだ。喜ばしいことだと、信冶は思った。


 しかしその次の瞬間、彼は自分の中にもう1つの感情があることに気づいた。気づいてしまった。

(どうしてこんな急に、由実香が連れていかれなきゃならないんだ……!?)

それはあまりにも傲慢な、あまりにも自分勝手な「怒り」だった。つまり、由実香がいつまでも自分のそばにいるように思っていたのである。たかだか数週間、一緒にいたというだけで。


 信冶は由実香が去っていった後、いや、奏の涙を見た時であろうか……、冷静になった信冶は、自分の中にある、その2つの感情が綯い交ぜになっていることを自覚した。


 そして、信冶は思った。このまま、有耶無耶にしてはいけない。傲慢な自分と決着をつけなければ、と。

(そのためには、もう1度由実香に会いに行かないと。修とも戦うことになるはず……)

そして、彼と戦えるだけの力を得るために信冶は、正史の元で修行することを決めたのだ。


 それ自身、我が儘なことだということは、信冶も分かっている。だが、由実香を奪い返そうとまでは考えていないのだ。それくらいのことは許されていいだろう。


 信冶は、由実香を解放した。しかし、由実香もまた、信冶を解放したのだ。軍に、国に操られていた彼を正気に戻したのは、間違いなく彼女だった。だから、そんな彼女の幸せを、信冶も喜びたいと思った。


 信冶は瑞紀の素速い斬撃を丁寧に受け流す。そして、

(……今!)

彼女のわずかに乱れた左の斬撃をはね除けると、右の短刀が来る前に大きく踏み込んで、瑞紀の右肩に一撃を入れた。

(強くなるんだ……!弱い自分に勝つために)

信冶の思いは、日に日に強くなっている。


◆ ◆ ◆


 (私の信じる私は、どっち……?)

奏は木刀を素振りしている。そうしていなければ、自分の中に何か嫌な気持ちが溜まって、苦しくなるからだ。


 (軍人としての私……?それとも、信冶の友人としての私……?)

奏は、迷っていた。


 両方を選ぶことはできない。軍人ならば、信冶を斬らねばなるまい。友人ならば、今度は逆に軍と戦うことになるだろう。


 かと言って、選ばないわけにはいかない。それは、今現在の彼女であり、今の自分のままではダメだということは、彼女自身が一番よく分かっている。どちらかを選んで、彼女は彼女を確定しなければならない。


 奏はもう1度、これまで考えてきたことを振り返る。


 どうして掃討軍に入ろうと思ったのか。どうして信冶が斬れないのか。「そっち」に信冶がいることに対する苦しさ。


 ……そして、

(……そうか。そうだよ……!)

1つの答えに至った。


 奏は木刀を構え直し、抜刀する。その一閃はもう、ブレなかった。

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