4,恋
奏は道場の中で正座をして、瞑想にふけっていた。
(私は、どうして掃討軍に入ろうと思った……?)
自分に問いかける。
(魔族を倒すためだ)
答えは、すぐに見つかった。
(魔族を倒して、この国を平和にしたいって思ったからだ)
彼女の思考は、さらに深いところへと進んでいく。
(それで私は軍に入って……、だけど、信冶は軍を裏切った……!)
奏は膝の上に置かれた手を強く握りしめる。
(それが許せなくって……)
しかし彼女の思考は、そこで躓いた。
(でも、だったら何で斬れないの……?どうして刀が止まるの……?どうして信冶の気迫にあっさり飲まれちゃうの……?)
◆ ◆ ◆
「奏、来てるな」
正史が現れた。奏はこの日、彼に道場に呼び出されていたのだ。
「はい。……何をするんですか?」
「悪いがちょっと、こいつと手合わせしてやってくれ」
正史の後に続いて現れたのは、啓太だった。
「啓太。お前、奏と戦って、もしお前が勝ったら、お前の戦い方が正しいと認めよう」
「分かりました。勝ってみせますよ」
正史は溜息をつく。
素直に彼の指示に従った瑞紀と違って、啓太は頑なに自分の戦い方を変えようとしなかったのだ。自分のやり方で強くなるんだと言って、正史に従おうとしない。正史を信用できない様子だった。
しかし、正史が見たところ、啓太の戦い方は、勇敢と言えば聞こえはいいが、有り体に言えば蛮勇であった。戦いにおける「流れ」を読まず、どんな状況でも強引に攻めようとする。こんなことを続けていれば、いずれ命を落とすことになるだろう。しかし啓太には、そんな無茶苦茶な戦闘スタイルを変える気がないらしい。
そこで正史が考えたのが、奏との手合わせだったというわけだ。
「……2人とも、準備はいいな?」
正史が奏たちに言う。
「はい」
「いいっすよ」
木刀を構えた2人が答える。
「よし。始め!」
その瞬間、奏の姿が消えた。
「……!」
啓太が気づいた時には、彼女は既にその高速の斬撃を、彼に向かって放っていた。
「いッ……!」
間一髪のところで受け止めるが、その強力な一撃に啓太は弾き飛ばされる。
奏は攻撃の手を緩めなかった。すぐにまた踏み込んで刀を振る。その素速い斬撃を啓太は防ぐので精一杯である。
「くそッ……な、めんなァッ!」
啓太は強引に刀を振って奏の刀を弾く。奏は少し後退する。そこに啓太が一撃を入れようと斬り込んだ、が。
「!?」
啓太が横に払った刀を奏は跳んでかわした。空振りした彼の体はがら空きになっている。奏は躊躇することなく彼の肩に刀を振り下ろした。
「……そこまで」
正史が、決着がついたことを告げた。
「奏、ありがとう。もういいぞ」
「はい。失礼します」
奏は道場を出ていった。
◆ ◆ ◆
「……これで分かっただろう」
正史は座り込んでそっぽを向いている啓太に言った。
「……」
「そんな戦い方してたら、いづれ死ぬぞ」
「……強く、なれるんすか?」
「何?」
「俺は戦い方を変えるつもりはありませんでしたよ。だって、前に教わった戦い方は全く通用しなかったから。それで、俺はこれくらい無茶しなきゃ戦っていけないって思ったから」
「それは違う。お前は……」
「だからッ!」
啓太は正史の方を向いて叫んだ。
「……だから、あんたに従って訓練すれば、今よりも強くなれるんすか?自分以外の誰かも守れるくらいに、強くなれるんすか?」
「なれる」
正史は断言した。
「万一だめだったら俺を殺せ」
「……俺は、どうすれば?」
「瑞紀とでも手合わせして戦いの『流れ』を読む練習をしろ。お前は力がある。無理に攻めずとも、相手の攻撃を逸らして、隙ができた時に踏み込むように十分に戦える」
「『攻め時』を見極める練習っすね。分かりました」
啓太は早速、瑞紀を捜しに道場を出た。
偶然に出会った若い女の目には「魔族の証」があった。だが、啓太がその時に警戒心を抱かなかったのは、彼女が、梓が初対面の彼に向かって笑いかけたからだろう。まるで旧友に会ったかのような親しみのあるその笑顔に、啓太は引き込まれた。もっとはっきり言ってしまえば、一目惚れしたのだ。
気持ちを伝えることができたのは、その後知り合った瑞紀のサポートがあったからだ。彼女がいなければ、啓太が告白に踏み切ることはなかっただろう。ともあれ、啓太は気持ちを伝え、梓はそれに応えた。しかし、そのすぐ後に2人は引き離されることになった。
啓太は訓練場に瑞紀の姿を見つけた。
「瑞紀、俺と手合わせしてくれ!『戦いの流れ』ってやつが見えるようにならなきゃいけないんだ」
「?……よく分かんないけど、普通に戦えばいいんだよね?いいよ」
「本気で頼む」
啓太は刀を強く握りしめた。
(梓ともう絶対に離れることのないように、俺はもっと強くならなくちゃいけないんだ……!)