2,課題
6人は正史の自宅から数百メートルのところにある、彼の道場に入った。
「ここにいる間はこれを使え。真剣は俺が預かる」
そう言って、正史は5人に木刀を渡した。
「まずはお前らの力を見る。1対1で打ち合ってくれ。……奏と信冶、お前らからだ」
2人は頷いて、部屋の真ん中に進み出る。
「ここで打ち合うの、久しぶりだね」
奏はいつもの構えをとる。
「そうだね」
信冶も刀を自分の正面に構える。
「よし、始め!」
奏の刀が蝶のように舞い、信冶を襲う。
「!」
信冶は右に左に刀を逸らすが、反撃に出ることができない。
「すご……!」
梓は呆気にとられている。
「信冶は戦闘スタイルを見直す必要がありそうだが……、刀の扱いに関して奏に教えることはもうないな」
正史も言う。
「あいつは……『心』の方か」
「心?」
梓が聞き返す。と、その時、奏の刀が信冶の左肩に当たった。
「そこまで!」
正史が叫んだ。
「次、瑞紀と啓太!」
「えっと、私は……?」
梓が控えめに訊く。
「待ってろ」
正史はそう言ってから、
「始め!」
と再び声をあげた。
「手加減しねえからな?」
啓太は瑞紀の出方を窺っている。
「いらないよ、別に」
瑞紀も両手に短い木刀を握って啓太の様子を窺っている。
「来ないのか?」
啓太が挑発するが、瑞紀は乗らない。
「来ねえなら、こっちから行くぞっ!」
啓太が先に踏み込み、瑞紀に向かって刀を振り下ろす。瑞紀は冷静にそれを受け流した。しかし啓太はすぐにまた、攻撃を仕掛ける。
「うわ、一方的だ……」
梓が呟く。啓太の容赦ない連続攻撃を、瑞紀は受け流すばかりである。
「そう見えるか?」
「え?」
正史の言葉に、梓は怪訝な顔をする。
「だって……」
「覚えとけ。ただガンガン斬り込むだけが攻めじゃない」
「でも……奏だってあんなに攻めてたし……」
梓は納得いかない様子で反論する。
「奏は『攻めることのリスク』を分かってる。だから勝てる。だが、啓太はそれを分かっていない。そういうやつは……」
と、ここで瑞紀が隙をみて啓太に斬り返した。
「うッ……!」
啓太はなんとか受け止める。しかし瑞紀は2本の短刀で素早く打ち込み、啓太の反撃を許さない。
「……このッ……!」
啓太は強引に刀を振ってその連打を止めると、再び斬り込んだ。が、中途半端な斬撃を瑞紀がかわすのは容易いことだった。
彼の斬撃をかわした瑞紀は、がら空きになった啓太の体に一撃を入れた。
「そこまで!」
正史が叫んだ。
「……瑞紀はもう少しパワーが欲しいところだな……」
そう呟いたあとに、彼は梓の方を向く。
「よし、お前の番だ」
「はいっ」
「相手は俺がする」
「えっ!?」
梓は少し戸惑っている。
「早くしろ」
「え、でも……」
「何だ?剣術の訓練だから、魔法はなしだぞ」
正史が焦れったそうに言う。
「お年寄りに刀振るのは……」
「頭かち割ってやろうか?」
「梓、やってみ」
信冶が言う。
「勝てるもんなら」
その数分後、梓は床に転がされていた。
「何、何この人ッ!?」
「師だって言ったじゃん」
信冶が言う。
「お前は基礎から叩き込んでやる」
正史が梓に言った。
「……さあ、個別に訓練するぞ」