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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第3章 変化
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1,休息

 信冶たちはウェルド西部にある山中で休息をとることにした。


 「この格好じゃ、すごい目立っちゃうね……」

瑞紀の言葉に他の4人も頷く。梓の囚人服もそうだが、他の4人も血塗れになっている。町に出られる格好ではない。


 「救急箱くらいは車にあります。まずは傷の手当てを」

由実香が言う。

「服は俺と由実香のがまだあるよ。サイズは合わないかもしれないけど、我慢して」

信冶がそう付け加えた。

「梓、由実香の服着れんのかぁ?」

啓太がからかい口調で言う。

「なっ……、太ってるって言いたいのっ!?」

梓が叫ぶ。

「別に?太ってるとは言ってないじゃん」

「言ったも同然だよっ!……そりゃあ、ちょーっと由実香よりは丸いかもしれないけどさぁ……」

梓は唇を尖らせた。

「大丈夫でしょ……。問題あったとしてもそれは身長でしょ」

瑞紀がフォローに入る。実際のところ、梓は由実香よりひとまわり体が大きいのだが、この場で必要なのは冷静な考察力ではないだろう。

「瑞紀はちっちゃいから、逆にブカブカじゃない?」

恩を仇で返すような一言を梓は口にする。

「ちっちゃい言うなっ!」

確かに由実香より背は低いが、人から言われると腹が立つ。


 「まあまあ、それくらいで……」

信冶が割って入る。彼らの基準になっている当の由実香は、にこにこと楽しそうにその様子を見ている。

「着替えには車使って」

「覗かないでよー?」

梓が啓太に突っ掛かる。

「覗いても面白くねえもん覗かねえよ」

「ムカッ……!」


◆ ◆ ◆


 一通りの作業が済むと、信冶は戦いの中で気になっていたことを誰にともなく尋ねた。

「魔族が魔法使うのって、結構命がけなもんなの?」

「あー、そうでもないよ」

梓が答えた。

「えっ?でも啓太が……」

「あ、いや……そうじゃなくてね、」

梓が両手を振って否定する。

私は(・ ・)命がけなの」

「?」

信冶はわけが分からないというように首を傾げる。

「信冶さんは知ってます?私たちが魔法使うために必要なもの」

由実香が代わって話す。

「知ってるよ。魔法物質と魔法支配能力だよね?」

「そうです。でもこの2つ、どっちも持ってる量や高さに個人差があるんですよ」

「個人差……」

「まあ、運動神経とか、そういうのと同じです」

「ふうん」

「魔法は、魔法物質を多く持ってる人ほど、たくさん使えるんです。で、同時に、命のメーターっていうか……」

「命のメーター?」

「例えばさ、」

梓が続ける。

「魔法で同じ大きさの火の玉を1つずつ作っていくとすると、ある人は10こまで普通に作れたり、また別の人は20こまで作れたりするの。そしてこれがライフポイントでもあってね、自分の限界を超えて作ろうとすれば……」

「命を落とす……?」

「そういうこと。なんか、魔族は魔法物質がないと生きていけないみたいでさあ……。全部を魔法で別の物質に変換しちゃうと、アウトになるみたい」

「魔族は魔法を持ってますけど、それ以外は人間よりも弱いんです。魔法物質はある意味、麻薬みたいなものなのかもしれません。快楽を得る代わりに他の全てを失うように。私たちの場合はそれが魔法であるってだけ。もっとも、私は魔法を使えて嬉しいなんて思ったことありませんけど」

由実香は溜息混じりに言う。

「私も。もし魔法物質に浸かるのを避けられるんだったら、絶対自分から手のばしたりしないのに……」

梓も賛同する。

「……なんか、『魔法が使える』って、人間が思ってるのと違って辛いことなんだね……」

信冶は2人の魔族を見ながら呟く。

「そうだよ。大変なんだから!……ってちょっと話ズレちゃったなあ。それはとりあえず置いといて……。つまりね、私は普通の魔族よりも、持ってる魔法物質が極端に少ないの。だから私は命がけになっちゃうってこと」

「なるほどね……。由実香は?」

「えっ、あ……私は平気です」

由実香は少しまごついたが、そう答えた。

「そっか」

「私みたいのはそんなに多くないよ。それに私と同じ人たちの中でも、魔法物質使い切って死んだ魔族なんてほとんどいないし」

「それでもお前、気をつけろよ」

啓太が言った。

「へへっ……うん」

梓は素直に頷く。

「ありがとう。教えてくれて」

信冶は2人の魔族に礼を言った。

「いえいえ」

由実香はいつも通りの言葉を返す。

「どういたしましてっ」

梓も笑顔でそう返す。


 「……さて、明日はこのまま西に行ってウェルドを出よう」

信冶の提案に他の4人が頷き、5人は就寝の準備を始めた。


◆ ◆ ◆


 「何これ……」

奏の眼前にあるのは、焼け焦げた収容所である。その前には、魔族や人間たちが倒れている。


 「大丈夫ですか……?」

奏は傷ついた軍人の1人に声をかける。

「あ、ああ……大丈夫です。救護班も、動いてますから……。あなたたちは……?」

「アクネの0309小隊の者です」

「アクネの……そうですか……」

「これは……北原、ですか?」

奏は少し躊躇いながら問う。

「ええ。この収容所の魔族も、ほとんど全員解放させてしまいました……」

「そう、ですか……」

「うちの小隊の1人とここの収容所の看守の裏切りもありましてね……隊は総崩れ。小隊長も……」

「……」

「北原はその軍を裏切った2人とここの収容所にいた魔族1人を連れて、5人で逃亡しました……」

「……ごめんなさい」

「え……?」

「奏、行こう」

将太が言う。

「……うん」


 「あ、あの」

去ろうとする2人を軍人が呼び止める。

「はい、何でしょう……?」

「北原を追うのなら、うちの小隊に、まだ元気な連中がいるんで、連れていってもらえませんか?」

「えっ?」

「あいつら、隊長の仇を討つって言ってまして……。しかし1008小隊の立て直しには、しばらくかかりそうなんで……」

「……分かりました」

奏は頷いた。


 (信冶……自分が何してるか、分かってるの……!?)

彼女はかつての友人に、強く訴えかける。

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