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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第2章 繋がり
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5,梓救出作戦【2】

 地面が少し揺れた。

「今度は何だッ!?」

小隊長が叫ぶ。

「隊長!収容所がっ!」

「なっ……!」

小隊長がそちらに目をやると、収容所から黒煙があがっている。

「くそッ、看守の中にも裏切り者がいたのか……!」


 地を揺らす爆発のような音はしばらく続き、やがてあちこちから煙をあげる収容所から魔族たちが現れた。

「ちッ……!逃がすな!」

しかし信冶や由実香、啓太との戦闘で、小隊は混乱しており、ほとんどの軍人が動けない。やっとのことで行動に移った隊員たちも、大勢いる魔族たちには対応できず、逆に返り討ちに遭う始末である。


 「梓っ!」

そのような戦いの中、啓太は梓を見つけた。しかし彼女の目に、光はない。

「梓……梓ッ!」


 叫ぶ啓太に、梓は気づいたようだった。……と、彼女は突然、辺りを焼き払い始めた。

「梓ッ!?」

啓太の方にも、炎が襲いかかってくる。梓は彼の存在に気づいているはずなのに。

「おいッ!どうなってんだ!?」

信冶が啓太に問う。

「分かんねえ……」

と、そこで啓太は、収容所から出てきた瑞紀に気づいた。彼女の軍服は、ところどころ焼け焦げている。

「どうなってんだよ、瑞紀ッ!?」

炎を人工魔法で防ぎつつ、啓太は瑞紀に問う。

「多分、自暴自棄になってる……」

瑞紀は、呆然とした様子のまま、答えた。

「ある程度は予想してたけど、でも、ここまでやるなんて……、このままじゃ」

啓太は瑞紀の言葉に、弾かれたように梓を見る。梓は既に、息を切らしている。

「やべえぞ……早く止めねえと……!」

「え、何、どうしたの!?」

信冶が問う。

「私が押さえ込んでみます」

信冶の隣に来た由実香が言った。

「どうしたんだよッ!?」

信冶がもう1度問う。

「魔族だって魔法を無尽蔵に使えるわけじゃねえ」

啓太は短く答える。

「使いすぎれば死ぬ」

「え……!?」


 由実香が梓を氷の壁で囲もうとする。しかし氷はあっという間に蒸発し、辺りを白く霧のように包んだ。しかも一気に蒸発したために、激しい爆風も巻き起こった。

「やッ……!」

由実香と梓は、その爆風に吹き飛ばされる。

「由実香!」

「梓っ!」

信冶と啓太が走り出す。しかしその2人の前に、軍人たちが立ちふさがる。

「反逆者たちに死をッ!」

「狂っちまってるな……!」

魔法を使って逃亡を図ろうとする魔族たちに向かって、剣を振り回しながら突っ込んでいく隊員たちはもはや、「隊」の形をとっていない。


 信冶と啓太、そして瑞紀が軍人たちと戦っている間に、梓は再び暴れだした。

「ちっくしょッ、このままじゃ……!クソッ、どけえェッ!」

啓太は剣を大振りして軍人たちを薙ぎ払うが、彼らは狂ったように、すぐに再び向かってきた。


 啓太たちが立ち往生している間に、梓は自分の上に火の玉を作り出す。

「もういらない……何も、いらないっ……!」

その火の玉は、徐々に大きくなっていく。

「まずいっ……!」

由実香は再び氷の壁を作ろうとするが、そこに軍人が剣を振り下ろしてきた。

「……ッ!」

とっさに短剣で受け止めるが、強い力に負けて転がされてしまう。

「ぐっ……!」

軍人の足を凍らせるが、また別の軍人が由実香に襲いかかってくる。


 「あァッ……!」

軍人の剣が、彼女の短剣をはねあげた。

「由実香ッ!」

信冶はめちゃくちゃに剣を振り回して強引に道を開く。しかし何本もの剣が、隙だらけになった信冶の肩や脇腹や脚に入る。

「ぐッ……!」


 武器をなくした由実香に軍人が迫る。

「どけえええッ!」

強引に周りの軍人たちをはね除け、信冶は由実香に襲いかかろうとしている軍人に剣を振り下ろした。激しい血飛沫があがる。

「……由実香っ」

息を切らしながら、信冶が少女の名を呼ぶ。

「信冶さん……、ごめんなさい……もう少しだけ、守ってください……!」

言いながら、由実香は氷で梓を足から包んでいく。

「守るよ……ずっと」

自分の流した血や返り血で服を真っ赤に染めた信冶はそう答えて、向かってくる軍人たちを迎え撃つ。


 「……!」

自分を包んでいく氷に驚き、1度は魔法を弱めた梓だったが、

「うるさいっ、消えろ……消えろっ!」

すぐにまた、炎を大きくしていく。徐々に巨大化していく炎の玉は彼女の周辺を焼き始め、由実香の作り出した氷もどんどん溶かしていく。

「……っ!これ以上やると……!」

由実香は苦しげに言う。


 「くそっ!梓ッ!」

今度は啓太が強引に軍人たちをねじ伏せる。隙だらけになった彼を瑞紀がフォローするが、体に刻まれる傷は増えていく。

「通せってんだよッ!」

なんとか軍人たちの間を抜けた啓太は、苦しげに息をする梓の両肩を掴んだ。

「梓っ、やめろ!」

しかし梓は無視して魔法を使い続ける。

「もう……全部消してやる……!」

「馬鹿言ってんじゃねえよ!」

啓太は人工魔法のかかった剣を両手で構えて、炎に押しつけた。炎は一気に小さくなっていく。

「邪魔しないでよっ!」

炎が再び爆発的に燃焼する。人工魔法の力の方が追いつかなくなり、啓太の手にも炎が直接襲ってくる。

「邪魔してやるよッ!お前が馬鹿やめるまで何度でもなッ!」


 梓は、少し揺れる。

「そんな……そんなことしてたら燃えちゃうよッ!死にたいのッ!」

「俺が死ぬ!?」

「そうだよッ!死にたくなかったら……」

「そんなんどうでもいいだろッ!」

「え」

「それよりお前が死んじまうだろうがッ!」

「な、何言って……」

炎の勢いが弱まる。

「お前が死んだら……、お前が死んだらどうすんだよっ……!」

「……」

炎は、消えた。

「……っ、……っ!」

嗚咽が聞こえてきた。

「馬鹿っ……もうこんなくだらなねえことすんな……!」

啓太はそっと、梓を抱き寄せる。


 「今だ!殺れッ!」

炎の消えたタイミングを狙って、小隊長と数人の隊員たちが斬りかかってきた。

「!」

しかし直後、彼らの動きが止まる。足が凍り付いたのだ。啓太は渾身の力を振り絞って剣を振った。


 「……俺、掃討軍辞めさせてもらいますんで」

啓太は、倒れた小隊長に向かって、言った。残った隊員たちが氷を砕いて啓太を斬ろうとするが、後ろからきた信冶と瑞紀によって阻止された。


 「……さて、どうやって逃げようか?」

信冶が4人に問う。周りにはまだ軍人たちがおり、彼らは憎悪に満ちた表情で信冶たちを睨み付けている。

「私に良い考えがあります」

由実香が言った。

「……えっと、梓さん、手伝ってもらえますか?」

梓は頷いた。


◆ ◆ ◆


 「……それじゃあ、行きます!」

由実香は軍人たちの上に大きな氷塊を作り出した。

「みんな、行くよ?」

梓の言葉に、他の4人は頷く。

「えいっ!」

梓の放った火炎が氷塊を一気に溶かした。強い爆風と共に水蒸気が広がり、辺りが白く覆われた。

「なっ……!あいつらはどこだ!?」

近くで爆発のような音や金属のぶつかりあう音が聞こえた。

「うわァッ!」

「どこだッ!?」

軍人たちは辺りを見回す。


 しばらくすると、視界が開けてきた。しかし5人の姿は消えていた。さらに魔族もこれに乗じて逃亡し、あとに残っているのは逃げる途中で斬られた魔族や傷ついた軍人たちだけであった。


 「よかった、無事だ」

少し離れたところに停めてあった信冶の車は無事であった。5人はその車に乗り込む。

「ごめんなさい……」

後部座席に瑞紀、啓太と座っている梓は涙を流しながら謝った。

「まったくだ。次やったらゆるさねえぞ」

啓太がぶっきらぼうに、しかし優しさを含んだ声で言った。

「色々とご迷惑おかけしました」

瑞紀が信冶と由実香に言う。

「いえいえ」

由実香は照れたように笑った。

「俺たちも、仲間が増えてよかったよ」

信冶も笑って言った。


 「……それより、これからどうする?」

「とりあえず、もう少し西へ行ってくれ。その辺りは山が多くて隠れやすいし、俺は裏道をたくさん知ってる。とにかく一旦休もうぜ」

啓太が提案する。

「そうだな」

車はウェルドをさらに西へ進む。


 「あの車か……」

丘の上にいる1人の男が呟く。

「ようやく見つけた……!今行くからな、由実香」

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