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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第2章 繋がり
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4,梓救出作戦【1】

 信冶がウェルドに現れた、その数日後。啓太は第8収容所の守りについていた。北原信冶はこの収容所の魔族も解放しようと動くのではないか、という小隊長の判断であった。これによって収容所の守りは堅くなってしまった。しかし啓太にとっては収容所の側につくことができたので、都合がよかった。外の守りにつかされ、中に入ることができないことは、悔しかったが。


 一方、収容所の中では、瑞紀が囚人たちに食事を配っていた。1人での仕事だったので、そのタイミングで梓に声をかける。

「梓、明日だよ。明日、外に出してあげるから」

しかし梓は返事をせずに、瑞紀に背を向けた。

(まあ、この前みたく叫ばれるよかマシか……)

瑞紀は食事を置いて、梓のいる牢を離れた。警戒態勢が敷かれている今は、仕事から戻るのが遅いだけでも疑われる。自分のせいで計画を台無しにするわけにはいかない。瑞紀も、信冶と由実香が梓の救出作戦に手を貸してくれることは既に啓太から聞いている。計画が失敗すれば、彼らにも迷惑がかかる。

(うーん、梓をなんとかしたいんだけどなあ……)

瑞紀は数日前に梓に会った時のことを思い出す。


 「私のことなんか、放っておいてよッ!」

梓は久しぶりに顔を合わせた友人に向かって、そう叫んだ。

「えっ、何、どうしたの……!?」

「啓太は瑞紀といれば幸せなんだもん」

「はァ!?」

「瑞紀もそういう『フリ』とかもういいよッ!」

「ちょっと待ってよ!」

慌てて瑞紀は反論する。

「誰もそんなこと言ってないじゃん!」

「じゃあ何で啓太は来ないのっ!?」

「それは啓太がまだ看守に任命されてないから……」

「適当なこと言ったって無駄だよッ!」

「嘘じゃないって!」

しかし何度言っても、梓は信じようとしなかった。


 そして、至る現在。瑞紀は状況を変えることができていなかった。

『作戦の決行は明日の早朝』

啓太の言葉が頭の中で反響する。

(こうなったら、強引に引っ張ってくしかないか……)


◆ ◆ ◆


 日が沈み、辺りは暗闇に包まれる。そして再び空が白み始めた頃。

「……何だ、あれは……?」

軍人たちの上で、何かが光る。

「おい……落ちてくるぞッ!」


 それは大量の氷塊だった。氷の刃は軍人たちに激しく降り注いだ。

「クソッ!魔族を探せ!近くにいるはずだッ!」

小隊長が指示を飛ばす。

(作戦開始、だな……)

氷塊を人工魔法で防ぎながら、啓太はその場で待機する。


 軍人たちは分散して、近くの草むらに近づいていく……と。

「うわぁッ!」

軍人の1人が倒れた。そしてそこには剣を構えた男が1人。

「北原信冶だ!確保しろ!無理なら殺してもいいッ!」

小隊長が怒鳴る。しかし氷塊が絶え間なく降り注ぐ中、小隊の動きは乱れている。

「どけえッ!」

信冶が剣を大きく振って軍人たちと剣を打ち合わせる。


 しかし、1対多である。四方からくる斬撃に信冶は押され始め、すぐに防戦一方になった。信冶が剣を大きく横に振って軍人たちを薙ぎ払い、薙ぎ払われた軍人たちの足が凍り付いたところを狙って斬り込むが、そこに別の軍人たちが斬りかかってくる、といった具合である。やがてそれも厳しくなってきて、信冶は敵の斬撃を逸らすので精一杯、という状態まで追いつめられた。


 「ぐっ……!」

「よし、殺れッ!」

小隊長の声が響き渡った。しかし、

「あァァッ!」

信冶がいるところとは別の場所から悲鳴があがった。

「なんだ!?氷塊には人工魔法で……」

しかしそれは、魔法によるものではなかった。隊員の1人が、突然味方に向かって斬り付けたのである。

「啓太、お前何を……!?」

「自分のやりたいことやってるだけさ」

言いつつ、啓太は剣を大振りする。

「くそッ、陣形が乱れる……おい、中のやつらを出せ!」

小隊長は隊員の1人に指示を出す。すぐに収容所の中で待機していた隊員たちが外の戦闘に加わった。


 「外が騒がしいねえ……」

看守の女が言った。しかし瑞紀はそれに対して何も返さず、モニタールームにある機械をいじり始めた。

「ちょっと、何してんの?」

「……」


 ……と、瑞紀は突然振り返って看守の鳩尾を打った。

「……ッ!」

さらに膝を折った看守の後頭部を打って気絶させると、瑞紀は作業に戻った。そしてそれを終えると、彼女は梓のいる牢へ向かう。


 すぐに鍵を開け、牢の中で丸くなっている梓に呼びかける。

「梓、行こう!」

しかし彼女は、その場を動こうとしない。

「文句は後でいくらでも聞く!だから行こう!啓太も待ってる!」

焦る瑞紀がそう言っても、梓は動かなかった。


 そうこうしているうちに、意識を取り戻した看守が、監獄に現れる。

「あんた……殺すッ!」

大きく剣を振りかぶりながら、瑞紀に突っ込んでくる。瑞紀も両手の短剣を構えて迎え撃った。


 2人の看守が激しくぶつかり合っているのを目の当たりにしながら、しかし梓はそれを見ていなかった。

(魔族の支配なんてバッカみたい……!人間の復讐だって馬鹿だよ……!くだらない!)

彼女の思考はひねくれた方向へ進んでいく。

(瑞紀は私を裏切ったんだ!啓太も……!信じてたのに……!ずっと私を放っておいて、何を今更ッ……!)


 そして彼女の思考は、1つの結論に達する。

(もう、何もかも消えてしまえばいい……!)

瑞紀と斬り合っていた看守は、梓の異変に気づいた。

「なっ、何……!?」

梓の周囲で火花が散っているのだ。

「そんな……ここには人工魔法物質が……」

動揺して動きが鈍った看守の腹を、瑞紀の短剣が捉えた。

「ああァッ!」

崩れ落ちた女に、瑞紀は言う。

「……さっきの私の行動を読んで、また人工魔法を起動されてたら、私も困りましたけどね」

「!」

しかし女が気づいた時には既に、梓の周囲は激しく燃え上がっていた。

(さて、この後どうする……!?)

瑞紀は自分に問いかける。

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