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悪魔-デモンズ-  作者: 北郷 信羅
第2章 繋がり
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2,ぶつかる思い

 由実香の話が一段落すると、2人は就寝の準備を始めた。時間はすでに午前1時。

「もっと聞きたいけど……まあ、焦ることもないか。寝よう」

「はい……」

由実香は欠伸をしながら返事した。


 相当疲れていたようで、彼女は布団に入るとすぐに寝入ってしまった。静かに寝息をたてて眠っている由実香は、人間の少女と全く変わらない。

「絶対、魔族にとっても暮らしやすい国に変えてやるからな……」

信冶はそう呟き、自分も布団に入った。


 しかし、ぐっすりと眠ることはできなかった。2階にあるこの部屋の真下……ロビーに数人の人間の気配を感じたためである。時計に目をやると、時間はまだ3時過ぎだ。

(こんな早くに、何の用だ……?)


 しばらくすると、下にいた人間たちが階段を上る音が聞こえてきた。そして足音は、どんどん信冶たちの部屋に近づいてくる。

「由実香……、由実香」

やむなく、信冶は由実香を起こす。彼女は眠い目を擦りながら起き上がって……、足音に気づいたようで顔を強張らせる。


 足音は、2人の部屋の前で止んだ。2人は部屋の奥……窓際までさがっている。事情を説明してマスターキーを借りたのだろう。鍵があけられ、扉がゆっくりと開いた。


 「……奏」

現れたのは、信冶のよく知る人物だった。その後に将太が続く。他の隊員は外で待機しているようだ。

「アクネに来てるなら、多分ここだなって思った。信冶のお気に入りの旅館だからね」

奏は淡々と話す。

「……」

「信冶、大人しく捕まって。あんまり手荒な真似、したくないから」

「……由実香」

信冶が呟く。由実香は頷いた。

「!」


 突然、奏と将太の前に、大きな氷の壁が現れた。

「信冶ッ!」

信冶と由実香は窓から外へ出た。由実香が氷のスロープを作り出し、一気に下に滑り降りる。が、すぐに奏が追ってきた。

「逃がさない!」

奏は抜いた刀を一旦鞘に戻し、得意な抜刀術の構えをとる。次の瞬間、高速の斬撃が信冶を捉えた。

「……ッ!」

信冶はとっさに剣を抜き防ぐが、その力に弾き飛ばされる。

「信冶さんっ!」

由実香が魔法を使おうとするが、そこに将太が斬り込んできた。由実香は短剣で受け止めるが、使い慣れていないため、力のある将太の剣に弾き飛ばされた。


 「将太たちはその魔族をお願い!私は信冶を捕まえる!」

2人を分断した奏は、将太たちに指示すると、信冶に向かっていった。

「了解」

将太は他の隊員たちと共に、由実香を追いつめていく。由実香は旅館を背に、将太たちを睨む。

「抵抗しないで大人しく捕まれば、死なずに済むかもしれねえぞ?」

将太が警告する。由実香は旅館を一瞥し、すぐに将太たちに向き直った。

「魔法は効かねえんだ。お前、他に何が出来る?」

「魔法()効かないんですよね」

「?」

将太が怪訝そうな顔をする。由実香は少し躊躇っていたが、

「ごめんなさいっ」


 氷塊が旅館の窓を叩き割った。軍人たちは一瞬驚いてひくが、割れたガラスは由実香の側に落ちて大きな音を立てただけだった。

「パフォーマンスとしては派手だけどな……。それで終わりか?」

「いえ、始まりです」

由実香の周りの地面から、氷の柱が伸びる。

「さっき言ったこと、聞こえなかったか?魔法は効かねえんだ」

「聞こえてますよ」

氷の柱が砕けて、将太たちに降り注いだ。

「慌てんな!人工魔法使え!」

叫びつつ、将太も自分に向かって飛んできた氷塊を叩き斬る。氷塊は跡形もなく消え去った、が。


 「つッ……!」

頬を掠めたそれは、ガラス片だった。

「こいつッ……!」

「私は負けません」

由実香の目には、静かに怒りの炎が燃えていた。


 一方、信冶は奏の剣術に完全に押されていた。

「信冶が私に勝てるわけないでしょッ!?」

奏の斬撃が信冶を撥ね飛ばす。

「ぐッ……!」


 奏の武器は、抜刀術に代表される高速の斬撃だ。さらに彼女の抜刀術は、速いだけでなく力も乗っている。それこそが、彼女が女性の軍人としてはトップクラスの実力を持つと評され、小隊長を任されている所以である。信冶は守りに重きをおいた戦い方を得意としているが、相手が奏であってはその守りも大して役に立たない。


 「諦めて、信冶。死にたくないでしょ?」

荒い息遣いをしながら自分と対峙している信冶に向かって、奏は言った。


 「……奏、知ってる?魔族が、元は人間だったって」

「何言ってるの?」

奏は怪訝そうな顔をする。

「魔族は人間を支配していた。でもその前に、人間が魔族に酷いことをしてたことは知ってる?」

「知らない」

奏は素直に答える。

「俺たちは大事なこと知らないまま、戦ってるんだよ!」

信冶は奏に訴えかける。しかし奏は、冷めた様子で返す。

「あの魔族に、変なこと吹き込まれたってことね」

「そんなこと言ってねえだろッ!」

「信冶……自分が騙されてるのに気づかないの?」

「違う!騙されてるのは奏の方だ!」

「……ダメか。信冶、本当に最後の警告。大人しく捕まって」

今度は奏が信冶に訴えかける。

「……できない。俺は、この国を変えるんだ」

その返答に、奏の表情が一瞬曇った。しかしすぐにそれを消すと、彼女は刀を構え直す。

「……それなら、私がここで終わらせる!」

奏の素早い斬撃が信冶に向かってきた。

「ぐッ!」

なんとかそれらを逸らすものの、完全には避けきれず、信冶の体には少しずつ傷が増えていく。

「くそっ!」

焦って大振りしたのがいけなかった。斬撃をかわした奏は、信冶の視界から消えた。

「!?」

そして次の瞬間、背後に殺気を感じた。

(殺られる……!)


 奏は一気に刀を振り下ろそうとした、が、一瞬わき起こった躊躇いの気持ちが、その行動を遅らせた。


 大きな金属音が響き渡る。信冶の剣が彼の手を離れ、数メートル後ろに突き刺さった。

「くっ……!」

取りに動こうとした信冶の首筋に、奏の刀が当てられる。

「信冶の負けだよ。諦めて」

信冶は大きく息を吐く。

「……そうだな」

「分かったらそのまま手を後ろに……」

「『1人だったら』諦めるしかないな」

「何言って……」

「奏危ねえ!」

突然将太が叫んだ。……と、上方から氷塊が降り注いだ。

「!」

人工魔法を使うが、中のガラス片が左手を掠めた。

「いっ……!」


 その隙に信冶は剣を取る。

「信冶っ!」

しかしそこに再び氷塊が落ちてくる。奏は退いてかわすしかなかった。

「由実香っ!」

氷塊があちこちに降り注ぎ、隊員たちが混乱している中、信冶は旅館の壁に寄り掛かって頭に手を当てている由実香を見つけた。

「信冶さん……」

「助かったよ。行こう!」

彼女の手を引き、駐車場へと走る。

「もう……いいですか……?」

その意味が信冶にはよく分からなかったが、苦しそうな由実香を見て、とりあえず頷く。

「いいよ。無理しないで」

彼女は大きく息を吐き出した。


 「くそっ、追え!」

辺りに降り注いでいた全ての氷塊が突然消えたことに驚きながら、将太は叫ぶ。しかし信冶と由実香は、すでに車に乗り込んでいた。

「いいっ!それよりすぐにみんなを集めて」

奏が叫んだ。


◆ ◆ ◆


 「多分信冶は、私たちの管轄下……アクネを出る」

車が走り去った後、奏は隊員たちに言う。

「だろうな」

将太が同意する。

「……でも、私は追う。うちの小隊の人間が起こした不祥事だもん。私が片を付ける」

「元、だけどな。よし、俺も行く」

「え、将太に留守中のまとめ役を頼もうと思ってたんだけど……」

「俺だって放っておく気にはなれないよ。どうせ戦闘もないし……よし、タンバ。お前しばらく小隊の臨時隊長やって」

「えっ、は、はいっ!」

将太にいきなり指名されて動揺しつつ、丹波美奈(たんばみな)は返事した。


 「ごめん、ちょっとの間よろしくね」

奏は将太と車に乗り込み、美奈たちに言った。

(絶対に信冶を止めてみせる……!)

同時に、心の中で強く決意する。

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