7,中央魔族収容所
祐介に諭されてから、信冶は少女に話しかけなくなった。少女の方も、彼と目を合わせるのを避けていた。しかし、信冶は諦めたわけではなかった。この国を変える、とまではいかないが、少女だけでも、助けることはできないだろうかと考えていたのだ。
そんなある日のこと、出勤してきた祐介と信冶を、前の時間勤務していた響と雅也が迎えた。
「よう祐介。今日、来るみたいだぜ?」
響が言った。
「来るって……中央収容所のやつらか?」
祐介が嫌そうな顔をして問い返す。
「ああ。お前たちの勤務中に来ると思うから、ヨロシク」
逆に響は、愉快そうに答え、雅也と共に部屋を出ていった。
「くそ……よりにもよってこのタイミングかよ……」
「そんなに嫌なんですか?」
信冶が問うと、祐介は不機嫌そうな顔で信冶を見た。
「……お前にとってな」
「え?それってどういう……」
「来たら分かる」
祐介は強引に話を切ると、新聞を開いた。普段は読まないが、これ以上話す気はない、という意志表示には役立った。
◆ ◆ ◆
囚人たちの昼食の回収が済んだ昼過ぎごろ、1台のトラックが収容所に来た。祐介の様子を見る限り、この車に中央収容所の看守が乗っているようである。
トラックから降りてきた男が言った。
「今日は4人動かす」
「分かりました」
祐介が答え、牢へ向かう。
「あの、動かすって……?」
信冶が訊くと、祐介は渋々答えた。
「ここからアクネの中央魔族収容所に囚人を連れていくんだ」
中央へ移ることになった魔族は牢獄の奧、すなわち、この収容所に長く居る順に4人。少女の前の男までだった。
「嫌だ……俺は行かねえ……!」
少女の前にいた男は、牢の奧で拒んだ。他の3人はすぐに諦めて祐介たちに従ったが、彼の拒み方は異常だった。
「いいから出てこい」
祐介がイライラした様子で言う。
「嫌だ!」
男は子供のように牢の奧から叫び、魔法を使おうとした。が、物質は形成される前に砕け散って消えた。
「どうしてそんなに嫌なんです?」
信冶が問う。
「しらばっくれるな!」
男は叫んだ。
「中央に連れていかれたやつは死ぬまで働かされるか、実験材料として使われるんだろォ!?」
「え……!?」
信冶は絶句した。
「誰に聞いた?」
祐介が冷静に問う。
「お前の仲間が言ってたんだ!」
「響たちだな……」
祐介は迷惑そうに呟く。
「それは確かな情報じゃない」
「おい、」
中央収容所の看守が口を開いた。
「お前には2つの選択肢しかない。ここで斬られるか、中央に移るかだ」
「この悪魔……!」
魔族の男は看守を睨み付けていたが、やがて諦めて牢の外に出てきた。
反魔法物質の詰まったトラックの荷台に4人が乗ると、看守はさっさとトラックを出した。
「中央に行った魔族は、どうなるんです?」
モニタールームに戻ると、信冶は早速祐介に訊いた。祐介は仕方なさそうに答えた。
「ぶっちゃけ、分からないんだ。あそこのことは、あそこの人間しか知らない」
「じゃあ、富田さんが言ってたっていう話は……?」
「ここの看守の間で出た、1つの推測だ。もっとも、推理できるほどの情報はないんだけど。ただ、地方の収容所からちょくちょく囚人を集めているのに、全くいっぱいになる気配を見せず、出てくる囚人もいない、ってなるとな……。そういう推測も出てくる」
「そんな……!」
驚くと同時に、信冶は気が付いてしまった。次に連れていかれるのはあの少女であるということに。
「前にも言ったけど、余計なこと考えんな。自分が苦しくなるだけだぞ」
信冶の狼狽える様子を見て、祐介が言う。
「全く……ホント、何でこのタイミングで来んだよ……」