人生最悪の日
今日は人生でベスト入りするくらい最悪な日だった。
働いていた会社では派遣切が始まり、見事私は白羽の矢が当たったのだ。
同情的な皆の目が痛い。
大した貯金もなく、大した資格もなく、大した業績もなく、
これから、どこに向かっていったら良いのかが全くわからなかった。
トイレで少し泣いていこうと休憩中に入ったら
噂好きの女子1号2号3号が入ってきていた。
「神崎さん、派遣きりにあったらしいわよ。」
「えーマジ、可哀想~。これからどうするんだろう?」
「まぁ派遣だし、大した仕事してなかったんじゃない?」
お前らより仕事してるわ!と叫びたくなった。
実際、正社員という名の下に、こいつらがどんなけ仕事してないか私は知っていた。
いや、他の人もしっているんじゃないか?
すると聞きたくない話がまだ続いていた。
「しかもさ、S社の斉藤君に振られたらしいわよ。」
「えーいついつ?」
「聞いた話によると、2週間くらい前。」
正解です。どこで聞いたんだよ!
「うっわーマジ最悪。人生終わってるね。」
「だよねー。」
はははと笑ってやつらは去っていった。
涙の代わりに怒りがこみ上げる。
斉藤君には、仕事やめて、結婚しようといわれたが、私は働きたいといった。
すると、どうせ派遣でしょと軽く笑われ、僕の家事手伝いしてよと言われた気がした。
そこまで言われてないが、その笑い方がとても気持ちが悪く感じたのだ。
無理だというと、別れを切り出された。
まぁ、お互いもういい年だし彼の言うこともわからなくはない。
でも、無理なものは無理だ。
ずっと、寄り添って他人と生きていくのって奇跡なんじゃないかと最近思う。
トイレから出て手を洗おうとすると、勢いよく水が飛び出し顔にもろにかかった。
「なっ・・・!」
ペーパータオルが備え付けていたのが不幸中の幸いだが
もうどうでも良くなってきた。
この2年こんなことなかったのに。
もう本当に最悪だ。
若干髪の毛や服が濡れていたが、もう帰るだけなので気にせず会社をでたのだった。
なんだか憂鬱な重い空気が肩にのしかかる。
何かに取り憑かれてるようだ。
ぼーっとしていたら、いつもと違う道を歩いていた。
飲み屋街のそば道は、ご飯の良い香りを漂わせている。
ふと見ると、小さなラーメン屋台のとなりに、おばあさんが小さい机を前に出し
ちょこんと座っていた。
吸い寄せられるように前に立つと、どうぞと丸椅子に座るよう促された。
おばあさんは占いをしているようだった。
「あんた、そうとう疲れた顔してるね~占うまでもなさそうだけど、どうしたの?」
よっぽどひどい顔をしていたのだろう。
はははとから笑いをすると、次の言葉に詰まった。
「じゃ、この中から一本引いて。」
箸のようなものを一本引いた。おみくじかな?
「あーこれ引いたの。」
箸には何か良くわからない文字が金色で書いている。
「何?」
箸を返しながらきくとおばあさんは困った顔をした。
「これはね、金呪といって滅多にでないんだけどね。」
「だからなに?」
「わっすれた、ちょっと待って。」
「えー・・」
ぱらぱらとなにやら古い本をめくりだした。眼鏡を少しずらしてため息をつく。
「七転び八起きっていう感じだね」
「感じって・・かるっ」
「まぁ詳しくいうと、まだ災難続きそうだね。」
「え~・・・」
「大丈夫、最後は良いことあるから。」
はい千円と請求され、しぶしぶ払うとその場を後にした。
いつもと違う道でも、少し遠回りながら帰る事が出来る。
歩道橋をあがって反対側へ行き、地下鉄で帰ることにした。
歩道橋を上がっていくと、そこで酔っ払いどうしがけんかしてる。
(あ〜とばっちり受けたくないな。ていうか邪魔!他の人も通りにくくて困ってるし。)
そう思いながら、酔っ払いをよけて端を歩いていたのに
ドンッと一人が勢いよくぶつかってきた。
更にシャツをつかまれ思いっきりスカートの上から腰にしがみ付いてきた。
「うっわっ・・・!」
歩道橋の手すりにぶつかった、はずが。
あるはずの手すりを体が透き通るようにすり抜け
「う・・わぁーーーーっ!!!」
私はそのまま道路に落ちていった。
「ぁーーーー!!!」
「−−−・・・あ?」
ヒュウヒュウと風の音が聞こえる。
まだ落下している。
かろうじて眼を開けると 眼下に広がるのは国道23号線ではなく
大海原だった。
「う・・・海ぃーーーっ!????ぁーーーーーーーーっ!!!」
ざぁっぼーーーん
ごぼごぼごぼ・・・・
体が深く沈んでいく
そのあとゆっくり浮上していった。
落ちた衝撃で少し意識が飛んだ気がする。
閉じているまぶたに光が透けて見える。
コンタクトをしているのも忘れ、光に誘われ海の中で眼をあけた。
すると 黒い影が光をさえぎり 私の目の前に何かが現れた。
ぎょろっとした黄金色の目と目が合った。
(か・・怪物ーーーーーっ ごぼこぼこぼこぼ・・・)
海の中で叫んでしまい 思いっきり海水を飲んでしまった
う・・ごぼごぼ
もがけばもがくほど 浮かばなくなった
苦しくて、苦しくて意識が徐々に薄れていった。