07✿ 大切な人よ、さようなら
空港に来るのは、その日が初めてだった。
広くて、明るくて、全部がツルツルしてて、わたしはちょっと浮かれていた。
今からほんとうに海外に行くんだって、信じられないような、うそみたいな気持ちだった。
いつもは冷たいお母さんも飛行場まで見送りに来てくれて、「頑張りなさいね」って抱きしめてくれた。彼女の声は、泣くのを抑えてるときみたいに、ちょっと低かった。
お母さんも、寂しいんだ。そう思うと嬉しくて、世界がきらきらして見えた。
搭乗口の前で並んでるとき、ふいに久乃ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
思い出すのは、やっぱりあの雨の日だった。あのとき、きっと久乃ちゃんは怒ってた。悲しんでた。
でも、何に、って聞かれたら、わたしにはうまく答えられない。ううん、考えたくなかっただけかもしれない。
あれから、何度か連絡したけど、だんだん返事は来なくなった。
久乃ちゃんは、わたしのこと、もう嫌いになったんだろうなって思った。結局さよならの連絡もできずじまいだ。
久乃ちゃんはあの家にひとりぼっちでも、もう寂しくないのかな。
わたしがいなくても、幸せなのかな。
それなら、それならいいなって、何度も思った。
だって、大切な人だから。幸せでいてほしい。
でも、なぜか同時に、心がぽそりと痛んだ。
ほんとうは、わたしのいないところで幸せにならないでほしい、なんて。
そんなこと、思っちゃだめだ。だって久乃ちゃんを置いて、わたしは遠くに行っちゃうんだから。
そのとき、アナウンスが鳴って、列が動いた。
新しい生活、新しい人たち、新しい自分――そんなことで頭がいっぱいになって、すっごく大事なことだったのに、久乃ちゃんのことは、とうとう胸の奥の方に追いやられてしまった。




