第6話 本土からの招待客
週末のサンフランシスコ国際空港へやって来た、ライフセーバーのルーカス・ブラウン。
無地のオリーブ色をしたTシャツは、彼の鍛えられた上半身を隠しきれていない。厚い胸板でパツパツだ。
下はカーキ色のカーゴパンツに、ミリタリーブーツとシンプルな格好だ。派手さはないが威圧感はある。
大きめのサングラスが、彼の元軍人らしい厳つい顔立ちと良くマッチしていた。
背負ったデイバッグには、数日分の着替えと小物等が入れられている。彼はアクアノートへ向かう為、チケットを手にロビーを歩いている。
「すまない、ちょっと良いかな?」
ルーカスはサングラスを外しながら、総合案内所の若い女性スタッフに声を掛けた。20代ぐらいの女性はにこやか対応する。
「はい、なんでしょうか?」
ルーカスはポケットから、航空券の入った封筒を見せる。アドルフ・ジャクソンから事前に手渡されていたものだ。
彼はアクアノートへと向かう為の、ハワイまで向かうチャーター機が用意されていると聞いていた。
「このチケットは、どこで受付を?」
「ちょっと失礼しますね」
封筒を預かった受付の女性は、中身を確認する。すぐに向かうべきカウンターを案内する。
ルーカスはお礼を言って総合案内所を離れる。今聞いたばかりの搭乗カウンターへ向かい、手続きを済ませる。
そのままチャーター機のある乗り場へと向かっていく。保安検査を受けて荷物を受け取り、目的のゲートへ。
順路通り進んだルーカスは、チャーター機へとやって来た。中型の民間機で、搭乗数は200人ほど。
機内に入るとガラガラで、殆ど人は乗っていない。これならもう少し小さい機体でも、十分ではないかとルーカスは思った。
もっとも料金を払うのはルーカスではないので、些細な事でしかない。資金がそれだけ潤沢なのだろうと判断した。
しっかりとファーストクラスを用意されており、20人ほどが座れるエリアとなっている。
ガラガラと言っても、乗客は何人か既に座っている。招待されたのはルーカスだけではないようだ。
先ずは見るからに金持ちそうな小太りの白人男性。金色の腕時計をしており成金オーラが凄まじい。
ルーカスは仲良くなれそうにないと、見るだけで分かった。そっと視線を外しておく。
2人目は30代ぐらいに見える大人の女性だ。肩口で切りそろえた茶色い髪に青い目、線の細い美しい顔立ち。
背は高めでスタイルは良い。学術書を読んでおり、知的な印象を感じさせる。少なくとも先程の男性よりは、アクアノートのイメージと合う。
纏う雰囲気から学者か科学者だろうと、ルーカスは判断した。彼とはあまり縁がないタイプの女性だ。
3人目は黒人の女性で、ルーカスと変わらない年齢に見える。彼女も30代半ばだろうと思われる。
明るい印象を受ける顔立ちに、黒いドレッドヘアが良く似合っている。体格は平均的で、大きな特徴はない。
スマートフォンを見ていたようだが、ルーカスが乗り込んで来た事に気づいたらしい。
顔を上げると、少し意外そうな表情をしている。アクアノートへ向かう人間に見えなかったからだろう。
「あ~、そこの貴方、ボディーガードか何か?」
黒人の女性が、思った事をそのまま聞いた。あまり遠慮なく話し掛けられるタイプのようだ。
まあそんな反応にもなるだろうと、ルーカスは苦笑した。海洋研究所に用がある見た目でないと自覚している。
「いいや、ちょっとドローンに詳しいだけのライフセーバーだよ」
「ライフセーバー? あ~、そうなの」
少し気まずそうにしながら、黒人の女性は肩を竦めて見せる。少なくとも嫌な人間ではないとルーカスは感じた。
「俺はルーカス・ブラウンだ。君は?」
ルーカスは黒人の女性へと近づきながら、大きな手を差し出す。女性は快く握手に応じた。
ソフィア・マイヤーズという名前の彼女は、動物行動学者であると自己紹介を返す。
ついでとばかりに、近くに座っている白人女性の事も紹介した。どうやら2人は知り合いらしい。
「あの子はメイジー・オルコット。イギリスの海洋生物学者よ」
紹介されたメイジーは、読んでいた本から視線を外す。顔を上げてルーカスの方を見つめる。
ルーカスはソフィアの時と同じように手を差し出し、軽く握手をしながら挨拶と自己紹介をする。
第一印象通りクールな女性で、話し方からも高い知性を感じさせられた。だが人付き合いが苦手というわけではない。
冷たい人間なのではなく、ただ冷静なタイプというだけ。同じ研究所へ行く者として、仲良くするつもりはあるらしい。
「メイジーよ。貴方は何を頼まれたの? その、警備員とか?」
「ドローンの知識を貸して欲しいってさ。それ以上は聞いていない」
ソフィアは動物行動学者として、メイジーは海洋生物学者として招待されている。とても妥当な肩書だろう。
対してルーカスは元軍人のドローン兵器の専門家であり、ただのライフセーバーでもある。
明らかに異質な人選なのは間違いない。ルーカスはその自覚があるので、笑うしかない。
そんな3人に向かって、小太りの白人男性が話し掛けて来た。どうやら会話に混じりたいらしい。
「僕も混ぜて欲しいなぁ。投資家をやっている、トミー・ホーキンスだ。よろしく、美しい学者さん達」
明らかに女性が目的と思われる態度に、ソフィアとメイジーは嫌そうに顔を見合わせる。
こんな空気で数時間のフライトをするのかと、ルーカスは複雑な気分で席に座るのだった。




