第46話 地上へ向かう2人は
今日で完結させます。朝に3話、夜に3話更新します。
朝は10分置きに3話更新です。
ルーカスとバートの乱入により、ガンマとデルタから逃げられた、彰人とメイジー。
今やたった2人となり、案内役も居なくなってしまった。どうにか7階から、6階へ移動出来た。
最適な移動ルートが、2人には分からない。南側の6階とは、構造が違っているらしい。
酸素に余裕はあるものの、ずっと迷っては居られない。ルーカス達も、いつまで引き付けていられるか。
「どっちだろう?」
彰人とメイジーは、十字路で止まっている。ショッピングモール並みに広くても、商業施設ではない。
分かり易いフロア案内なんて、どこにもない。多少の表示ならあるものの、向かうべき方向は不明だ。
第3ラボだとか、第4ラボだとか。そんな案内表示ばかりだ。迷った2人は、南へ向かう。
南北の境界には、上の階へと続く階段が多い。必ずしもあるわけでもないのが、不安要素だが。
非常口から移動出来れば良かったのだが、生憎深夜だったせいで、施錠されている。鍵の持ち主は、死んでしまった。
「どうしてこんな事になってしまったの……」
「メイジー……」
友人を失い、大勢が悲惨な死にざまを晒した。悪夢だとすれば、どれだけ良かっただろう。
夢から覚めれば、自宅のベッドの上。変な夢を見てしまった。それなら笑い話に出来ただろう。
質の悪いホラー映画みたいな夢を見たと、雑談のネタになった。だがこれは、悲しいかな現実だ。
「今は進むしかないよ」
「……ええ」
だだっ広い真っ白な通路を、2人で進んでいく。一気に人数が減り、口数も減ってしまう。
襲われる前までなら、誰かが喋っていた。きっと皆も不安だったからだろう。気を紛らせたかった。
だが今は、たった2人だけ。そしてこういう時、気のきいた雑談を彰人は提供出来ない。
こんな環境で、サメの話なんて出来ない。大勢が喰い千切られた直後に、持ちだす話題じゃない。
かと言って今、出来る話なんて特にない。それでも彰人は、どうにか話題を探す。
「イギリスでは、息子さんが待っているんだろう?」
「……そうよ」
「僕は会った事ないけど、どんな男の子なんだい?」
せめて何か、明るい話をしようと決めた。このまま暗い雰囲気では、生きる活力を失ってしまう。
彰人だってショックを受けている。ソフィアとは、長い付き合いだった。もう知り合って7年は経つ。
ちょくちょく意見交換をしていたし、共同で研究をした事もあった。よき友人という言葉がピッタリだ。
明るい彼女は、家族思いの優しい女性だった。だからこそ、無念でならない。だが今は、自分達の事が重要だ。
きっと亡くなってしまったソフィアも、自分のせいで2人が生を諦めるなんて、決して望まないだろうと彰人は思う。
「……誰に似たのか、スポーツが好きなの。親はどちらも、スポーツマンじゃないのに」
「良い事じゃないか。健全だし、イギリスはサッカーが人気だよね」
メイジーの息子について、話しながら進む2人。泳ぎ進める間に、南北の境界についた。
運が味方したのか、5階へ続く階段があった。遂に5階まで到達した2人。
4階へ続く階段も、すぐに見つかった。どうやら5階と6階は、似たような構造だったらしい。
この階段を上がれば、もう水中を移動する必要はない。助かったと、2人は思った。
「何とかなったわね」
「そうだね……よかっ――メイジー!?」
隣を泳ぐメイジーを彰人が見る。彼女の背後から、2メートル程のイタチザメが接近していた。
慌てて手を引く彰人だが、メイジーの脇腹にイタチザメが喰らいつく。悲鳴と共に、大量の血が流れる。
下手に引き離すと、傷口が広がってしまう。彰人は持っていた銛で、イタチザメの頭部を突き刺す。
必死に刃先を押し込み、頭部を貫いていく。銛が脳に達したのか、イタチザメは沈黙した。
噛まれていた時間は長くないが、メイジーの傷跡は酷い。深々と歯が喰い込み、血が止まらない。
「うっ……彰人……」
「諦めるな! 絶対助けるから!」
彰人はメイジーを連れて階段を進む。彼女の怪我に注意しつつ、出来るだけ急ぐ。
遂に水中から出て、2人は4階の床を踏む。ちょうどそこには、保安部の隊員達が待機していた。
「だ、大丈夫か!? 一体どうした!?」
「イタチザメに噛まれた! 彼女を9階の医務室へ連れて行きたい!」
「待っていろ! すぐに用意する!」
どうやら4階で待っていた彼らは、色々と用意をしてくれていたらしい。担架や綺麗なタオルなどが置かれている。
狙ってここへ来たのではないが、合流予定だった場所らしい。彰人はメイジーの止血を行う。
清潔なタオルで抑えながら、ストレッチャーへ乗せて移動を開始。キャスターの音が通路に響く。
すぐに対処出来たとは言え、流してしまった血の量は多い。メイジーの顔色はかなり悪い。
「彰人、もし私が死んだら、あの子を――」
「そんな事を言うな! 君が自分で会いに行くんだ!」
力なく彰人の手を握るメイジーは、意識を失いつつあるらしい。少しずつ手の力が無くなっていく。
恐らくは、一時的なショック症状だろう。目を閉じてしまったメイジーを案じつつ、彰人達は南側の9階へ向かった。




