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第42話 増えていく被害

今日の更新2話目です。

 小型の潜水艇で、出て行ってしまったトミー。勝手に居なくなった者の事で、悩んでいる時間はない。

 ルーカス達は、ダイビング経験のない者達の着替えを済まし、北側10階へ向かう準備を進める。


「ルーカス、少し良いか」


 バートがルーカスを呼んでいる。正直腹は立っているが、邪険にする程ルーカスは子供ではない。

 それに現状、アクアノートに一番詳しいのはバートである。話を聞いておいて損はない。


「なんだよ少佐?」


「北側10階、保安部の本部へ行く。まだ使える武器や、装備品が残っているかもしてない」


「……俺について来いって? はぁ……分かったよ」


 紺色のウェットスーツを着たルーカスは、バートの提案を受け入れる。悪い提案ではないからだ。

 ここから脱出するにしても、アルファ達をそのままにはしておけない。野放しには出来ない。

 どこまでも人間の事情に付き合わせてしまうが、世に解き放っては大問題になってしまう。

 今日ここで、殺処分にするしかないだろう。子供達の方はともかく、アルファは巨大だ。

 問題は歩兵の携行武器で、火力が足りるか分からない。せめてプラスチック爆弾は欲しいところ。


「まともな武器はあるのかい?」


「アイツらが雑な管理をしていなければ、C4は少なくとも無事だろう」


 バートが言うには、気密性の高い専用のケースに、プラスチック爆弾を保管しているという。

 開けっ放しにしていなければ、十分な量があるらしい。C4で機雷を作って、罠にかけて倒す。

 アルファとの戦いは、そのような想定をしているとバートは明かした。


「今回は失敗したが、いい経験になった。次の実験体へ活かそう」


「……アンタ、まだ諦めてないのか!?」


 研究を続けるつもりのバートに、ルーカスは呆れ果てている。バートは当然だと答えた。

 トーマスが生きていて、自分も死んでいない。なら何も問題はないと、水中銃を棚から掴んでバートは離れていく。

 ここから再開なんて、先ず無理だろうとルーカスは思っている。被害があまりに多過ぎる。

 生存者がどれだけ居るか、ルーカスには分からない。だが少なくとも、計画続行は難しそうだ。

 こんな有様で、どうやって軍の上層部を納得させるつもりか。国を納得させるつもりなのか。


「信じられねぇな」


 呆れを大いに込めて呟くルーカス。今はそれよりも、目の前の問題だと気持ちを切り替える。

 万が一の戦闘に備えて、ルーカスも水中銃を手にする。ついでとばかりに、大きな銛を掴む。


「……ルーカス? まさか、戦う気かい?」


 武装しているルーカスを見て、彰人は目を丸くしている。ガンマやデルタと、戦うのだろうかと。

 逃げる以外に道はないと思っていた彰人には、彼の行動が想定外だった。何せ相手は6メートルだ。

 大きくて2メートルの人間とは、体格があまりに違い過ぎる。体重なんて、比べるまでもない。

 そもそも戦いになる筈がない。どうしても彰人には、勝てるビジョンが浮かばないのだ。


「護身用だよ。アンタも持って行きな。無いよりは良い」


「いやでも、使い方が……」


「簡単さ、教えてやるよ」


 ルーカスが彰人へ、水中銃の使い方を教える。倒すまではいかなくとも、追い払えればいい。

 1丁だけの威力では、効果なんて僅かだろう。だが大勢で武装していれば、多少は意味もあろう。

 保安部の隊員や、男性陣を中心に武装を整える。殺す為ではなく、自らを守る為に。

 残っていた水中銃や銛を、出来るだけ多く持っていく。水中を進む準備を進んで行った。


 一方その頃、潜水艇で逃げ出したトミーは、南側の海中を進んでいた。暗い夜の海を。

 南側の12階は、水深で言えばおよそ100メートル辺り。海面までの直線距離で言えば、そう遠くない。

 真っ直ぐに浮上出来るなら、トミーの発想は間違っていない。だが海中では、そう簡単にいかない。

 地上で真っ直ぐ、平坦な道を走るのではない。1秒で進める距離は、地上と同じではない。

 問題はそれだけではなかった。前方を確認する為に、ライトをつけて移動している。


「早く早く早く」


 トミーは焦りながら、操縦桿を握っている。出来るだけ早く、地上へ逃げたい。

 そんな彼の姿は、周囲からよく見えている。彼が乗っているのは、研究や観察用の潜水艇だ。

 船体はクリアな部分が多く、中に居る人間の姿は、外から丸見えである。

 何からなんて、言うまでもない。海を泳ぐ全ての生命からの話だ。巨大な影が、トミーの視界に映る。


「な!? なんだ!? 今のは……」


 何かの影が見えて、トミーは怯えている。まさかもう、アルファに見つかってしまったのか。

 それともガンマとデルタか。トミーはごくりと息を飲む。刺激しないように、潜水艇を止める。

 明るく照らされた周囲の海中を、トミーは見渡す。明らかに何かが、周囲を泳いでいる。

 トミーが背後を見ると、大きなサメが居た。丸い鼻に流線型のフォルム。灰色の肌をしている。


「うわぁ!? 僕は悪くないだろぉ!? ……あれ?」


 必死の形相で、トミーは狭い船内を後ずさる。だが、そこに居たのは、ただのオオメジロザメだ。

 大きさも3メートル程で、ガンマとデルタよりかなり小さい。普通の個体だと気づき、安堵するトミー。

 どうやらアルファ達ではないらしい。今の内に海面へ向かおう。そう思って、正面を見るトミー。


「は?」


 猛スピードで潜航して来た、アルファの巨大な口が目前に迫っている。逃げる余裕なんてない。


「待て待て待て! 嘘だ嘘だ! 僕は! こんなところで! 死にたくない! やめてくれぇ……」


 バキバキと噛みつかれた船体が、致命的な音を立てている。船体が歪み、コンソールが火花を散らす。

 水深200メートルまで潜れる潜水艇だけに、それなりに頑丈だった。だがそれでも、アルファの咬合力には耐えられなかった。

 海中を照らしていたライトの光は、完全に消えてしまった。巨大な影が、その場を離れて行った。

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