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第40話 失われて行く命

今日の更新3話目です。

 アクアノートが襲われている。その事実を知っている人間は、非常に少ない。

 アルファ達の存在を知っている者が、そもそも300人程度しか居ないのだから当然だ。

 残る約700人は、何も知らない南側で働く者達だ。夜勤で働く者は少なく、多くは就寝していた。

 揺れで目が覚めなかった者もおり、知らぬまま海水に沈んだ者は多い。

 起きていた者でも、浸水に気づかず地上を目指し、海水を引き入れてしまった階も多い。


 予備電源で稼働していた、という点も大きな要因だ。普通なら働く機能が停止している。

 普段ならライトで照らされている海中が、真っ暗で窓や通路から何も見えない。

 すぐ近くを泳いでいる巨大な影に、気づく事が出来なかった。多少見えたとしても、クジラだと思うだろう。

 アルファからは人間が見え、人間からはアルファが見えない。最悪の状況が出来ていた。

 外が暗い状況では、中だけが明るいと、窓は鏡のようになってしまう。そこに映るのは自分の姿。


 海中から見ている2つの大きな瞳は、人間達の動きをしっかりと見ている。

 どこに人間が居るか、外から母親が指示を出す。受け取った子供達が、内部から攻撃をする。

 どの階からも海中を見えるように、外側に多くの窓を用意した事が、人間達を不利にしている。

 バート達によって与えられた高い知能が、人間達へ牙を剥く。着実に生存者を減らしていく。

 贅沢に通路を大きく作った結果、大体どこへでもガンマとデルタが泳いで行ける。


 最も足を引っ張ったのは、トラムとトラムステーションだ。施設内を真っ直ぐ貫くレール。

 端から端まで、殆どの階を貫通している。海水が流れ込めば、一気に広がる水路となった。

 アクリルの壁はすぐに壊せると、子供達が学んだのも不味かった。施設の破壊に拍車を掛けた。

 各駅を通じて、施設全体へ海水が行き渡っていく。安全な場所が減る一方だ。

 浸水の速度がどんどん上がり、犠牲者を増やしていく。気密性の高い研究室が、犠牲者を増やしてしまう。


「あれ? 何の音だろう?」


 意図的に室内を薄暗くする目的で、一切窓のない研究室が複数ある。そう言った部屋は、外の状況に気づき難い。

 その多くが研究している生物達に、ストレスを与えない為、遮音壁を採用している。

 警戒せずに、知らないままドアを開けてしまう。遮音壁を貫通して聞こえた、濁流の音に違和感を覚えて。

 普段は外の音なんて聞こえないのに、何故か今夜は音がしている。地震が収まったから、様子を見ようと外へ出る。

 気密性が高いという事は、ドアの隙間もないという事。外が海水で満たされていても、漏れて来る事はない。


「ちょっと外を見て来るよ」


「ついでにコーヒーを買って来てくれ」


「いいよ」


 またしても何も知らない研究者が、電動のスライドドアを開けようと、壁のスイッチを押した。

 室外は海水が天井まで詰まっており、水圧のせいでドアの動きが鈍い。普段通り開かない。

 不思議に思った研究者が、ドアを押してみる。壊れたのかと思って、体重を何度も掛ける。

 開いた瞬間に、海水が室内へ流れ込む。勢いに流されて、ドアの開閉スイッチが押せない。

 瞬く間に室内が海水で埋め尽くされ、全てが流されていく。また1つ、研究室が海水で満たされた。


 突然の水没に、対応出来る人間は多くない。パニックを起こして水を飲み、窒息して死んでいく。

 仮に泳げたとしても、アクアノートはどの階もかなり広い。海水のない場所まで、泳げた者は一握りだ。

 殆どの人間が、酸素の不足で力尽きていく。研究者が半数を占める為、体力に自信がある者は少ない。

 別の階が近い場所に居た者なら、辛うじて助かるケースもあった。しかし、助かっても試練は続く。

 浸水している階は他にもある。特に南側で働く者は、北側へ逃げる手段を持たない。つまり南側10階が立ちはだかる。


 南側の人間は、ホホジロザメが居る浸水した10階を、自力で抜けなければならないのだ。

 ルーカス達なら、南側11階から北側へ逃げる手段を取れる。だが普通のスタッフは、その選択が取れない。

 南側10階を抜けるのは、非常に困難である。ガンマとデルタ、そしてホホジロザメが襲い掛かる。

 結果地上を目指した者達の死体が、南側10階を漂っている。南側10階という壁を超えても、まだ試練はある。

 他者を犠牲に逃げ延びた男が、南側1階の正面玄関から出て走っていく。ずぶ濡れの白衣を脱ぎ捨てる。


「やったぞ……やった! もうこんな所、ごめんだ!」


 男は南側の船着き場へ向かっていく。ボートに乗って、ハワイまで逃げようとしている。

 大きな船は操船が難しいが、小さい船であれば素人でも何とかなる。小さなボートも、アクアノートにはある。

 男はエンジンを始動させ、船着き場を離れていく。助かったと、彼は思い込んでいる。

 今海に出る事こそ、最も危険だとは知らずに。小さなボートが、海上を進んでいる。


「はははっ、やった……俺は生き延びたんだ……」


 一緒に逃げていた知人を、ホホジロザメの餌として差し出し、生き延びた男。

 彼が乗るボートの下に、ゆらりと巨大な影が近づいて行く。後方を取られた事に、彼は気づいていない。


「美味い酒が飲みたいな」


 それが彼の、最後の言葉となった。後方から20メートルの巨体が、ボートをかみ砕いた。

今日はここまでです。明日も3話更新です。

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