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第4話 日本の研究者

 日本の東京、ある海洋大学の海洋生命科学部で、准教授をやっている男性が居る。名前は筑波彰人(つくばあきひと)、35歳の優秀な研究者でもある。

 彼は主にサメの研究をしている海洋学者で、学生時代から様々な論文を発表している。ネイチャー誌で取り上げられた事も何度かあった。

 若きサメの専門家として、学会では注目されている人物だが、少し変わった人物だ。食事も忘れて、研究室にこもるなんて当たり前。


 フィールドワークを行うために、体こそ多少鍛えられているが、どこか頼りなく見えてしまう。穏やかそうな顔立ちのせいだろうか。

 資料と睨めっこをする機会が多く、昔から図鑑ばかり見ていた彼は視力が悪い。常に眼鏡がないと、よく前が見えないほどだ。

 普段からちゃんとしていたら、恋人ぐらいは出来そうな顔立ちだが、彼は恋愛より研究だった。サメと結婚する気かと、学生時代はよく言われていた。

 ファッションには拘らないタイプで、適当に買ったシャツとジーンズを履き、その上から白衣を羽織っている。

 

「ほう、このデータは興味深いな……」


 彰人は新しく送られて来たデータを見て、やや興奮気味だった。オオメジロザメに付けたタグから、送られて来ている現在位置だ。

 彼は日本近海で生息しているオオメジロザメの、行動範囲について改めて計測をしているのだ。地球温暖化により変化した、近年のサメの変化。

 都道府県によっては、河口から河川へと侵入して来た事例が増えている。他にも沖縄県で、イタチザメの増加が確認されている。

 

 石垣島では100匹ものイタチザメが駆除され、ニュースになった事もある。オオメジロザメも同様で、人間の活動域に姿を現していた。

 日本政府の方針により、マグロ等の漁獲量を調整した結果、海に餌が増えたからなのか、それとも他の原因なのか。

 ここ数年のオオメジロザメの動きを、彰人は研究し続けていた。今日も新しいデータを、パソコンで纏めていく。


「水温の上昇が原因か?」


 彰人はパソコンの画面に集中している。過去のデータと見比べながら、移動データの分析を進めていく。こうなると彰人は、没頭してしまう。

 内線が鳴った事に気づいていないし、しばらく経ってから研究室がノックされた事にも、当然ながら耳に入っていなかった。

 それが彰人の日常であり、困ったところでもある。伊達にサメと結婚する気かと、周囲から言われていない。近くに人が来た事も、もちろん分かっていない。


「……ば……せい……ちく……せん……筑波先生!」


「おおっと!? な、何かな?」


 自分がすぐ近くで呼ばれていた事に、ようやく気づいた彰人。そこには事務員の女性が、やや不機嫌な表情で立っていた。


「いつも言っているじゃないですか! 内線ぐらい出て下さい!」


「ご、ごめん。集中していたから」


 研究者には変わり者が多いとよく言われるが、彰人は典型的なタイプだ。研究に集中していると、内線の呼び出しすら気づかない。

 こうして呼びに来ないと、永遠に気づく事はないのだ。事務員の女性としては、面倒臭い相手でしかなかった。


「先生にお客さんです」


「来客? 僕に?」


 そんな予定は入っていなかったので、彰人は不思議そうにしている。そんな彼に事務員の女性は、扉の方を手で示した。

 彰人が目を向けると、スキンヘッドの黒人男性が立っていた。高級と分かる質の良いスーツを着た男性だった。

 もちろん彰人には見覚えがなく、一体誰だろうと困惑する。来客であるのなら、対応するしかない。彰人は彼を迎え入れる。

 彰人は英語が話せるので、日本語ではなく英語で対話を試みる。自分に何の用があるのかと、貴方は何者であるのかを問う。


「突然押しかけて申し訳ない。私はアドルフ・ジャクソン。こういう者です」


「ああ、これはどうも。ははっ……え? アクアノート?」


 愛想笑いを浮かべながら、名刺を交換した彰人は、名刺に書かれた肩書を見て驚く。そこには有名な海洋研究施設の名前が書かれている。

 彰人はサメの専門家として、アクアノートに興味があった。だが中々訪れる機会に恵まれず、未だに足を踏み入れていない。

 知人が努めているという事もなく、何故アクアノートの関係者が、自分を尋ねて来たのか彰人には分からない。


「やはりご存知でしたか。ミスター彰人は、この筋では有名ですから」


「いやまあ、ははは」


 何の用があって来たのか、アドルフはスラスラと説明を進める。どうやら彰人の意見を聞きたくて、アドルフはここに来たらしい。


「現地の研究に関して、是非ミスター彰人の意見が聞きたいと、所長が申しておりまして」


「ぼ、僕の? という事は、サメの話ですか?」


 アドルフは頷き、彰人は漸くアクアノートから人が来た理由を理解した。同じ海洋研究に携わる者として、意見交換がしたいらしいと。

 急な話ではあるが、その分報酬はしっかり払うとアドルフは言う。先ずは手付金で2000ドル。約3千万円という大金だった。

 あまりの額に驚く彰人だったが、報酬よりもアクアノートに行ける事の方が大きかった。金額に少し疑問を覚えはしたが、必ず行くと約束する。

 日本とアメリカでは、かけられる研究費用が大きく違う。それもアクアノートクラスなら、随分と余裕があるのだなと彰人は思った。

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