第34話 避難に向けて
今日は2話更新します。
最悪の可能性が浮上した状況下で、どうやって避難するか話し合いが始まっている。
話の中心に居るのは、場の空気を掴んだ彰人達3人の学者だ。上手くアルファ達から、逃げる方法を探る。
三手に分かれて、周囲の安全を確認した後、広い真っ白な廊下で脱出方法を話し合っている。
そんな中で、彰人が重要な事に気づく。それは、アルファが北側50階の窓を破壊した事だ。
「アクアノートには、南北両方に大きな窓のある階がありますよね?」
彰人の問い掛けに、バートが渋々答える。だから何だと言い出しそうな表情だ。
「あるが、それがどうした?」
「今すぐに、どこにどれだけあるか、教えて下さい。縦横3メートル以上の大きな窓です」
そんな事を知ってどうなるのか、バートは理解していない。だが彰人の勢いに負けて回答する。
まずは北側5階の観覧室。そちらはVIP用で、縦横10メートルの50階と同じ窓がある。
続いて南側の10階、ホホジロザメが泳ぐプールだ。観察用に7メートルの窓がついている。
彰人が初日に見せて貰ったあの場所だ。他にも南側35階、約水深300メートル付近。
こちらは深海の生物の行動を確認する目的で、8メートルの窓が設置されている。
それから北側の45階に、アルファ達の健康診断等を行う為のプールが、施設内部にある。
中に入れる為の専用ゲートと、作業を確認する為に作られた、幅が22メートルの窓が存在する。
45階の窓がアクアノートにおいて、一番巨大であった。内部にある為、他の階とは少し性質が違う。
外を見る為でなく、医療目的で設置されている。トーマス達専属スタッフが、確認しながら調整を行う覗き窓だ。
アルファとベータを作った場所でもあり、アルファにとっては生まれ故郷という事になる。
「……まずいな。もう手遅れかもしれない……」
「なんだ? 何が気になるんだ彰人?」
神妙な表情を浮かべる彰人へ、ルーカスが声を掛ける。知識面で頼るなら、現状彰人が一番だとルーカスは見ている。
彰人が何か気づいたという事は、何か新たな可能性が浮かんだ。ルーカスはそう考える。
「さっきから何度も起きていた地震は、アルファの体当たりだった。振動は結構続いていただろう? もう大きな窓は全部、破壊されているんじゃないかって」
彰人の言葉に、話し合いをしていた全員の会話が止まる。もし彰人の予想が正解なら、上の階はどうなっているのか。
北側5階、南側10階、南側35階。北側45階は不明だとして、他全てが割られてしまっていたら。
浸水していた場合、そのどこからでも、ガンマとデルタが侵入出来てしまう。大量の海水と共に。
「バカな。北側はともかく、南側を奴らは知らない。有り得ない話だ」
バートは彰人の予想を、有り得ない妄想だと断じる。そこまでの知恵が、働く筈ないと。
だが彰人の予想は、それだけで終わらない。今度はトーマスへと、質問を投げかける。
「トーマスさん、アルファの脳は、普通のシャチより大きいですよね? 知能はどれぐらいありますか?」
突然話を振られたトーマスは、すぐに答えられなかった。蛇のような細く鋭い目を一度閉じる。
これまでの研究で分かっている事を思い出し、最新の結果を語り始める。
「2ヶ月前の計測では、人間の11歳に相当していたが、それが何か?」
トーマスの説明を受けて、彰人は思考を巡らせる。自分の知っている知識、これまでの経験を頼る。
危険な状況に追い込まれて、思考にノイズが混じってしまう。焦る気持ちを抑えて、考えを纏めて行く。
自らの予想を裏づける決定的な知識が、どこかにあった筈。自分の中で何かが、不味いと思わせた。
もしかして、そう思わせた直感の大元。可能性として思い当たった理由。ふと彰人は、後ろを見る。
かつての恋人、メイジーが監視役の保安部と、話を止めて彰人を見ている。そして思い出す。
「シャチは――イルカなど他の哺乳類の言語も、理解し模倣出来る、そうだったよねメイジー!」
「……そう、そうよ! もしアルファ達も同様であったなら、直接見ていなくても、知る事は可能だわ」
南側の言語を持つ生物達と、コミュニケーションを取っていた可能性はある。
もしそうであったなら、どこに何があるなんて、筒抜けかもしれない。11歳相当の知能があるなら尚更だ。
別々の水槽で飼育していたのではなく、海で繋がっている。会話する機会なんて、十分にあっただろう。
彰人達はようやく、今起きている事態の真相に辿り着いた。状況はかなり深刻だと知った。
「ハッ! 最高にスリリングな状況じゃないか。最高のアトラクションだよ少佐。とんでもない脱出ゲームを作ったな? アンタ軍人じゃなく、イベント企画会社のCEOでもやっていた方がお似合いだよ!」
たっぷりと皮肉を込めて、ルーカスがバートに詰め寄る。暫く睨み合ったが、バカらしくなりルーカスの方から離れる。
「それで、俺達はどうすればいい? 教えてくれ彰人」
無事に生還する為の方法を、今は模索するべき。バート達がやってしまった事の糾弾よりも重要だ。
ルーカスの質問に対して、彰人が出す答えはシンプルだった。それ以外にないと答える。
「浸水の可能性が高い階を避けて、南北を行き来しながら、上を目指すしかないだろうね」




