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第28話 崩壊の始まり

 突然の停電が、アクアノートを襲った。今は予備電源で動いているが、内部はやや薄暗い。

 アクアノート本体を維持する為の必要電力は多く、予備電源で稼働中は無駄な部分が省かれる。

 例えばバーなどの娯楽施設や、人間の居住エリアなどだ。とは言え、最低限の電力は供給される。


 だがテレビなどは、使用出来なくなる。午前零時を過ぎても、起きていた者は多い。

 アクアノートに所属している、およそ2割から3割の人員が、まだ就寝していなかった。

 夜勤シフトのスタッフだって働いている。突然の停電に驚きながらも、冷静に対応をしていた。


「何だ今のは?」


「ねぇ、どういう事なの?」


「停電なんて珍しいじゃないか」


 パジャマなどのラフな格好をした人々が、自室から出て廊下に集まり始めた。

 30人ほどの人々が、一般職員専用の居住エリアで話し合いをしている。

 アクアノートで停電は稀であり、起こってもすぐに主電源へ切り替わる。

 だが今回は、5分経っても回復しなかった。不思議に思って、人々は集団で移動を開始。

 保安部へと状況の説明を求めた。保安部の詰め所は、各エリアに設置されている。

 

「おい、大丈夫なのか?」


「事故でも起きたの?」


「落ち着いて下さい、現在確認中ですから」


 迷彩服を着た保安部の男性が、集まった人々を安心させようとしている。

 だが彼もまた、状況をよく分かっていない。詰め所に居ただけで、今すぐ全体の状況を確認出来ない。

 肝心の本部では大混乱が起きているが、そんな事を知る余地がなかった。

 同じような事態があちこちで起きているが、末端の保安部の隊員達は困惑する一方だ。

 そんな状況下で、更によくない事態が発生する。突然アクアノートが、揺れ始めたのだ。


「うわぁ!?」


「なんだ!? 地震!?」


「もう何なのよぉ!」


 突然の停電、そして地震らしき揺れ。今までにない出来事に、起きていた人々が混乱する。

 寝ていた人達の中でも、目を覚ます者が現れ始める。謎の揺れは止まらない。

 彼らはまだ気づいていない。番を殺された恨みを、人間達へぶつけ始めた巨大生物の行動を。

 北側の海中では今、20メートルの巨体を持つメジロドンのメスが、アクアノートへ体当たりを繰り返している。


 この中に、憎き人間達が居ると知っているから。彼女がただのサメならば、恨まなかったかもしれない。

 サメにはそこまで、高い知能がない。メガロドンがどうだったかは、誰にも分からない事だ。

 生物兵器として、高い知能を求めたから。シャチのDNAを混ぜてしまったから。事態はどんどん悪化していく。

 シャチという海洋哺乳類は、仲間意識が非常に強く、愛情が深い生物だ。人間とそう変わらない社会性も持っている。


 共感性が高い事も分かっており、弱っているクジラの子供を助ける事だってある。

 群れからはぐれたクジラやイルカの子を、自分の子供のように育てるというケースだって、確認されている。

 他種の子供を誘拐してまで育てるほど、家族愛に満ち溢れているのだ。だから彼女は、強い怒りを持っている。

 子供達もまた、父親を奪われて怒っている。ただ科学技術で、無理矢理抑え込んでいただけに過ぎない。

 

 バート達は、その事実に思い至らなかった。なまじ今日まで上手く、制御出来てしまっていただけに。

 大人しく従っていたのは、復讐の機会を窺っていただけだ。決して従順だったのではない。

 兵器として扱っていたバートや、自分の研究成果の為だった、トーマス博士と助手のアイリス。

 他にも関係していたスタッフ達と、アルファ達家族の間には、友情なんて結べていない。

 

 信頼関係なんて形成出来ておらず、彼女達の知性を侮っていた。彰人が危惧した以上に、置かれた状況は悪い。

 バートが言ったように、見事な成功例と言えるだろう。高い知能を発揮している。

 地下50階の研究所、その大きな窓へ、何度も体当たりをしている。強い憎しみをもって、何度も繰り返す。

 この事態に気づいているのは、驚いてトイレから戻って来たメルビスただ1人だ。


「ななな!? なんで!? クソっ! リモコンで――なんだコレ!? スカスカのハリボテじゃないか!?」


 リモコンでの指示は諦めて、パソコンからやめるように、指示を出そうとするメルビス。

 そして気づく、目茶苦茶に破壊されてしまった基幹システムに。これではもう、何も出来ない。

 繰り返される体当たりで、窓が軋み続けている。メルビスは不味いと思い、研究室を出て行く。

 逃げるのに必死で、水密扉を閉めるのも忘れている。地上に直通のエレベーターは、1階で停止している。


「クソクソクソクソクソ! なんでだよ!? なんで動かない!?」


 一刻も早く地上へ出たいのに、何度ボタンを押しても直通のエレベーターは全く動かない。

 予備電源が稼働していれば、これだけは動く筈なのに。メルビスは慌てているが反応はない。

 ユリアが脱出する前に、メンテナンスモードへ切り替えて停止させたからだ。今は1階からしか動かせない。

 

 厳重に作ったからこその、弱点がモロに出ていた。メルビスは諦めて、別ルートで地上を目指す。

 彼が50階から脱出すると同時に、北側50階の窓が、アルファの体当たりによって破られた。

 これもまた、バートの発言通りだ。骨格を持つ質量の化け物は、高い突進力と攻撃力を有していた。

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