第26話 和田和美
次で今日の更新分は終わりです。
彰人とメイジーが部屋へ向かった少し後。日本人で遺伝学者の、和田和美がエレベーターに乗っている。
北側にある50階へ直通の、朝にも乗ったエレベーターだ。彼女は1人で、400メートル下へ向かう。
肩からピンク色の小さなバッグを下げている。まるで近くのコンビニまで、買い物でも行くかのよう。
監視はついておらず、単独行動をしている。何故なら彼女は、昼の間に協力すると返答したからだ。
多少のマークはされていても、分かり易い監視の目は離れた。彼女にとっては、必要な事だった。
(予定時刻まで1時間……)
160センチの平均的な身長。日本人らしい黒い髪と目。小顔で可愛らしい愛嬌のある顔立ち。
ワイシャツの上からでも分かる、スタイルの良さ。黒いタイトスカートから覗く足は細い。
左腕の腕時計を確認しながら、和美は真剣な表情をしている。現在の時刻は、23時になったばかり。
こんな時間から下へ降りて、何をするつもりなのか。彼女の行先は、どこであるのか。
その答えはたった1つだけ。和田和美は、とある企業から雇われた産業スパイだった。
(あまり余計な時間は掛けられないわ)
エレベーターが到着し、ドアが開く。和美は迷う事なく、あの研究室へと向かっていく。
朝と昼に入った、生物兵器の研究室。三度目ともなれば、迷う事なく進んで行ける。
元々和美は、道を覚えるのが得意だ。スパイ活動において、非常に役立っている特技だ。
真っ直ぐ研究室へ到着した和美は、室内へと入っていく。そこに居たのは、メルビス1人だけだった。
(ふっ……あの童貞臭い機械オタクだけか。ラッキーだわ)
現在他の人員は、自室や食堂へ行っている。メルビス1人なのは、単純に押しつけられたからだ。
あまり強く物が言えない彼は、頻繫にこうして留守番を任される。貧乏くじを引かされているのだ。
とは言え、やりたい事があるのも事実。アルファ達に出す指示をより正確にする為、システムを弄っている。
目立った成果は出ていないものの、少しずつ改善はしている。彼の功績はかなり大きい。
メルビスは和美の気配に気づいておらず、和美はニヤリと笑いながら背後を取る。
「ねぇ、エンジニアさん」
「うわぁっ!? なななな何かな!?」
耳元で声を掛けられたメルビスは、飛び上がるように驚いた。動揺しながら、少し後ろへ振り返る。
メルビスは肩から、柔らかな感触を感じていた。軽く振り向いた先には、和美の胸元がある。
寄りかかるように立っている和美のワイシャツは、ここへ来るまでに胸元のボタンが開けられていた。
上から3番目まで開いたシャツからは、グラマラスな和美の谷間が見えている。
メルビスの視界の端には、真っ赤なブラジャーの生地も映っていた。甘い香りが、メルビスの鼻腔をくすぐる。
「このリモコンって~どうやって操作しているんですかぁ?」
デスクの上で、メルビスが握っているリモコン。彼命名のメジロドンに、指示を出す為の貴重品。
リモコンを持つメルビスの右手に、ゆっくりと和美の手が這っていく。少し冷たい手が重ねられる。
「あああ、えっと、き、聞きたい?」
「えぇ~教えてくれるんですかぁ?」
25歳の和美と、36歳のメルビスでは10歳以上の年齢差がある。だがメルビスは、和美の罠にあっさり落ちる。
何を隠そうメルビスの趣味は、日本のアニメ観賞だ。そして日本人女性が大好きだった。
和美のように可愛らしく、スタイルの良いキャラクターを好んでいる。和美はまさに、彼の理想通り。
そんな和美に、こうも露骨にスキンシップをされては、冷静な判断なんて下せなかった。
もちろん和美の思った通り、未だに女性経験はない。あまりにも刺激的過ぎる状況だ。
「こ、これを、さ、こうすると呼び寄せて、この順番で操作すると遠のくんだ」
実際に指示を出したメルビスにより、アルファ達が近づいたと思えば離れていく。ボタンが少なく操作は単純だ。
出せる指示が少ないから、改良をしようとしたのだろう。和美はそのように受け取った。
「わぁ~凄いですねぇ! これを貴方が作ったんですか?」
「ま、まあね。昔からこういうのが得意でさ! 色々作っていたら、バートに誘われたんだよね。ははは」
明らかに媚びを売っている和美に、メルビスはもうメロメロだった。少し慣れたのか、早口で話始めた。
事あるごとに和美はメルビスを褒め、メルビスをおだてる。凄いですね、知らなかったです、頭が良いんですね。
キャバクラなどで、マニュアル化している対男性の言葉。その全てが、メルビスの気分を上昇させる。
「あの機械は何ですかぁ?」
「あ、あれはねぇ……いやでも流石に……」
重要情報が大量に入っている、メインサーバーに直結しているパソコン。答えていいのか迷うメルビス。
「教えてくれないんですかぁ?」
メルビスの背中に、和美の豊満な胸が押しつけられる。しなやかな指が、彼の顎をなぞる。
理性がゴリゴリと削られていく。より近くなった事で、和美の香りが更に濃くなる。
「……は、話したって事、バートには内緒だよ?」
「ええ、もちろん内緒にしますよぉ」
結局メルビスは、和美に乗せられるまま全てを明かしてしまった。相手がスパイだと気づく事もなく。
オタクに優しいスパイ(優しくない)




