第24話 身の振り方を考える
用意された客室へと戻ったルーカスは、ベッドの上に仰向けで倒れ込む。
監視要員は室内まで入ってこないが、どうせ監視カメラでもあるのだろうと、彼は判断している。
バートが抜かりない男であると、知っているからだ。外部と連絡を取ったとしても、すぐにバレるだろう。
見た事を文面にして送信したり、インターネットで配信したりするのも無駄だろう。
まず内容的に、世間が信じてくれる筈がない。明確な証拠は現状何1つ提示出来ない。
こんな話を証拠も無しに、誰が信じるというのか。失敗する可能性が十分ある上、人質まで取られている。
成功するか賭けになるやり方なんて、危な過ぎてとてもじゃないが行おうと思えない。
最低でも家族の安全を確保せなばならないが、問題は国も関与しているという点だ。
バート個人が相手なのではなく、アメリカ軍と政府を相手にするという事になる。
「クソっ……」
恐らくこの計画には、資本家達も関わっているだろう。富豪たちも敵に回ってしまうのは確実。
アクアノートへ出資をしている人物は、有名人が多い。富豪ランキングの上位者が含まれる。
企業だって大企業ばかりで、しかもアメリカだけではない。日本人の資本家や大企業もだ。
バートの発言が全て真実であれば、日本政府までも敵という事になる。戦う相手が大き過ぎる。
人によっては実情を知らない場合もあり、下手に表沙汰にすると迷惑を掛ける可能性もあるだろう。
「こんな話、どうしろって言うんだ」
ベッドの上で寝がえりえをうつルーカス。これからどうするか考えているが、答えは見つからない。
兵士の負担軽減という点は、ルーカスだって賛成出来る。是非とも犠牲者を減らす方向で進めて欲しい。
だがそのやり方が、こんな方法であって良いのか。国や軍の上層部は何を考えているのか。
志は一体どこを向いているのか。かつて所属していた組織が、狂ってしまったというのか。
自分は何の為に、死んで行った仲間達は、何の為に戦ったのだろう。1人で自問自答を繰り返す。
「……」
ルーカスは起き上がって、デイバッグの中から1枚の写真を取り出す。端がボロボロになった昔の写真。
イラク戦争で死んで行った、軍服を着た仲間達。10人で撮った写真の内、生き残ったのはルーカスだけ。
銃撃を受けて死んだ者。手榴弾で吹き飛ばされた者。自爆テロに巻き込まれた者。
全員がアメリカの為に戦い、散って行った。母国で待っていた遺族は、深い悲しみを抱えた。
ルーカスだってそうだ。国の為に戦い、仲間達の為に戦い、アメリカ国民の為に戦った。
「なんだったんだ……あの戦いは……」
手の平を額に当てて、目をつぶるルーカス。今でも思い出せる、仲間達の無残な姿。
帰国した時、平和なアメリカを見て安堵した。守りたかった国を守れたと思った。
だがそれは、ルーカスの目に見えていた範疇だけの話だった。今や国と軍は、モンスターを作っている。
タチの悪いB級映画かと、笑いたくなるような生物を作った。兵士の為だと言って、あんなものを生み出した。
自分が守りたかったものは、これだったというのか。ルーカスはフラフラと立ち上がり入り口のドアを開ける。
「今から電話をするが、単なるプライベートな話だ。信じられないなら、ここで聞いていろ」
「……」
監視役の武装した男性が、ドアの近くで待機する。開けたままでルーカスは、スマートフォンを使用する。
電話を掛ける先は、離婚した元妻。セリーヌ・キャンベルという女医である。1歳下の知的な女性だ。
今は息子のアランと2人で暮らしている。ルーカスはどうしても、聞きたい事があったのだ。
『……もしもし? 珍しいじゃない、貴方から電話なんて』
「ああ、その……1つだけ聞きたくてな……」
珍しく覇気のない声で話すルーカスに、セリーヌは違和感を覚えている。どうしたのかと彼女は尋ねる。
だがどうにもルーカスは、妙に歯切れが悪い。いつもならハキハキと話す男性だというのに。
大きな病気でもしたのかと、健康面の心配をするセリーヌ。ガンなどの病気をすると、屈強な男性でも参る。
だがセリーヌの質問に、ルーカスはそうじゃないと返す。意を決してルーカスは、質問をした。
「俺は、何の為に戦った? アランは、こんな男を父親だと誇れるのか?」
『……本当にどうしたの? 変な薬でもやってないわよね?』
戦争から帰った兵士の中には、心を病んでドラッグに走る者も居る。辛い記憶を忘れたくて。
だがルーカスは、その手の人間ではない筈。セリーヌも分かっているけれど、あまりにも様子がおかしくて心配になる。
「そういう事じゃないんだ。ただ……あの戦いは正しかったのか、分からなくなった」
『はぁ…………貴方は家族を顧みなかった。だけど軍人としては、素晴らしい人だったわ。アランだって、貴方を誇りに思っているわよ』
「……そう、か。それなら良いんだ。すまない、仕事中に」
ルーカスはそれから僅かなやり取りをした後、通話を切って監視役に以上だと伝える。
特に問題はないと判断されたのか、何も言わずに監視役は入り口前の壁に背を預けた。
ルーカスは室内に戻り、これからどうするか再び悩み始めた。
今日の更新はここまでです。




