第22話 脅迫と主張
10人以上の武装した男性達が、小銃の銃口をルーカス達へ向けている。
彼らはアクアノートの保安部隊だ。情報漏洩の恐れがある人物を、調査し拘束する役目を持つ。
産業スパイの摘発なども、影で行う精鋭部隊である。事実上バートの私兵団と言える。
「もう君達は共犯者なんだ。金だけ受け取っておいて、今更無かった事になんてならない」
バートは笑顔を浮かべたまま、ルーカス達を脅迫している。だが彼らには、どうする事も出来ない。
銃火器で武装した私兵と、巨大な化け物がそこに居る。少なくとも、両方バートの指示に従う存在。
下手に海から逃げようとしても、助からない可能性を考慮せねばならないだろう。
生物兵器の計画を、ただ聞かされたのではない。既にある程度形になった、実験体が居るのだ。
「オルコット先生には、大事な子供が居るね。マイヤーズ先生は、病気の母親だ」
バートはメイジーとソフィアの家族について話している。その意味は言うまでもないだろう。
「卑怯よ! 子供を人質に取る気!?」
「母さんは無関係でしょう!」
メイジーとソフィアは焦っている。大切な家族を、盾にされてしまっては強く出られない。
こんな生物兵器を作る男が、まともな存在とは思えない。バートが何をするか分からない。
「ルーカス、君は可愛い息子が、フロリダで別れた元嫁と暮らしている。トミー、君はこういう事業が好きだろう?」
「もちろんだよ! いくら投資すれば良いんだ?」
1人だけ受け入れているトミーは、とても興奮した様子で返答した。金になるなら、生命の冒涜など知った事ではない。
逆にルーカスは、苦い表情でバートを睨む。バートなら家族を盾にするぐらい、国の為ならやると理解している。
バートが筋金入りの愛国者である事は、嫌というほど知っている。嫌な意味で、疑う余地は一切なかった。
「そして筑波先生。貴方はこうなった以上、従うしかないだろう?」
バートは銃口を向けるかのように、リモコンをルーカス達に向ける。その先に居るのは、メイジーだ。
家族を盾にするまでもなく、彰人の意思を縛る事が出来る。かつて愛した女性が、ここに居るのだから。
言うまでもなく、彰人は抵抗なんて出来ない。逆らうというなら、メイジーに危害が及ぶ。
「……卑怯ですよ、バートさん」
「あまり私を悪者扱いしないで欲しいな。君達の国、日本政府だってこの計画を知っているんだよ?」
衝撃の事実に、日本人である彰人と和美は驚いている。言われてみれば、それもそうだ。
メガロドンを発見したのは、海上自衛隊だ。当然ながら日本政府にも、報告は入っているだろう。
だというのに、今までこの件について、発表された事実はない。知っているのに黙っている。
「さて和田先生、貴女の周囲についても、語る必要があるかな?」
「……ないわ」
和美には、多額の借金がある。オンラインカジノに熱中し、返済に苦しんでいる。
今回の報酬を無かった事にすれば、返すアテがなくなってしまう。それだけは避けたい。
「そもそも君達は、勘違いをしている。何も生物兵器を作って、世界を目茶苦茶にしようという事じゃない。最初に言っただろう? 兵士の負担を減らす為だ。原子力潜水艦が沈めば、100名以上の兵士が死ぬ」
バートはあくまで国の為、兵士の負担軽減を考えて行動している。科学技術で遊んでいるわけではない。
「だがコイツらならどうだ? 1匹死んでも、魚が1匹死ぬだけだ。その上、原子力潜水艦を製造するより安上がりだ。アメリカで暮らす2人は、税金だって納めているだろう? 軍事費用は、無限に湧く源泉じゃないぞ?」
生命への冒涜という点に目をつぶれるのなら、バートの主張には一理あると言えてしまう。
何と言おうが、兵士の命が懸かっている。税金から軍事費用が捻出される。
じゃあ代わりにどうするのかと問われても、ルーカスとソフィアは即答出来ない。
「大体、人間に都合良く品種改良した動物を、我々は食べているじゃないか。それとも君達は、ヴィーガンなのか? まあ野菜だって、生物なわけだがね。そうそう、ウナギなんて絶危惧種だ」
人間の影響で、生態系が変わる。都合の良い生物に変えてしまう。それはずっと、人間が続けて来た事。
ハイブリッドメガロドンを否定するなら、他の行為だって同じだろうとバートは迫る。
特に日本人である彰人と和美は、強く出る事は出来ない。絶滅危惧種に関する問題は、国内でも複数ある。
「何より君達は、アメリカ軍に守って貰っている側だろう? アメリカ軍に期待しているのは君達だ。なのに戦場で、何人兵士が死のうと、君達は気にしないのか? それとも――君達が代わりに、テロリストや麻薬密輸業者と戦ってくれるのか? うん?」
兵士の命という問題は、簡単に解決する話ではない。こんな風に言われてしまえば、即座に言い返せない。
中でもルーカスは、痛い程にバートの主張が理解出来てしまう。戦場で死んで行った者達の顔が浮かぶ。
だからドローン兵器について学んだ。必死になった。結局軍を辞めてしまったが、目指そうとしたのは同じ道だ。
人間の代わりを、果たしてくれる兵器を多く採用したい。だからこそルーカスは、奥歯を噛み締めるしか出来ない。
今日はここまでにします。




