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第19話 蘇った古代魚

 所長のバートは、50階の特別研究室で働くスタッフを紹介していく。

 まずは主任研究員であるトーマス・テイラー。43歳のどこか蛇っぽさを感じさせる白人男性。

 助手をやっている白人女性で、25歳のアイリス・ジェファーソン。とても可愛らしい女性だ。

 2人は遺伝子学者であり、この研究室では中核を担っている。欠かす事の出来ない人物である。

 紹介されている間、2人のリアクションはやや暗かった。その理由がルーカス達には分からない。


 順番に握手をする間もどうやら、心ここにあらずといった状態だ。意識がルーカス達に向いていない。

 何かの検査装置なのか、心電図のようなモニターが表示されている。その横で2人は立ったままだ。

 アイリスはチラチラとモニターを見ている。何が気になるのだろうと、彰人(あきひと)は疑問に思った。

 ふと視線のような何かを感じて、彰人は振り返る。そこには暗い海が広がっているだけ。

 気のせいだろうと思い、彰人は室内に視線を戻す。彼の背後で、何やら大きな影が動いた。


 最後に紹介されたのは、どこかオタクっぽい印象の白人男性だ。視線と喋り方に落ち着きが無い。

 中肉中背の平均的な体格で、どこか頼りなさそうだ。くすんだ色の茶髪と、無精ひげが少し不潔である。

 女性陣は揃って微妙な反応を示している。彼の名前はメルビス・ジョーンズ。36歳のシステムエンジニアだ。

 メルビスはボリボリと頭を掻きながら、バートに促されて挨拶を始める。


「あ~その、よろしく? 自分はここで基幹システムを作っている。プログラミングが分かる人居る? 出来たら相談とかしたいんだけど――あ、いない? ああうん、なら良いんだ。ははは、気にしないで」


 一気に早口でまくし立てた後、メルビスは自分の席に戻りパソコンの前に座った。

 何か用事でもあるのか、カタカタとキーボードを叩き始めた。そんな彼のデスクへ、バートが手を伸ばす。

 充電されていたらしいリモコンのような、掌サイズの機器を手にする。バートが刺さっているコードに触れた。


「あ、ちょっと!」


 メルビスが声を上げるが、バートは気にせず引き抜いた。ため息を吐きながらメルビスが項垂れる。


「何だ? 準備は出来ているのだろう?」


 咎めるような口調で、バートがメルビスに尋ねる。だがメルビスは何でもないと答えた。


「いやまあ、うん。基本的な動作なら、現状で問題ありませんよ」


「なら最初からそう言え。では皆さん、貴方達を招いた本題に入りましょうか」


 メルビスへ向ける口調とはまるで違う柔らかな話し方で、バートはルーカス達へ言葉を投げかける。

 ゆっくりと大きな窓に向かいながら、バートは軽やかに歩みを進めていく。

 ルーカス達は黙って彼の背中を追う。すると部屋の中央で待つように伝えられた。

 あまり窓に近すぎると、驚くかもしれないからと。その上でバートは、大きな窓の向かって右端に立つ。


「まずは我々の研究成果を見て頂こう。その方が早いからね」


 そう言うなり、これ見よがしにリモコンを操作するバート。何が起きるのか分からないルーカス達は、様子を見守る。

 機械的なライトの光に照らされた、大自然の風景。暗い海の底が、窓の向こうにある。

 何も起きない事に、疑問を覚え始めたルーカス達。しかし次の瞬間には、根源的な感情に支配される。

 生きる上で絶対に必要なもの、恐怖を覚えるという本能。何か巨大な影が、少しずつ近づいて来ている。

 窓のサイズはかなり大きい。恐らくは10メートル以上。だというのに、それよりも大きく見える。


「ば、バカな……有り得ない……」


 シルエットが見え始めた時、彰人が慄きながら言葉を漏らす。彼はシルエットだけで気づいた。

 異様に巨大な影が1つ、そして小さな影が2つ。小さいと言っても、1番大きな影と比べての事。

 ゆっくりとその全貌が、ハッキリと視えてくる。黒い肌に巨大な口、恐ろしく鋭い牙。凶暴性を感じさせる姿。

 海で最も遭遇したくない恐ろしい生き物。洗練された流線形のフォルム。捕食者としての異様。


「メガロドン……」


 彰人は呆然と立ち尽くしている。とっくに滅んだ筈の古代魚。かつて頂点捕食者だった存在。

 20メートルはあるだろう成魚と、まだ子供と思われる6メートル程の2匹が付き従う。

 滅んだ筈のメガロドンが、1匹だけでなく3匹も目の前に居る。彰人達学者組は、目を見開いている。

 ルーカスとて、驚愕の表情を浮かべている。だがトミーだけは、金になると喜んでいた。


「驚いて頂けたかな?」


 所長のバートと案内役のアドルフは、どうだとばかりに誇っている。

 驚いているルーカス達を見て、とてもご満悦の様子だ。してやったりというところか。

 彰人はフラフラと窓へ近づいていく。泳いでいる姿を一度で良いから、見てみたいと思っていたから。

 歯の化石しか見る事が出来ない筈の現代に、かつて夢見た姿を見た。目の前に生きた化石がいる。

 しかし途中で、彰人は違和感に気づく。良く見てみると、細部におかしな点が見つかる。


「……これは、本当にメガロドンですか?」


「ほう。流石は筑波(つくば)先生だ。お気づきになりましたか」


 招待客の中で唯一、彰人だけが見抜いた。決してこの魚は、単なるメガロドンではないと。

 意味深に微笑むバートは、彰人の目と頭脳を讃えた。その問いの答えを、バートは少しずつ明かし始める。

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