第2話 元ドローン兵器のプロ
アメリカ合衆国の西海岸、サンフランシスコの海水浴場には、大勢の観光客が居る。彼らは夏を楽しむために来ている。
水着を着た若者、家族連れに老夫婦。海外から来た外国人もおり、利用客は何もアメリカ人だけではない。様々な人種が海を満喫していた。
海水浴場といえば、その場に居るのは利用客だけではない。彼らが安全に海を楽しめるように、監視をしている人々が居る。
ライフセーバーと呼ばれる彼らは、監視台の上に座って海や砂浜の様子を双眼鏡で確認している。怪我人やトラブルが起きていないか。
そしてサメ等の危険な生物が、現れたりしていないかも。海水浴場にサメが現れる事件は、意外と起きてしまうもの。
アメリカではニュージャージー州で起きた、サメ襲撃事件が非常に有名である。川や海水浴場などで、立て続けに人がサメに襲われた。
死亡者は4人、重傷者が1人という痛ましい事件だ。襲ったサメの種類については、現在でも議論されている。
当時はホホジロザメによる被害だと思われ、この事件を元に映画が作られた。それ以来サメをテーマにした作品は、根強い人気がある。
しかし時間が経つにつれ、サメは言われているほど凶暴ではないという事実も判明した。事件についても、今では見直されている。
海での被害はホホジロザメかも知れないが、川で起きた事件はオオメジロザメではないかと、現在では言われている。
実際にオオメジロザメは、世界中の色んな川へ侵入した例が報告されている。淡水でも生きられる事は、今となっては有名な話だ。
オオメジロザメが川を遡上し、思いもよらない位置まで移動していた事もある。最大距離はペルーの報告で、4000kmも移動をしていた。
凶暴性についても、ホホジロザメよりオオメジロザメの方が高いという説もある。世界で一番危険なサメとまで、言わてしまうほどの攻撃性を持つ。
積極的に人間を襲うほどではないが、決して近づかない方が良いのは言うまでもない。研究者達も、接近する際は細心の注意を払う。
海だけが危険な場所ではないが、一番サメと遭遇する可能性が高いのは言うまでもなく海だ。
利用客が大勢いる海水浴場に、とある建物がある。ライフセーバー達が利用している事務所だ。
2階建ての小さな白い建物で、30代ぐらいの白人男性が1人で、ウイスキーの瓶を片手にくつろいでいる。彼はルーカス・ブラウンというライフセーバーだ。
鮮やかな金髪と、180センチを超える長身。良く鍛えられた厚い胸板と、厳つい顔立ちが特徴的だ。
元アメリカ海軍に所属していた男だが、とある理由から海軍を抜けた。今は彼が好きな海で、人々のために働いている。
ライフセーバーという職業は、彼が思っていたより性に合っていたらしい。人命救助にやり甲斐を感じていた。
ルーカスが気分良くお酒を楽しんでいると、無線から緊急連絡が入る。彼の同僚が、焦った声で状況を説明する。
『ルーカス! 大変だ! サメが出た!』
すぐさま反応したルーカスは、無線を手に座っていた椅子から飛び起きる。出現した位置を確認しながら、事務所のロッカーからナイフを取り出す。
「今年に入って3回目だぞ! 市長は状況を分かっているのか!?」
『稼ぎ時だと言って、聞き入れやしないさ』
同僚の愚痴を聞きながら、ルーカスは砂浜を全力で駆けて行く。軍で鍛え抜かれた肉体は、今も衰えていない。
最速で桟橋へ駆け付けた彼は、ライフセーバー用のジェットスキーに乗り、急いで海上を疾走する。駆けつけた現場で、襲われている被害者へ手を伸ばす。
「掴まれ!」
「た、助けてくれ――ぐああああああ!?」
執拗に小太りの男性を狙っているのは、3メートル程のイタチザメだ。グルグルと男性の周囲を回りながら、何度も攻撃を繰り返している。
このままでは男性が出血死してしまう。ルーカスは意を決して、ナイフを手に海へ飛び込む。男性に噛みつこうとした瞬間を狙い、背びれを掴む。
頭部に目掛けて何度もナイフを突き刺して、追い払おうとする。だがイタチザメは興奮状態にあるのか、全く逃げ出そうとしない。
それでもルーカスはナイフを振るい続け、格闘を続ける。しばらくするとイタチザメは動かなくなり、完全に行動を停止した。
イタチザメが沈黙した事を確認すると、ルーカスは被害にあった男性をジェットスキーに乗せて桟橋へ急ぐ。
「サミュエルズ! 救急車は!?」
『もうすぐ来る!』
ルーカスは大騒ぎになっているビーチへ戻り、桟橋で男性の止血を行う。足を何度も噛まれたらしく、太股からの出血が酷い。
食い千切られてはいないものの、このままでは死んでしまう。医者ではないルーカスから見ても、明らかに重症だった。
彼が必死で止血をしていると、救急車と警察が到着する。すぐに救急隊員が集まって来て、被害者の男性を運んで行く。
それからすぐに、警察の事情聴取が始まる。後から来たルーカスの仲間がボートを使い、仕留められたイタチザメを運んで来た。
3メートルにギリギリ届かない、2メートル97センチの雌だった。そのサイズを見て、警官は驚いている。
「わお……コレを、アンタが?」
「ああ、何とかね」
そんなやり取りを挟みつつ、事情聴取は終了した。ドッと疲れを感じたルーカスは、後を仲間に任せて事務所へ戻る。
再び椅子に座ってウイスキーを飲もうとした彼に、後ろから声が掛けられる。聞いた事のない声に反応し、ルーカスは振り返る。
事務所の入り口に立っているのは、高そうなスーツを着た黒人の男性だった。少なくともルーカスは一度も会った事がない。
スキンヘッドにした頭部と、大きめのサングラス。平均的な体格の、ビジネスマン風の見た目をしている。
「噂に聞いていた通り、勇敢で優秀な人らしい」
「……アンタは?」
黒人の男性はアドルフ・ジャクソンと名乗り名刺を渡す。そしてビジネスの話があると、ルーカスへと持ちかけて来た。




