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第17話 お披露目に向けて

 遂にルーカス達へ、秘密を明かす日を迎えたアクアノート。主任研究員のトーマスは、非常に複雑だった。

 モヤモヤとした気持ちを抱えながら、彼はベッドから起き上がる。彼専用に与えられた自室は、高級ホテル並みだ。

 職員でありながら、VIPと変わらない扱いを受けている。室内にある調度品の数々は、全て高級品だ。

 シルクで出来たバスローブ姿のまま、トーマスは浴室へと向かう。せめて寝汗の不快感ぐらいは、洗い落としたかった。

 洗面所の鏡には、疲れた表情の自分がいる。あまり眠れておらず、目の下にはクマが出来ていた。


「……酷い顔だ」


 水を出して顔を洗うトーマス。そのまま顔も拭かずに、バスローブを脱いでシャワールームへ入って行く。

 適当に投げ捨てられたバスローブは、洗濯カゴの端に引っ掛かっている。だがそれで問題はない。

 ハウスキーパーが勝手にやって来て、トーマスの知らない間に洗濯される。ここではそれが日常だった。

 トーマスは蛇口を捻り、ぬるめのお湯を浴びる。少しだけ不快感が、流れ落ちていく。だが、気持ちは晴れないままだ。


「所詮私は、雇われ研究者だという事か……」


 降り注ぐお湯が、適当に伸ばされた白髪交じりの茶髪を濡らす。トーマスのボヤキは、彼の素直な気持ちだった。

 やり切れない思いを抱えながら、彼はシャワールームを出ていく。バスタオルで体を拭き、部屋に戻って着替える。

 ハウスキーパーが畳んでおいてくれた、ワイシャツに袖を通す。紺色のスラックスと、黒の靴下を履いた。

 オフィスワーカーではないので、ネクタイまでは締めない。その上から白衣を着るだけでいつも通りだ。

 必要最低限の荷物を持ち、部屋の外へ向かうトーマス。ちょうどそのタイミングで、部屋の呼び鈴が鳴った。


「今出るところだったよ」


 トーマスが入り口のドアを開けると、そこには若い白衣の女性が立っていた。年齢は20代半ばぐらいだろう。

 彼と同じ白人の女性で、赤毛の可愛らしい雰囲気を持つ。淡いグリーンの瞳が美しい。


「おはようございます先生」


 女性の名前はアイリス・ジェファーソン。背丈は165センチで、スタイルは平凡。明るい印象を受けるにこやかな表情。

 彼女はトーマスが、大学で行った講義を通じて知り合った。今では彼の助手をやっている若き研究者だ。

 15歳で遺伝学に興味を持ち、こうして今も研究を続けている。トーマスの功績には、高い敬意を持っている。

 アクアノートにてこれまで、トーマスを支えて来た。唯一の理解者と言ってもいいだろう。

 トーマスの完璧主義な考え方に、アイリスは付き合う事が出来る。彼女もまた、似た性質を持っていた。


「……今日は予定通り、招待客に彼女を見せる」


「そんな!? まだ調整面で不安が残っているのに!?」


 昨夜バートに対して、トーマスが言い放った内容と同じ話をするアイリス。師弟で考える事は同じなのだろう。

 可愛らしい表情を一気に曇らせて、不安そうな様子を見せている。トーマスだけでなく、彼女も同じ問題が気掛かりだ。

 トーマスが主体で作ったとある生命体は、まだ完成とは言い難い。色々と改善点が残ったままだ。

 その打開を求めて、各分野の有識者を募ったのはまだ分かる。しかし無関係な人間を、関わらせられる段階に無い。

 軽く意見を聞くぐらいならともかく、バートが推し進めていたのは研究協力だ。この計画に人員を増すという。


「仕方ないのさ……私が集めた資金じゃない」


「それは……でも……」


 アイリスが気になるのは、知らない人間と会わせる危険性も含まれる。2人が彼女と呼ぶ生命は、非常に高い知能を持つ。

 人間の姿を見て個を認識しているし、ある程度の指示も理解出来る。感情だって持っているのだ。

 生まれてからこれまで、少しずつ人間に慣れさせて来た。知っている人間だけしか、関わらせていない。

 給餌係ぐらいならともかく、本格的に研究へ関与させると、どんな反応をするのか分からない。

 嫌がるかもしれない、怒るかもしれない。興味を示して噛みつくかもしれない。本当に予想がつかないのだ。


「決まった以上は、どうにかするしかない」


「……悪影響が出ないといいのですが」


 トーマスはアイリスの前でだけ、優しい表情を見せる。娘同然に扱い、父親のように接して来た相手である。

 彼の研究にも理解を示し、今日までこうして着いて来た。もし研究を引き継がせるなら、彼女以外を選ばない。

 自分の後継者として生きて行ける程に、彼は教え導いて来た。持っている志も、彼とよく似ている。

 トーマスが本件への関与を、認めた研究者はごく僅かだ。片手で数えられる程度。その中でもアイリスだけは特別だった。


「あまり突っ立っていても仕方ない。朝食に行こう」


「はい……」


 職員用の食堂へ向かう2人。その足取りは決して軽くない。それぞれ思うところはある。だが決定を覆す権限はない。

 あくまで2人は職員でしかなく、決定権は所長のバートにある。2人に出来る事はもう、上手く行くように願うだけ。

 今から大規模な調整をやっている時間はない。最低限の調整のみで、本番を迎える以外に手段はなかった。

2日目にして、ホラージャンルの連載中日間3位を取りました。

ありがとうございます!


超真面目に考えたモキュメンタリーホラーは、未だに0ポイントです。涙が止まりません。

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